1章 4話『キャッハーー』
タクミは、仲間たちと共に剣の修行を行いながら、少しずつ自身の力に自信を持つようになっていた。しかし、心の奥には不安の影が消えずに残っていた。それは、彼の前に立ちはだかる暗黒の王国に対する恐れだった。
その日の訓練が終わると、タクミはひとり、森の奥深くへと足を運んだ。彼は静かな場所で、自分自身と向き合う時間を持ちたかった。木々の間を抜ける風の音と、鳥のさえずりが心を落ち着けてくれる。だが、彼の心の中には、暗黒の王国の影がずっとつきまとっていた。
「タクミ、どこにいるの?」その時、ミリアの声が背後から聞こえた。振り返ると、彼女が心配そうな表情で立っていた。
「少し考え事をしてただけだよ。」タクミは笑顔を作りながら答えたが、その表情はどこかぎこちない。
「最近、ずっと悩んでるみたいだけど、本当に大丈夫?」ミリアはじっと彼の目を見つめていた。彼女のその視線に、タクミはつい心の内を明かしてしまう。
「俺、暗黒の王国と戦う自信がないんだ。仲間たちを守れるかどうかも不安で……」
「タクミ……」ミリアは優しく彼の肩に手を置いた。「私たちは一緒にいるから、あなたが不安になる必要はないよ。私も、ロウやユウリも、あなたを信じている。」
その言葉に、タクミは少しだけ安心した。しかし、心の奥では、暗黒の王国がもたらす恐怖が消えることはなかった。彼は自分の運命を受け入れなければならないと感じていたが、まだその勇気が足りなかった。
「ありがとう、ミリア。もっと強くなれるように頑張るよ。」タクミは心の中で決意を新たにした。ミリアの笑顔が、その背中を押してくれるように感じた。
その日の夕方、タクミたちは宿営地に戻ると、ロウとユウリが待っていた。彼らは火を囲みながら、これからの作戦について話し合っていた。
「今晩、暗黒の王国の動きに関する情報を集めに行くつもりだ。」ロウが言った。「俺たちの戦力を把握するためにも、情報は重要だ。」
「でも、危険じゃない?」タクミは心配になり、声を上げた。「もし見つかったら……」
「心配はいらない。」ユウリが笑いながら言った。「俺たちは気配を消す術を使うから、バレることはない。」
タクミはその言葉に安心したが、それでも胸の高鳴りは収まらなかった。彼は仲間たちを守るために、自分も役に立たなければならないと考えた。
夜が訪れ、月明かりの下、タクミたちは暗黒の王国の拠点へ向かう。周囲の静寂が、彼の心を不安で満たしていく。暗闇の中で歩く彼らは、まるで獲物を狙う猛獣のようだった。
「静かに、声を潜めて。」ロウが低い声で指示を出した。彼らは気配を消しながら、王国の拠点に近づいていく。タクミは、自分の心臓の鼓動が大きく響いているのを感じていた。
ついに、暗黒の王国の拠点が目の前に現れた。厚い壁に囲まれた城塞が、不気味な雰囲気を醸し出している。タクミは息を呑んだ。
「これが、暗黒の王国の拠点か……」彼はその光景に圧倒されながら呟いた。
「やっぱり、大きいな。」ユウリが目を輝かせて言った。「これだけの規模だと、敵の数も相当多いだろうな。」
「気を引き締めて。」ロウが言い、そのまま動き始めた。タクミも後に続くが、どうしても不安が消えなかった。彼は本当に仲間を守れるのだろうか?
隠れながら進む彼らは、城塞の周囲を探り、警備の様子を観察した。まもなく、彼らは警備が手薄な場所を見つけた。
「今がチャンスだ。行こう。」ロウの言葉に、タクミは緊張感を抱えつつも、仲間たちと共にその場所を通過した。薄暗い通路を進み、彼らはついに城内へと足を踏み入れる。
中は静まり返っていた。タクミたちは互いに顔を見合わせ、決意を固める。彼らは敵の情報を集めるために、手がかりを探さなければならなかった。
「情報を探す前に、周囲を確認しよう。」ロウが提案し、彼らはそれぞれ分かれて行動を開始した。
タクミは通路を進み、部屋の扉を慎重に開ける。中には、机の上に資料が山積みになっていた。彼は胸の高鳴りを感じながら、その資料に近づいた。すると、背後から誰かの気配を感じ、思わず振り返った。
そこには、黒いローブを纏った敵が立っていた。タクミは驚きと恐怖に襲われたが、すぐに自らの剣を抜いた。彼は心の中で叫ぶ。「俺は、仲間を守るんだ!」
敵はタクミの姿を見て驚いた様子だったが、すぐに攻撃態勢に入る。タクミは恐れを振り払うように、敵に向かって突進した。剣を振りかざし、彼は全力で攻撃を繰り出す。
「タクミ!」その瞬間、ミリアの声が耳に響いた。彼女が急いで駆けつけてきたのだ。
「後は任せて!」ミリアは剣を抜き、タクミの背後で敵に向かって斬りかかった。彼らは力を合わせて戦うことができる。タクミは心強さを感じ、敵に向かって攻撃を続けた。
だが、敵の数は思った以上に多かった。周囲にはさらに敵が現れ、タクミたちの周りを囲んでいく。「まずい、逃げないと!」タクミは心の中で叫びながら、仲間たちと共に後退を始めた。
「こっちだ!」ユウリが道を指し示した。タクミたちはその方向に向かい、敵の攻撃を避けながら走り出す。逃げる途中、タクミは自分の力が仲間を守るには足りないと痛感した。
「俺は、何をしているんだ!」彼は自分に問いかけた。逃げることしかできない自分が、果たしてこの戦いに何の意味があるのかと考えた。
しかし、仲間のために逃げることもまた、彼の役割であることを忘れないでいた。彼は再び剣を構え、仲間たちと共に戦うことを決意した。
「一緒に行こう、みんな!」タクミは叫び、仲間たちを鼓舞した。彼は、彼らを守るために最後まで戦うことを誓った。
彼らはついに、出口を見つけて脱出することができた。外に出た瞬間、タクミは自由を感じ、同時に心の中の不安も少しずつ薄れていくのを感じた。
だが、彼らの前には、再び暗黒の王国の脅威が待ち受けていた。タクミは決してあきらめず、仲間たちと共に運命を切り拓くことを誓ったのだった。
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