こんな記事を見つけた

曰く

俺の話


これを読んでるお前に、忠告しておく。


俺はこの話を誰にも話すべきじゃないと分かっているけど、もう耐えられない。だからここに書く。もし信じても信じなくても、それはお前次第だ。


俺には双子の妹がいる。名前は仮に咲良となずけよう。俺たちは昔から一緒に過ごしてきて、まるで鏡を見るような存在だった。だが両親が死んで最近、俺たちの関係はどんどんおかしくなっていたんだ。些細なことから喧嘩になることが増え、特にあの生活費をつぎ込んでチケットを買った時から、さらに悪化した。


超高額な旅行チケット。咲良が手に入れたそのチケットは、俺たちの間に決定的な亀裂をもたらした。咲良は、一緒に行こうと強く言ってきた。でも俺は、そのチケットを一人で使いたかった。俺には、やりたいことがあったんだ。だけど咲良はそれを理解してくれなかった。


「どうして私と一緒に行けないの?」


その問いかけに、俺はどうにも答えられなかった。咲良の瞳は怒りで燃えていた。言い争いはエスカレートし俺は耐えられずに家を出て、気がつけば手にチケットを持っていた。


数時間、町をブラブラして俺は咲良と一緒に行くことを決意し夕方、自宅に戻った。


家に帰りついたとき、すでに日が落ちていて、家の中は異様に静かだった。ドアを開けて玄関に入ると、普段聞こえるはずの音も何もなく、まるで時間が止まっているかのような感覚だったんだ。


リビングに入ると。咲良がそこに立っていた。


「……咲良?」


そう思った。けれど、そこにいたのは俺自身だった。髪型も服も、すべてが俺と同じ。そして、その目には見たことのない冷たい光が宿っていた。足元には頭から血を流しているもう一人の自分が転がっていた。


「なんで…?」そう発せられた、もう一人の自分の声は震えていた。


その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。恐怖と混乱、そして何か激しい怒りのようなものが俺を支配した。今、こいつは殺したばかりなのだ。こいつは侵略者だ。ここは俺の家で、この世界は俺のものだと、そう思わずにはいられなかった。


気がついたとき、俺は手にしていたんだ――テーブルにあった重いガラスの灰皿を。そして次の瞬間、俺はそれをもう一人の自分に向かって振り下ろしていた。


鈍い音がして、もう一人の俺はゆっくりと崩れ落ちた。床に広がる血、倒れた“もう一人の自分の姿を見て、恐怖と共に何かが胸の奥で静かに折れた感覚がした。俺は膝をついて、その場で震えていた。


静寂が戻り、耳に届くのは自分の荒い呼吸音だけ。目の前に横たわる存在はもう動かない。そう。俺は自分が何をしたのか分かっている。でも、どうしようもなかったんだ。この家にいるのは、俺だけでいい。俺が“本物”で、ここにいるべきは俺だけなんだ。


今では普通に生活を続けている。だが、時々思うことがある。俺は本当に“本物”なのか?あのとき殺したのは咲良だったのか、それとも俺自身だったのか?


ただ一つ確かなのは、俺がまだここに生きているということだ。でも、もしこれを読んでいるお前が“自分とそっくりの誰か”に出会ったら、逃げろ。それは本物じゃない。そいつはお前の全てを奪おうとしている――俺がそうだったように。


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