鋼の鳥が世界へ飛ぶとき
灰狼
エピソード: - 件
エピソード- 件の日
これはまだあの厄災から二十年の頃。
あの暗殺事件はあの厄災の次に大きな衝撃を私たち人類に与えた。
「エース、そろそろ演説始まるぞ。」
残り二分前といったところだ。私は今まで多くの人を殺めてきた。戦争で何百人も殺してしまった。
しかし、今、私は、大佐として、あるべきことをしなければならない。
これから先のすべてを担って、人生を歩まなければならない。
その責任と義務が私にはある。
「じゃあ、行って来いエース。」
「分かった。あと、今までずっと支えてきてくれてありがとうございました。アレクサンダー教官。」
「お前は俺の教え子の中でも最も誇りに思っているよ。それじゃあ、行こう。」
私はアレクサンダー教官の後に続いて、舞台裏のパイプ椅子から立ち上がり、スーツの襟を整えた。
そして、カメラのフラッシュが輝く舞台に私とアレクサンダー教官は立った。警護のスーツがフラッシュのたびに白く光る。
正面を向き、息を吸った。
その時だった。
ずいぶん向こうに、一瞬、金色の光が見えた。
次の瞬間、演説会場は一気に混沌とした。
隣にいたアレクサンダー教官の脳天を弾丸が貫いたのだ。
「全員急いでエース大佐を守れ!!!!」
警護はみな私の前に防弾スーツケースを展開し、私を守った。
私は教官の死体を見た。
いったい、なぜこんなことにならなければならないんだ…
いや、いつかこうなるのは分かっていたはず。何せ私とアレクサンダー教官があの厄災、ノアの箱舟を企て、実行したのだから。
あの日からずっと恐れていたことだ。それが今ここで…
真っ赤な血が脳天からたらたらと流れる。
「エース大佐!移動します!!」
急かされるようにして舞台裏に戻ると、私の側近が待っていた。
舞台裏のさらに裏、非常路を通って自身の車両のもとに向かう。暗い道を赤い誘導灯がほのかに照らす道は、長く、先が見えない。
「大佐!まもなく抜けます!」
そのまま走り抜けると、目の前には車庫…ではなく別の広場があった。
「これは…どういうことだ。」
後ろをふと振り返ると、レイデンは、拳銃の銃口を私の頭に向けた。咄嗟に私は両手を上げた。
「私は、今まであなたを何回殺そうと思ったことか…」
まさか、あの厄災の何かに関係あるのでは…、いや、間違いないだろう。
「あの厄災のせいで私の家族はみんな死んだ!!、それどころか、大切な友達も、仕事の同僚ですら失った!!
お前は世界を救ったのではない!!更なる混乱をこの世に招いたんだ!!」
自身の側近がこんなことをこんな口調で言うなんて、考えられなかった。彼はいつも私とよく話し、予定の管理等をしっかりとやってくれていた。
だが、きっと彼は、腹の中に真っ黒な何かを抱えていたのだろう。そして今、それが形となって出たのだろう。
「俺は…お前を殺すためだけにこの十年間はずっとやってきた!!…十年だぞ!!たかが一人を殺すために…」
「申し訳なかっ…」
「お前の謝罪などいらない!!死んで罪は償ってくれ!!」
彼は涙を流して怒り続け、引き金に指をかけた。もうあの頃のように若くない。
そして、目を瞑って、膝をついた。
パァン!!
「さすがにそうはさせない!」
「セルヴェール!!良く生きてたな!!」
「警護兵は私以外みな死にました。残ったのは私とあなただけだ。さあ、急いで裏道から逃げましょう、刺客が来る前に。」
私の側近から拳銃と、鍵を取ってから、私達は来た非常路を戻り、反対側にある通路を通り、車庫に向かった。
するとそこには側近が乗っていたアームドスーツがあった。
おそらくテラーバイトだろう。真っ黒な塗装と鋭いデザインに、戦闘機を彷彿とさせるこの機体はかっこいい。
少し大型で、あの厄災の直後に設計された少し古い機体だが、強固でシンプルな設計でまだまだ現役だ。
「さあ、急いで車に…」
「いや、セルヴェール隊長、こいつに乗る。」
「だからレイデンから鍵を取っておいたのか。名案だ。」
体調も隊長自身のアームドスーツに乗り、私はレイデンのアームドスーツに乗った。
そして一気にスラスターを吹かして外に出ると、撃破されたテラーバイトが地面に倒れて火を出していた。
まさにどこかで見た地獄絵図だ。
『急いでここから離脱しよう!』
「ああ、もちろん。言われなくともそうするさ。」
周りを警戒しながら進むと、突然ガシャンと音がした。
前を向くとセルヴェールはいなくなっていた。
「セルヴェール?大丈夫か?」
『大丈夫だ…とでも言ってほしかったか?』
振り返ると、セルヴェールは私にアサルトライフルを向けた。
「な、なぜだ、なぜここまでする?」
『これで済むことをよく思えよ。俺はサイクロン社の元社員だった。しかし、あの日があって、同僚がみな死んだ。
みんなそれぞれいいやつだったのに、お前の独断と、例の教官とやらの提案のせいで全部、土に帰らずに灰になった。』
もうこうなったら仕方ない。言葉が悪いがセルヴェールを少し黙らせる以外手段がない。
武装はこっちにはただのライフル、向こうは多機能ライフルとヒートナイフ。
勝てる気がしないがやらなきゃ死ぬ。一か八かやるか。
スラスターを一気に吹かしてタックルし、腰のナイフを引き抜いて、投げた。
そのまま勢い余って舞台裏に直撃すると、鉄骨や配線が機体に絡まった。
『くそっ。やるな。だがまだまだ。』
いかつい拳が一発、自分の冷却口に突き刺さる。
さらに、サブジェネレーターを拳は貫通し、一つのジェネレーターを完全に破壊した。
出力系統の数値が低下するなか、負けじと私は、近くの鉄骨を取り、メインカメラに突き刺した。
しかし、そのあと弾き飛ばされてしまい、ライフルを取らせる隙を作ってしまった。
まずい。
私は咄嗟に背中のライフルを取って、ライフルを取ろうとする手を撃ち抜いた。
そのまま胴体を狙ったが、そのころにはすでに懐に来られていた。
足をすくわれ、そのまま投げられてしまった。
『さっきはよくもやってくれたな。これで終わらせてやる。』
さすがにまずい。出力が上がらない。
こうなったら…
右腕、サブジェネレーター、パージ!!
