第7章…マッサージ

楓ちゃんにマッサージしてもらうことになりました




―――




 「涼くん、マッサージしてあげるよ」



「…………え?」



楓ちゃん家の夜、夕食後、いきなり楓ちゃんにそう言われて俺は一瞬固まって返事が遅れた。



「……マッサージ?」


「うん。私が、キミに、マッサージしてあげると言ったんだよ」


「どうしたんだ急に」


「ホラ今日の全校集会で涼くんマッサージチェアに座ってたでしょ?」


キミがそうさせたんだろうが。その言い方じゃ俺が全校集会中にマッサージチェアに座るヤバイ奴みたいじゃないか。



「座らせたのは私なんだけどさ、マッサージチェアに座って気持ちよさそうにしてた涼くんを見てなんか違うなーって思った。ちょっとモヤモヤした。

違うだろそうじゃないだろ、マッサージチェアじゃなくてが涼くんを癒してあげなきゃダメだろ、って思った。

つまり私はマッサージチェアに嫉妬して、対抗心を燃やしているんだよ」



マッサージチェアにも嫉妬するのか……難儀だなぁ。

なんかよくわからんが楓ちゃんにマッサージしてもらえるチャンスが到来した。嬉しいけど申し訳ない気持ちも強い。



「楓ちゃん。気持ちはありがたいんだけど、俺は今はそんなに凝ってないから大丈夫だぞ」


前に勤めていた会社がほぼブラック企業みたいなもんで地獄みたいな生活を送っていたから、それに比べたら今の生活は天国にも程がある。だから疲労とかストレスとかは今は特に問題ない。こんなに可愛い女の子と一緒に暮らせてストレスなんかあるわけねぇだろ。たとえペットでも。


楓ちゃんにマッサージしてもらいたい気持ちは大いにあるが、どうせしてもらうならメチャクチャ凝ってる時にしてもらいたいかなって思う。



「涼くん、遠慮しなくていいんだよ。私がしてあげるって言ったらしてあげるの。っていうか私がしたいの。ペットなんだから飼い主の厚意は素直に受け取りなさい」


そうか、ペットは遠慮とかしないか。じゃあせっかくだしお言葉に甘えてしてもらうか。



「わかった。じゃあマッサージしてください楓ちゃん」


「よろしい。じゃあ私の部屋に来てください」


「んんっ!?」


「私の部屋でマッサージしてあげるよ」



楓ちゃんの部屋……だと……

男子禁制な桃源郷で、マッサージを受けてもらえる、だと……!?


楓ちゃんの家に住んでいるがもちろん楓ちゃんの部屋は入ったことない。というか近づいたこともない。普通に考えて入るのは許されないと思っていた。てっきり一歩でも踏み入れたら殺されると思っていた。



