ヤンデレ彼氏を甘やかして死亡ルート回避する

ワシュウ

第1話 プロローグ

「生まれ変わってもまた愛してあげますね。何度でもクフフ」


「ぐっ…がっ…ぐぅ……」


「ふふっ君がオレを真っ直ぐ見てくれるのなんていつぶりだろう?あぁその目……君が悪いんだよ?」


「ご…め……」


「ははは、オレこそごめん、奔放な君を許してあげられなくて……でも嫌なんだ、他の誰にも君を奪われたくない!愛してるんですマコトさん」


「っ………」


首を絞められると頭に上った血が下りないから顔が真っ赤になるんだな。苦しくて死にそうな時にそんな事を考えていた


だって体から魂が抜けちゃってるよ俺…


『ってかお前誰だよー!知らないよお前なんか!俺のストーカーかよ、ふざけんなカス!人殺し!

誰かタスケテー!俺死んじゃうよー!イヤー!』


突き飛ばそうともがくがスカスカ当たらない

殺人犯が息絶えた俺の体を揺さぶり始めた


「マコトさん…本当に死んだの?ねぇ、嘘でしょ、そんな…本当に死んだ?あっけない、こんな簡単に死ぬなんて、そんなっ…オレは自分の手でっ…」


ふざけんな!冗談でしたーとかで済まさん!呪ってやる!道連れにしてやる!お前も死ね死ね!おりゃ!おりゃー!


殴る蹴るをするがスカスカする上に、体がふよふよして一回転した


「来世では必ず幸せにしてあげます…貴方がオレを裏切ったとしても、ずっと愛してます…だけどもう"2番目"は嫌だ」


『だから誰だよてめー!殺すぞコノヤロー!』


そしてヤツは俺のネクタイを外して、自分の手と俺の手をグルグル結ぶと恋人繋ぎしだした。繋いだ親指で俺の手を撫でる仕草が何とも気色悪い


ギョッ!何してんだキンモッ


俺の死体の頬を撫でて泣きながら口づけして「死んでも離さない、何度生まれ変わっても愛してます。オレを置いて行かないで」とのたまった上でそのへんにあった石で自分の頭をガンガン数回殴って絶命した。


幽霊になっても死ぬほど恐ろしいと思った

正直、自分の首絞めシーンよりグロくてエグかった…夢に出そうだ、もう死んでるけど


それよりこんな姿を発見されたらホモカップルの無理心中にしか見えない!うぉぉぉ俺はノーマルだ!!

終わった…俺の全てが終わった…もう死んでるけど


残された彼女は自分の彼氏がホモだったと後ろ指差され、実家の両親と姉もただでさえ俺の死で辛い思いをしてるのに…こんなのって無いよ


茫然自失とはこの事だ…

死んで出てきたコイツの魂を引き裂いてやろうかと思ったけど、地面から無数の黒い手が伸びてきてコイツの魂を掴むと何処かに引きずって行った。

目の前にいた俺には目もくれず、ってか見えてなかったっぽい。生きてたらチビる程怖かった


それから俺は死んだのにフワフワ自分の体の周りを彷徨いてた。だって俺の体付近しか見えないんだもん。

白い霧の中にいるみたい


救急車が来てホモ野郎と別々に運ばれてった。

病院で死亡確認され、警察官が来て彼女と両親が来て泣いてた…ボーっとしてる間に葬式になっていた


お経読んでる坊主は幽霊が見えてないんだな、俺はここにいるのに…自分の遺影を眺めてる。姉ちゃんと母さんが泣いてる、彼女は葬儀に来なかったようだ…そりゃそうか彼氏がホモで二股かけてると思ってそうだ


ぐふぅ…涙が止まらない


人の近くに寄らないと話も聞けない、でも聞きたくない!俺はホモじゃねーし!…幽霊ってもっと自由なんだと思ってた不便過ぎない?

俺が入った棺桶が火葬場へ向かう車に乗せられる


そこで俺はようやく体がなくなると何も見えなくなるんだなと実感が湧いてきた。

これが成仏ってやつか、短い人生だったな――



「あのホモクソ野郎!次見たらグチャグチャにしてやる」

「キャッ!?…え何?どうしたの?クソ野郎って誰の事?」


俺の可愛い彼女が隣で寝てた…


「あれ?夢だった?…うぉぉ生きてきたぁ!!今までで一番の酷い悪夢だったよー!エリちゃん聞いてよ俺死んだ夢見てさ―」

「寝言だったの?はっきり言い過ぎてびっくりしたわ。死ぬ夢ってそこまで悪くないんじゃなかった?昔見た雑誌の夢占いがそんな感じだったかも」


彼女がクスッと笑って俺のほっぺにチュッしてベッドから降りて服を着る。

俺は、その姿をぼんやりと眺めていた。

ここは俺の部屋で…今日が……あれ?1年前だ


カレンダーが去年買ったF1のやつだった。今年のは彼女が猫のを買ってきてたはずだ。


彼女は高校の時の同級生で大学は別だったけど、偶然職場が同じだった。短大卒業して就職したから彼女の方が2年先輩で、飲み会の帰り際に「実は高校の時ちょっと好きだったの」とか言われて、2人で駅前のバーで飲み直してベロベロに酔ってそのままホテル行って付き合い始めた


1年前のこの時期だと付き合いたての頃か?