これで無駄な負荷がなくなる。仕方ない。
そのままスラスターで立ち上がる。
しかし、もうすでに懐に相手がいる。
私は横へクイックブーストし、そのまま自分の右腕を取ってセルヴェールのコックピットに刺そうとした。
ただ、セルヴェールはさっき投げたナイフを拾い、私に向けて構えてきた。
そのまま、突撃するように、腕を振るとナイフで一瞬で左腕を裂かれてしまい、左のユニットも完全に逝かれた。
さらに、そのまま足もやられた。
まずい。
「くそっ!」
コックピットも今の衝撃で左サイドの液晶が割れ、きらめくガラス体の鋭い破片が、私の足や手に刺さった。
真っ赤な血がシートを汚す中、抗おうと立ち上がろうとするが、出力が出ない。
『悪いな。だが、これで罪を償って来世ではいいやつになるんだな。ま、来世があればだが。』
そのままナイフを振り下ろしそのナイフはコックピットを簡単に破った。
そのまま自分の肺と心臓を貫通し、真っ赤な血が流れ出てナイフを伝った。
だんだんと意識が遠のき、気づけば、あたりは真っ暗になった。
そのあと、エースの葬式が行われたが、そこで事実は曲がってみなのもとに伝わった。
エースは決してこのような暗殺ではなく、途中の車両事故によって死んだと。
セルヴェールはそのあと、企業直属の特殊部隊によって暗殺され、存在しないことになった。
その後、特務機動隊が設立され、アームドスーツによる治安保護が求められた。
アームドスーツは便利かもしれない。しかし、一歩間違えれば戦車よりも強力な凶器にもなることを鑑みれば、当然だろう。
いや、凶器ではかわいいかもしれない。殺戮兵器というべき存在だろう。
あの事件の後、不可解な事件がもう一件起こる。
そう、あれから始まって次の導きの月光の日。その事件は起きた。
唯一、三大勢力衝突時に無事だった機体、フロストバイト。今では第三地区中央戦争博物館に展示されており、人々の人気を博していた。
あの機体にはアウトレイジの極薄装甲が使われていた。今ではアウトレイジはその危険性と未開な部分の多さから使用が禁止されている。
しかし、その機体だけはこの世に残る最後のアウトレイジの機体でかつ、傷がほとんどないものだった。
そんなフロストバイトが突如として起動したのは、その日の夜十時くらいのことだった。
誰もいない博物館で突然フロストバイトが暴れた。その後、施設の外壁を破り逃走。いまだに行方が分からない。
ただ、予想はついており、旧アトラス社、すなわち、インディバル・パーシュート社の本社及び工場にいるのではないかと考えられている。
主にその理由は三つ。
一つ目は身を隠すにはちょうど最適であること。アームドスーツであろうと収容できるように設計されたデッキが大量に残っている。
また、そこは立ち入り禁止区域であり、何が埋まっているかもわからず、不発弾だらけである可能性も否めない。
よって、機動隊が介入しずらい。
二つ目は設備が最適であるということ。アームドスーツの管理においても、食料品、データの管理においても昔の険しい戦場に耐え抜いた。
さらに、予備部品もまだあることが考えられる。
そして、最後が決定的だ。工場が稼働状態になったこと。監視衛星から見ると、毎日何かを生産しているのか、工場が動いているのが確認できる。
自動で勝手に起動したはずがない。そのような自動起動設備はあの工場にはないからだ。
もし、あそこに例のフロストバイトがいるならば、取り返しに行くべきだ。
なぜなら、あの兵器はしっかりまだ機能する。つまり、人が誰か死ぬ可能性が否めないということだ。
だが、一体機動隊は何をしている?いまだに襲撃計画が始まらないとは…
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