第5話 グリフォンの肉




「出発は明日にしよう」


カイの一言で予定が決まった。




その言葉を聞いてクロムは思考の片隅にあった好奇心を発揮した。


「爺さん、グリフォンって食べられるのか?」

「ん、はて、どうだったかな」


オリヴァー爺さんが懐から小さな書記を取り出した。


「一部地域では食べられていたらしいの」

「……そうか」


クロムの眼の色の変化をカイは見逃さなかった。


「どうやって捌くつもりなんだ」

「これで」


昼間の戦いで使用した槍を持ち上げた。


「それ斬るのに向いていないと思うが……」

「……大丈夫な気がする」

「おお!なにやるんっすか?」


キツネネがどこからともなく現れて首を突っ込んだ。


「グリフォンの解体……」

「面白そうっすね、団長!」

「「団長はあっち」」


カイとクロムは同時にお互いを指さした。


「お前だろ」

「そうなのか」

「自覚なかったのか?」

「だってカイが色々と仕切ってるだろ」

「そりゃそうだがな……それは適材適所ってやつだ。でもな、人の上に立てる奴はそういない、しかもそれが『そいつに付いていきたい』って思わせられるているのは希少だ」

「……なるほど、でもそれは成り行きもあるだろうし今回はみんな奴隷から解放されて故郷に帰る道すがらだろ?」

「……まあ、そういう奴もいるだろうな……だけど、おれはお前に付いていくって決めたんだぜ」


焚火を見つめて心情を吐露するカイ。


「……ならみんなを送り届けたら希望者で傭兵団でもやろうか?」

「ッハハ、いいなそれ!」


カイは爽やかに笑った。


「っちょーとお二人さん、オレを忘れていませんっすか?」

「いたのか」

「ひでぇっすよ」

「悪い悪い」

「オレもそれに参加するっす!」

「そうか……よろしく」

「軽いっすね」

「いいんだよ、コイツはこれで」

「っすね」

「ほほ!いいの~青春じゃ」


話を聞いていたオリヴァー爺さんが朗らかに頷いていた。

話が盛大に逸れたがクロムは忘れていない。


「爺さん、グリフォンの解体方法、知ってるか?」

「む、すまんの、専門ではないので分からぬ」

「……そうか」

「じゃがの……ここはグリフォンの生息地。ひょっとすれば食する文化があるやもしれぬぞ?」

「確かに、オレ聞いてくるっすよ!」


キツネネはとても速いフットワークで村の奥に消えていった。




「連れてきたっす!」


額に汗して駆け足で帰ってきたキツネネの後ろには村人が一人。


「こちら狩人のヤーさん。ここら辺一帯の森で狩りしてるらしいっす」

「さっきも言ったがな……俺の専門は鹿やウサギだ、モンスターの中でもデカい方のグリフォンなんて今日見たのが初めてなんだよ!」

「まあまあ、そこをなんとか……」


キツネネのにっこりとして人懐っこい顔に、


「ま、まあ出来るだけは助けてやるが……」


ヤーさんは押し負けてここにいるようだ。


「そんじゃ、はじめよう」


クロムの一声でグリフォンの死体を囲む。


「まずは──」


鳥には当然、羽根が生えている。

まずはそれをどうにかせねばいけない。


普通であれば湯漬けして羽根を毟りやすくする工程を踏む。



グリフォンは大きいので──


「──まずは解体して、部分的に湯漬けしていくほうがいいだろうな」


ヤーさんが説明してくれた。


「わかった」


血抜きの済んだグリフォンの身体を広げて斬りやすくする。


「どう切ればいい?」

「んーすまんな、鳥は分からんのだが…恐らくここをー」


不安そうな顔つきでそう箇所を示してくれた。


「とにかくやってみようぜ」

「そうだな」


クロムが槍を回し曲芸師のように軽やかに操作する。

これにはクロムなりに一度で切断した方がいい、という思考があってのことだった。


「あっ!ちょっと……」

「ん?」


カイがキツネネのほうを振り向く。


「それは……ここを沿うほうがいい、と思うっす」

「ああ!なるほど」


ヤーさんはその説明で理解したようだ。


「たしかにその方が肉の部分が大きく取れるな!」

「ふーん、お前やけに詳しいようだな」

「ははは……実は」


キツネネはしまった、という顔をしながら観念した。


「実家がモンスター解体業をやってまして……」

「なるほどな…なんでそれ隠してたんだ?」

「だってなんだか、恥ずかしかったんすもん!」

「恥ずかしいっておまえ……まあいいや、ならここからは任せていいな」

「うっす、任せてください!」