「か、楓ちゃんの部屋に入っていいのか……?」


「当たり前じゃん。ペットなんだから部屋の出入り自由だよ。むしろなんで今まで部屋に来てくれなかったの?」


「いや普通に考えて女の子の部屋に勝手に入ったらダメだろ……」


「部屋に入っちゃダメなペットなんて存在しないよ。もしいてもそれはペットとは言えないよ」


そうなのか。ペットなら可愛い女の子の部屋に入り放題なのか。ペット最高かよ。




 というわけで俺は楓ちゃんに連れられて楓ちゃんの部屋の前に来ていた。

ドアにネームプレートがかけられていて、『かえでのおへや』と書いてある。

すごく字が可愛いな。楓ちゃんが小さい頃に書いたのかな。可愛い。


ああ、すごくドキドキする。これから女の子の部屋に入ることを意識してドキドキが加速する。



「どうしたの? 入っていいんだよ、涼くん」


「あ、ああ」



ドキドキしながらドアを開ける。果たして部屋の中は……

……真っ暗だ。今は夜なんだからそりゃそうか。


「ごめんね、今電気点けるから」


楓ちゃんが電気のスイッチを押す。

パッと部屋の中が明るくなった。



「おおっ……!」


部屋の中を見て俺はつい声を出してしまった。

予想してはいたけどやっぱりすごく広い。これだけ広い家でお嬢様の部屋なんだから当然か。


真っ先に目に留まったのがベッド。テレビや映画とかでよく見る天蓋がついたベッドだ。

庶民の俺にはよくわからないがなんかこう、お姫様の部屋って感じのオーラをすごく感じる。


全体的にピンク色が多くて、ウサギのぬいぐるみとかも置いてあって、広い、キレイ、可愛い、3拍子揃っててすごく女の子の部屋って感じだ。


思った以上に可愛い部屋でさらにドキドキする。雲母の部屋もすごく可愛かったけどその部屋に負けないくらい可愛い……

……また元カノのことを思い出してしまった。今は雲母は関係ないんだ。楓ちゃんのことだけに集中するんだ。



俺は緊張でロボットのようにガチガチになりながら一歩、また一歩と楓ちゃんの部屋に足を踏み入れた。



……!!

や、ヤバイ。すごくいい匂いがする。この部屋、楓ちゃんのいい匂いでいっぱいだ。

部屋の中にいるだけで性的興奮が煽られてくる。まずいまずい、エロいことを意識するんじゃない、落ち着け俺。



「じゃあ涼くん、さっそくマッサージしてあげるからね」


ドキッ


そうだ、マッサージを受けに来たんだ俺は。楓ちゃんの部屋に入って眺められただけでも俺的には大大大大満足なのだが、さらにマッサージも受けられるんだ。

俺をどうするつもりなんだ。昇天させるつもりか。



「涼くん、ベッドに寝て」


「ベッ……!? ベッドでするのか!?」


「うん、マッサージは普通ベッドでするでしょ」



もうベッドって言われて俺の脳内はピンク色でしかなかった。ベッドっていう単語自体がもうアレをするイメージが強すぎる。雲母との初体験もベッドだったし、経験の記憶がさらにベッドをいやらしくする。

性行為の想像しかできない。他のことが考えられない。楓ちゃんとあんなことやこんなことをする妄想が次から次へと湧き出てくる。



「ホラ、ベッドだよベッド」


グイッ


「わっ!」



楓ちゃんは混乱しまくる俺の手を掴んで強引にベッドに放り投げた。

ふかふかふわふわなベッドにダイブした。



……!!!!!!

こっ、これは……! ヤバイ。マジでヤバイ……!!


楓ちゃんのいい匂いがする部屋。その部屋の中でも一番いい匂いがするのがこのベッドであった。そりゃそうか、楓ちゃんが毎日寝ているベッドなんだから。


無意識にベッドに顔を埋めていい匂いを吸い込む。いい匂いが俺の中を浄化する……

脳内の映像が再生される。天使の羽が生えた楓ちゃんに優しく手を取られ、天空の世界に誘われる……

楓ちゃん成分の過剰摂取で酔いしれて脳が蕩けてクラクラしてきた。寝心地も最高で気持ちよすぎて気を失いそうだ……

世界一神聖な場所だ。こんな神聖な場所を俺の邪気で穢してるんじゃないだろうかって心配になる。いい匂いすぎて俺の体臭が際立ってすごく罪悪感がある。



「どうかな? 私のベッドは」


「そりゃもうすごくいい匂……あ、いや、すごくふかふかふわふわで気持ちいいよ! 最高のベッドだ!」



ベッド自体の性能もふかふかで最高なんだが、楓ちゃんのいい匂いが幸せすぎてベッドの機能がついでみたいになってしまった。すまんベッド。



「ふふっ、気に入ってもらえたならよかった。涼くんと赤ちゃんをいっぱい作るベッドなんだからね」



ちょっ、お前っ! 必死に我慢してたのに言うな! 言葉があまりにも直球すぎるんだよ!

心臓と股間にトドメを刺すな。デリケートなんだよこいつらは。ものすごく危険なんだから刺激するな。暴走したらどうするんだよ。


なんなんだよ、マジでなんなんだよ。誘ってるのか? 楓ちゃんのおかげでこちとら生殖機能が絶好調なんだぞ。そっちがその気ならいつでもいくらでも……


……狂わされすぎだろ落ち着け、ダメだダメだ、今の俺では責任なんて取れないぞ。楓ちゃんなら養ってあげるとか言いそうだけどそうはいくか。人としても男としても。


「心配しなくても涼くんも子どもたちも私が養ってあげるよ」


ホラ、やっぱり言った。男をダメにすることばかり言う。俺はこれ以上ダメになんてならないぞ。もうすでにダメダメだから。

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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました 湯島二雨 @yushimaniama

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