2章 8話『地理プリントNo.9』

タクミは、仲間たちとともに古びた遺跡の探索を続けていた。薄暗い洞窟の中、光源となるランタンの明かりがかすかに揺れ、ひんやりとした空気が彼らの肌を撫でる。先を行くラズールが突然立ち止まり、足元の崩れかけた岩に気づいた。


「気をつけて、ここは危ない!」ラズールが叫ぶが、その瞬間、彼の足元から崩れた岩が転がり落ちていく。


後ろから追いかけていたエリカがそれに気づき、急いで止まろうとしたが、足を滑らせてしまった。「あっ!」エリカの悲鳴が洞窟内に響く。タクミはその声を聞いて急いで振り返る。


「エリカ!」タクミが叫ぶと、彼女は何とか踏みとどまろうとしたが、バランスを崩し、ラズールの方へ向かって転がり込んでしまう。二人はお互いの目を見つめたが、次の瞬間、足元の崩れた岩のせいで二人とも土台を失い、深い穴に落ちていく。


タクミは瞬時に状況を理解し、すぐに彼らのもとへ駆け寄ろうとした。しかし、彼が進もうとした瞬間、もう一人の仲間であるケンが「待って、タクミ!」と叫び、タクミの腕を掴む。


「助けに行く!」タクミは叫ぶが、ケンは目を見開いて必死に彼を引き止めようとした。「一人で行ったら危ない!」


その言葉が終わるか終わらないうちに、ケンの足元の岩も崩れ、彼自身も後ろに倒れ込み、タクミの方へ引きずられてしまう。タクミは二人を助けようと手を伸ばすが、間に合わず、彼らの姿は次第に薄暗い穴の奥へと消えていった。


「うあああああ!」タクミは自分の声がどれほど絶望的であるかを理解していた。三人の仲間が、彼の目の前で消えていく。心の中で何かが崩れ去り、彼はただ立ち尽くすしかなかった。


洞窟の静寂の中、彼は耳をすませる。仲間たちの声はもう聞こえない。彼の心に、何かが深く刺さった。タクミは、仲間を失ったショックで頭が混乱していた。薄暗い洞窟の中、彼は一人ぼっちになったような感覚に襲われた。ラズール、エリカ、ケン—彼らの顔が心の中に浮かび、彼の胸を締め付ける。


「どうして、助けられなかったんだ……」タクミは自分を責め続けた。彼の心の奥深くにある罪悪感は、次第に彼を飲み込み、まるで暗い海に沈んでいくような気持ちになった。周囲の音がすべて遠くなり、自分の心音だけが耳の中で響いているようだ。


「おい、タクミ、大丈夫か?」誰かが彼の肩を叩く。タクミは振り向くが、そこには誰もいない。彼の目の前に現れるのは、消えた仲間たちの影だけだった。彼らの声が耳の中で反響する。「助けて……」それは彼の心に根ざした呪いのようだった。


その後、タクミは遺跡を出ることもできず、周囲を彷徨い続けた。心の中の闇が増し、彼は次第に自分を見失っていった。空腹を忘れ、疲労を感じることもなく、ただ無心で歩き続けた。


ある日、洞窟の奥で彼はふと立ち止まり、空を見上げた。小さな隙間から漏れ込む光は、彼にとってまぶしすぎるものだった。その光を浴びると、まるで自分が燃え尽きてしまうかのような気持ちになった。


「お前らがいなくなってから、俺はどうすればいいんだ?」タクミは声を絞り出したが、返事はない。ただ、薄暗い洞窟の奥に自分の声が響くだけだった。彼はそのまま座り込み、頭を抱えた。思考は混乱し、仲間たちの笑顔が脳裏に浮かんでは消える。


数日が経つにつれて、タクミの心はますます病んでいった。彼は夜になると仲間たちの声が聞こえるようになり、彼らが自分に助けを求めていると感じた。彼の脳内では、仲間たちが生きているかのように思えた。


「お前を助けに行く!」その声は、タクミ自身のものであり、同時に彼の心の中に生まれた妄想でもあった。彼はランタンを持ち、再び洞窟の奥へ進んでいく。彼の目は虚ろで、手は震えていた。


「どこだ、どこにいるんだ!」タクミは叫び続けた。冷たい壁が彼の声を吸い込み、響き返す。「エリカ!ラズール!ケン!」


その時、タクミは気を失い、膝をついて崩れ落ちた。意識が遠のく中、彼は夢の中で仲間たちと再会する。しかし、その笑顔はどこか遠く、彼に手を差し伸べることはなかった。


タクミは自分が何を求めているのかもわからなくなっていた。ただ、彼の心の中で渦巻く絶望感が、彼をさらなる孤独へと追いやっていく。


その日、彼は暗い洞窟の奥で目を覚ました。目の前には仲間たちの影が見える。彼は立ち上がり、影の方へと向かう。「待って、待ってくれ!」


しかし、その影はいつも消えてしまう。タクミは無限のループに閉じ込められたように感じた。彼の心は崩れ去り、仲間の記憶が彼を支配していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る