「なあエリちゃん…昨日何してたっけ?」

「え?昨日は総務の飲み会に誘われて行ったじゃない…酔いすぎて記憶とんだの?マコトくん酔っても顔色変わらないから分からなかったわ」

「あー…なんか思い出してきたかも。総務の部長さん結婚したんだっけ?」

「来週が結婚式よ、ふふっ飲み過ぎたね。朝食はパンとコーヒー用意するわ、スクランブルエッグと目玉焼きどっちがいい?」

「スクランブルエッグで」


そうだ思い出した。結婚式には親族しか呼ばないからって先に会社でお祝いしたんだった。

この頃は月に一度程、週末のお泊りデートしてたな…カレンダーをぼんやり眺めて1年前の事を思い出す


……えぇ?夢じゃないの?1年後に俺はホモ野郎に殺される?


背筋に鳥肌が立った。会社帰りに突然襲われて暗がりの路地裏に連れてこまれ…

あのひん剥かれた充血した赤い目に口元がグニャリと歪んで笑っていた。ニキビとかはなく小綺麗な顔だったけど、ホント誰だよ!


めちゃくちゃ力強かった…ゾッ


「誠くん大丈夫?二日酔の薬買ってこようか?」

「大丈夫だよ体鍛えようかな?…でも今日のデートは無理かも」

「うん、映画また今度でいいよ」

「……何見る予定だっけ?」

「ほらヤン・デ・ボユ監督の『バミューダの幽霊船(ゴーストシップ)よ」


あ、思い出した!それちゃんと映画館で見たわ。アクション寄りのホラー映画でグロくないやつ


「映画なら行けそう涼しいし座ってたら平気。エリちゃんと行くの楽しみだったし」

「大丈夫?無理しなくていいよ?」

「大丈夫だよ、それより厚手のカーディガン持って行きなよ?映画館寒いと思うから。帰りも夜は冷えてくるしさ」


覚えてるよ。

10月なのに外は暑くて映画館はよく冷えてた、彼女や他の客もそこかしこから寒い寒いって聞こえてきたんだった…。


それから結末を知ってる映画をぼーっと眺め、彼女はカーディガンあって良かったわとかわいい顔で笑っていた


あ、未来が変わった

映画館を出たら「どこか暖かい店に入りたい」って寒がる彼女の為に近くのモツ鍋屋行くんだけど


「ここの近くにリーズナブルなイタリアンレストランあるんだけど、マコトくんが元気そうなら行く?」

「行く」

「マコトくんはあんまり飲んだらダメよ」

「うん。おすすめは何?」

「鶏もも肉と木の芽を使ったアーリオ・オーリオペペロンチーノです!ピザもブンブン振り回して本格的で美味しいのよ」

「へぇ、料理の名前からしてお洒落そうな店だね。さすが先輩!」

「同い年なのに先輩呼びされると歳取った気になるわね」

「エリちゃん可愛い」


彼女の肩を抱いて歩いたら視線が


ゾクッ…


バッと後ろを振り返る

「今…誰かに見られてなかった?」

「え?気づかなかったわ、どこから?」

「気のせいかな?映画見たから幽霊が付いてきたのかも?背後霊とかさ」

「守護霊じゃなくて?」


人が多くてわからなかったけど、多分見られてた。

俺はいつからストーカーに狙われてたんだ?もしかしたら1年前の今も狙われてるのか?


拭いきれないねちっこい視線が未だにこびりつく。周りを見回しても分からない


未来の死ぬ前の俺は何してた?

確か、彼女とそろそろ付き合って1年だし結婚とか意識しだして…?

あ、転勤だ!来年移動するから遠距離か結婚か考えようってなってたんだ。彼女も仕事が楽しい時期だから遠距離になりそうだったような?…まあ何だかんだ20代前半で結婚とかまだ早いよな。とか俺は考えてたわ


彼女に夢の話は出来ない。ホモ野郎に締め殺されるとか死んでも言いたくないし

リアルな夢だったけどあれは俺の未来だ…

モツ鍋がイタリアンに変わったんだ、未来は変えられる!やってやるよ殺人ホモストーカー野郎

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