【完結】山奥で育った転生野性児、都で英雄になる~転生してから15年、今さら暮らしていた場所が難易度SSSランクの超危険地帯だと知りました~

むらくも航

第1話 山奥で育った転生野性児

 「今日ものどかだなあ」


 とある山奥の中、少年アルは両腕を伸ばす。

 晴れ渡る空の下、気持ち良さそうに寝っ転がっているのだ。


 だが、アルが寝ているのは──


「グオオ……」


 自身の何十倍もの体長を持つ、巨大な魔物の上だった。





<アル視点>


「ありがとうね」

「グオォ」


 家に到着して、ここまで運んでもらった魔物の頭をでる。

 魔物は巨大な頭を下ろし、僕は地面に着地した。


 見上げた先にはあるのは、巨大な樹だ。

 

「そういえば、君と出会ったのもここだったっけ」

「グオ」


 ここは今の僕の家。

 そして十五年前、僕がこの世界に転生してきた・・・・・・時にいた場所だ。



────


「おぎゃあっ!?」


 気がつけば、そこは知らない巨樹。


 前世では、僕はずっと病院にいた。

 重い病気で学校にも通えず、ただベッドで生き長らえる日々だった。

 楽しいことはなくて、もし生まれ変わるなら自由に動き回りたいと願って死んだ。


 すると、赤ん坊に転生していたんだ。


「あぅ……」


 大好きだった漫画のおかげで、異世界転生という状況は把握できた。

 でも、魔物がいる山奥で赤ん坊が一人。

 どうなるかは火を見るより明らかだ。


「グオオオ!」


 ──や、やべええええええ!


 餌の匂いを嗅ぎ付けたのか、すぐに魔物がやって来た。

 そんな時に助けてくれたのが、“あの子たち”だった。


──────



 巨樹を眺めていると、僕の中からふわりと何かが浮かび上がる。


『ボクが見つけなかったら死んでたよね~』

「うん。本当に助かったよ」


 背後から浮かんだのは──シルフ。


 半透明の体に、黄緑色の線で形作られている。

 自分が言うには“精霊”らしい。

 助けてもらった“あの子たち”の一体が、シルフだ。


『アルとの生活は楽しいから良いけどね~』

「ははっ、僕もだよ」


 それからは、シルフや他の精霊に助けてもらいながら、なんとか生きてきた。


 たしかに最初は大変だった。

 自分の足で歩いて、自分で食料を確保して、自分で脅威から身を守る。

 前世からは考えられない生活だ。


 でも、そんな自給自足の生活は、前世よりずっと楽しかった。


「魔法もあったし」


 僕は、手の上に小さな竜巻を起こす。


 これはシルフから力を貸してもらっているんだ。

 この世界では、精霊から力を借りることで魔法を発動できる。

 僕の魔法がどれだけ強いかは分からないけど。


 ──そんな時、ふいに空から気配を感じた。


「ゴアアアアアアッ!」

「あれはワイバーンくん!」


 ワイバーン。

 大きな緑色の体に、長い両翼を持った巨大な竜だ。

 名前はシルフから教えてもらった。


「ゴアアアッ!」


 ワイバーンはたまに僕の家をおそってくる。

 巨大な樹から、おいしい水・・・・・が取れるからだ。

 もっと寄こせと言ってるんだろう。


「もー、前も分けてあげたのに!」


 でも、これは他の魔物にも決まった量を分けている。

 独り占めさせると、他の子達が困ってしまう。

 だったら仕方ない。


「悪い子にはお仕置きだ」

「ゴアアアアアアアッ!」


 ワイバーンは容赦ようしゃなく火を吹く。

 少しでも触れれば身が溶ける(らしい)強力な火だ。

 対して僕は、シルフから貸してもらった力で風魔法を放つ。


「樹が燃えるでしょ!」

「ゴアアッ!?」


 火のサイズに合わせるよう暴風を放ち、軌道を上空へと逸らす。

 樹が燃えると元も子もないからね。

 それから、僕はさらに大きな風を起こす。

 

「また届けに行ってあげるから──」

「ゴアァ……」

「ちょっとおとなしくしてて!」

「ゴアアアアアアア!」


 僕の暴風はワイバーンごと吹き飛ばし、遥か彼方へ向かって行く。

 ワイバーンの家はあの辺だったはずだ。

 

「もー、わがままなんだから」

『ははは。アルは相変わらず容赦ないね……』

「この山の魔物がちょっと荒いからだよ」


 ちなみに、この光景は日常茶飯事。


 今日はワイバーンくんだったけど、昨日はバジリスクちゃん。

 その前はヒュドラさんだったっけ。

 この山の魔物はちょっとだけ・・・・・・凶暴らしい。


「魔法も疲れるんだけどな」

『は、ははは……』


 でも、魔法や身体を鍛えたおかげで、魔物は脅威きょういに感じなくなった。

 強さは分からないけど、それだけで十分だと思う。


 そして、気になることと言えば、もう一つ。


「ところで、本当にこの世界に人間っていないの?」

『い、いないよー?』

「……またその言い方」


 シルフをじっと見ると、ぴゅ~と下手くそな口笛を吹く。

 なんか誤魔化ごまかしているように感じるんだよなあ。


「僕も人間だったから友達がほしいんだよ」

『ふ、ふーん……』


 精霊には前世のことを話している。

 今と同じ人間という種族だったけど、病気で動けなかったこと。

 だから今世では友達がほしいということ。


 でも、シルフたちはかたくなに話してくれない。


『アルにはボクたちがいるじゃないか!』

「それはそうだけど……人の友達もほしいよ」

『やだやだ! アルはボクたちとずっと一緒にいるんだ!』

「わ、わかったよ……」


 普段とても穏やかなシルフは、この話題になると様子が変わる。

 ここまで隠すのには、何か理由があるのかな。

 まあ、この話はまた今度にしようか。

 

 ──と、そう思っていた時。


「「「ぴーぴー!」」」

「これは……!」


 バサバサっと音を立てて、大量の鳥が飛んでくる。

 あの色は、山のふもとの方の子達か。


「何かあったの!」

「ぴぃー! ぴぴぃー!」


 鳴き方が普通じゃない。

 緊急事態の時のしらせだ。


「すぐに行くよ! シルフも!」


 僕はすぐに駆け出す。

 でも、何かを感じ取ったシルフは目を見開いた。


『この気配は、まさか……!』

「え?」

 

 この後、僕は知ることになる。

 この世界にも人間がいるということを。


 そしてこれが、僕の“始まり”とも言える出来事だった──。

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