夜の学校に侵入者です

 夜の学校で、謎のヒュウゥゥゥという謎の音が聞こえてくる。

俺と楓ちゃんはピッタリとくっつきながらその音が聞こえてくる方向に向かって廊下を歩いていた。


謎の音とか怖いし早く帰りたいんだが、出口の方向と音が聞こえてくる方向が一緒だから仕方ない。行くしかないのだ。


ドキドキしながら、どんどん音が大きくなっていった。



 そして、音の正体がわかる場所に到着した。

廊下の窓が一部開いていた。そこから風が吹き込んできて、ヒュウゥゥゥと音を立てている。この音が謎の音の正体だった。



「窓が開いてるね。閉め忘れたのかな」


楓ちゃんは窓をピシャッと閉めた。さっきの蛾も、おそらくこの開いている窓から侵入してきたのではないだろうか。

窓を閉めたあと、楓ちゃんは窓の外を見て少し表情が真剣になった。



「……涼くん、もしかしたらこの校舎に侵入者がいるかもしれない」


「侵入者!?」


「うん、窓の外を見てよ」



俺も窓の外を見る。

確かに窓の近くの土に足跡がいくつも残されていた。窓の近くに集中して残っており、不自然な感じだ。



「外部から入ってきたのか……? まさか泥棒? それとも変質者?

女子校だし中に入ろうとする変態がいてもおかしくはない……」


「ううん、侵入者といってもウチの学校の生徒だよ。この足跡はウチの制服のローファーだもん」


「あ、そうなの?」


「それに外部からの侵入者はまずない。ウチの学校セキュリティは万全だからね。警備員のおばさんたちもいるし、敷地内に入ったら警報鳴るようになってるし。

まあ、私ん家の方がセキュリティは強いけどね」


「へぇ、楓ちゃんの家に住んでるのにセキュリティのことは知らないな。どんなセキュリティなんだ?」


「私の家の敷地内に一歩でも足を踏み入れた者は電撃で黒焦げになるようになってるよ」


「怖ぇ……」


さすが中条グループ、防犯対策もトップクラスか。楓ちゃんが一緒じゃないとあの家に出入りできないということだな。



「とにかく、こんな時間にこの校舎に生徒がいる可能性がある以上、生徒会長として見過ごすわけにはいかないな。私ちょっとこの校舎を見回りしようと思うんだけど、いいかな? 涼くん」


「楓ちゃんがそう言うなら従うよ。ペットだからな」



本音を言うとメチャクチャ怖いけどさ。でもさっき楓ちゃんが言ってたように俺も2人でいると楽しい気持ちが強いんだ。どこにでもついていこうと思わせてくれる魅力があるんだ、楓ちゃんには。



 というわけで楓ちゃんと2人きりで夜の校舎内を探索することになった。

スマホのライトをつけて階段を昇り、廊下や教室を歩き回る。


しばらく見て回ったけど今のところ不審な人物はいない。

まあそりゃそうだろう、根拠が足跡だけじゃ校舎に誰かがいると断定するには弱い。楓ちゃんの気が済むまで付き合うけどさ。



「あ、ごめん涼くん」


「なに?」


女子トイレの前を通った時、楓ちゃんがモジモジした仕草を見せた。可愛い。


「ちょっとトイレ行ってくるね」


「あ、ああ」


夜の学校で一時的とはいえ1人になるというのは心細いし怖いけど、行かないでくれとは言えるわけないよな。トイレを無理に我慢するのは絶対によくない。


「ちょっと待っててね。でもここでジッと待つんじゃなくて、このあたりも探しててほしいな。発信器ついてるから涼くんがどこにいても居場所はすぐにわかるし」


「ああ……」


そこは『怖いからすぐそばで待っててほしい』って言うところじゃないのかな、とちょっとだけ思ったり。

やっぱり虫以外は怖くないのか。夜の校舎に女の子1人でトイレするの全然平気なのか楓ちゃん。

いや待てよ、トイレの音を聞かれたくないってパターンかもしれない。空気を読んでそっと女子トイレから離れるか。



楓ちゃんがトイレに行ったのでその間も俺は1人でこの階をうろつく。内心ガチで震えまくりながら。


あ、ここ、2年B組の教室じゃないか。楓ちゃんのクラスだ。ここはまだ見てない。


……いや、まさかここに誰かいるなんてことは……

いやいや、ないない。いるわけないだろ、ははは……


気楽な気持ちで2年B組の教室を恐る恐るそーっと覗いてみる。



「―――!?!?!?」



真っ暗な教室内に複数の白い光が!?