キツネネは開き直り、拳をグッと込めて気合を見せた。


「そんじゃ、団長ここに沿ってお願いしますっす!」

「わかった」


その指示通りを聞いて槍を回し威力を高めていく。


「い、いや、団長そんな木っ端微塵にするんじゃないっすから刺したあとゆっくり這うように刃を通していってくださいっす」

「……そうか」


槍を落ち着かせて、

槍の穂先をグリフォンの足の付け根にそって入れていく。


「そうっす、いい感じっす」


奇麗な断層の切れ目が生まれた。


「次はここの関節を外すんすが、いけます?」

「ああ、関節を外すのは得意だ……」

「……?、そうだったんすか」

「あー……忘れてくれ」

「了解っす」


傍から見れば少年が必死になって、

グリフォンの足を持ち上げている様子。


だが恐ろしいほどの膂力を秘めたるその成長期真っただ中な体から、

発っせられた力によって簡単に大型の鳥類の関節外された。


「おお……すげぇっすね、やっぱり」

「お前たちの団長は人間か……?」


ヤーさんの他意の無い当然の疑問。


「それは……今オレも怪しくなってきたところっす」


キツネネも半分冗談交じりに返した。



「んじゃ、これは湯漬けしていくべ~」


クイマは湯漬け用の大きな鍋を用意してくれていた。

他の元闘士たちと一緒に大きな部位を運び鍋に放り込む。


「結構湯に入れる時間間違えると皮ごとつるんと剥けちゃうっすから気を付けて!」

「んだ~」


クイマの緩い返しに、

キツネネは心配そうにその作業を見つめていた。



◇     ◇     ◇


全ての作業が完了した、そしてお待ちかねの肉を焼き始める。


「ん~いい匂いっすね、団長」

「ああ、もう食べていいか?」

「いや、まだ早いっすよ」

「もう少しなんで……」


拳だいに切り分けされたグリフォンの肉をシンプルに焼いていく。

倒れた荷馬車から運び出した炭を利用している。


「おい、まだk──」


カイがしびれを切らしかけたその時、


「ここっす」


肉をひっくり返す。

ジュ~、と肉の香ばしい匂いと、音が周りを包み込む。


「おお~うまいな、流石に肉の扱いはうまいのな」

「なんすか、”は”って!」

「ゴブリンと戦っているとき、一番叫んでいたのお前だろ」


カイは人の悪い笑みを浮かべた。


「む~っす、カイさんは肉を配るの最後っす!」

「えっ!?いや、悪かったって、もう言わないから!」

「もう聞きません!よっし団長肉焼けたっすよ」

「ありがとう」


クロムのさらに大きな肉が乗る。

新鮮なだけあり色合いも良く油が滴り落ちていく。


「どうっすか?」

「うむ、うまい。めっちゃうまいぞ、これ」

「「「「おお~!」」」」


元闘士たちは沸き上がり次々に肉を要求してくる。

その脇でクロムも肉を焼き始めた。


「はいはい、並んで~って、団長料理できるんですか?」

「多少はできる、それにキツネネの焼き加減も見たから」

「お手並み拝見っすね」


赤身の肉が時間経過とともに色を変える。

それは”DEX/Dexterity”によってキツネネのやり方をトレースし、

”AGI/Agility”によって身体能力”五感”が研ぎ澄まされていることで音を検知した。


最適な温度と、最適な音に反応し、肉を返す。


「おお!団長、流石っすね!」


キツネネは驚きと嬉しさで破願した。


「師匠がいいからできた」

「おっ!ふふ、そうっすね!」


一通り肉を配り終え、

村人たちにもおすそ分けする。


「おいら、こんなおいしい肉をたべたの始めてだよ~」

「わたしも~」

「ぼくも~」


村の子供たちも喜んでいる様子を見つつグリフォンの卵を抱えるクロム。


急なグリフォンとゴブリンの襲撃があったものの、

クロムたちが偶然居合わせたことで事なきを得た村はお祭り同然の騒ぎになった。


「おらたちの村の野菜も食べてってくれ~」


と途中から野菜炒めなどもふるまわれた。

夜が深くなるまでその騒ぎは続いた。



だからだろうか……クロムは気付かなかった、

グリフォンの卵にひびが入り始めたことに……。


──────────────────────


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ステータスがカンストしてたら、スキルなんていらない。 新山田 @newyamada

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