ひ、人魂!? 人魂だ!!!!!!



「わああああああ!!!!!!」


「ぎゃああああああ!?!?!?」



俺は叫ぶ。それとほぼ同時に、教室内からも悲鳴が聞こえてくる。

……ん? この声、聞いたことがあるような……

そして白い人魂がこっちに近づいてくる。



「や、安村!?」


「堀之内さん!?」



教室内の暗闇から出てきたのは堀之内さんだった。

人魂だと思っていたのはスマホのライトだった。ていうか自分もスマホのライトつけてるんだから気づけよって話だった。


堀之内さんもこのクラスだった。でもなんでこんな時間に堀之内さんが教室にいるんだ!?

いや堀之内さんだけじゃない。スマホのライトは複数あった。

堀之内さんの仲間、取り巻きの女子が3人いた。



「なんだよ安村、ビビらせるんじゃねぇよ。なんでお前がこんな時間に……」


「それはこっちのセリフだよ! こんな夜遅くに女の子が何やってんだ、危ないだろ!」


「フン、あたしを誰だと思ってんだ。このへんじゃそこそこ名の売れた不良だぜ?」



そうか、そういえば不良だったな……夜の学校に忍び込んで仲間とたむろしてたってことか。なかなかのワルじゃねぇかこいつら。名門お嬢様学校の生徒なのにこいつらすげーワルだ。

窓を開けておいたのも、あの足跡も、こいつらが犯人だったのか。



「……で、安村はなんでここにいるんだ?」


「ああ、俺は楓ちゃんと一緒に見回りを……」


「なにィ!? あのデカパイ女も来てるのか!?」


「ああ、今はトイレに行ってるけど……」


楓ちゃんの名前を出した途端、堀之内さんの目に動揺が見えた。堀之内さんにとって楓ちゃんはガチの天敵だからな。



「チッ、おい安村! あたしたちがここにいることはデカパイ女には黙っててくれ! この教室には来させるな! なんとかごまかしてくれ! 頼む!!」


堀之内さんは両手を合わせて俺に懇願するようにお願いしてきた。


「いや、そんなこと言われても困るんだが……」


「マジで頼む!! そうだ、じゃあこうしよう! 黙っててくれたら、あとでイイことしてやるぜ?」


「な、なんだよイイことって……」


「……それを女に言わせるのかよ?」



堀之内さんはそう言って制服のボタンを一つ外した。

ま、まさか誘惑してるのか? 楓ちゃんとはまた違った色気と魅力が俺を襲ってくる。俺は慌てて目を逸らした。



「いや、ごめん。約束してるから、楓ちゃんには逆らえないんだ」


「……あたしじゃ不満か?」


「いやそういうわけでは……」



そんな悲しそうな顔しないでくれ堀之内さん。すごく罪悪感が湧いてくるじゃねぇか。


堀之内さんが出した条件は破格のご褒美ではある。でもダメなんだ。

俺は楓ちゃんのペットだから。飼い慣らされてるから。他の女の子からエサをもらうわけにはいかないんだ、いかなる理由があっても。



「とにかくごめん、楓ちゃんを騙すことはできない」


「そんなこと言わずに頼むよ、安村……」


堀之内さんはもう一つボタンを外そうとする。

ちょっ、外したってダメだ、やめてくれ!



「無駄だよ堀之内さん、涼くんは私のペットなんだから。

キミが涼くんを誘惑しようだなんて100年早い」



!!!!!!


堀之内さんは全身が逆立つような反応をした。俺も少しビビった。

いつの間にか堀之内さんの背後に楓ちゃんがいた。トイレに行ってたはずなのに教室内に現れて、堀之内さんの背後を完全に取っていた。



「堀之内さんが不良なのは知ってたけどまさか夜の学校で遊んでるとはね。キミにも授業をしてあげる必要がありそうだね」



その後、楓ちゃんは授業という名の制圧を行った。

堀之内さんとその取り巻き3人を1人で全員倒した。楓ちゃんやっぱり強い……そして可愛いし美しい。


楓ちゃんに見惚れていると、直後に頭を撫でられた。



「堀之内さんの誘惑にも屈しなかったね、偉いぞ涼くん。さすが私のペット」


撫でられてとても落ち着く俺は完全にペットであった。


「でもさぁ、『楓以外の女は無理!』くらい言ってほしかったなって気持ちもちょっぴりはあるかな」


はは……それを言える男はかっこいいな。

今の俺には、それを言える資格なんてないよ。

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