ロボット入店禁止のお店

ちびまるフォイ

ロボットが再現できないもの

「ついにここへ来れた……!」


世間の目を盗み、時間を作りタイミングを伺い。

やっと憧れの店に訪れるこの日がきた。


「さあ、ここからが楽園だ!」


すると、入口にはなにやら注意書きが書かれている。



『ロボット入店禁止』



「いやロボットが店に入るわけ無いだろう」


店のドアノブに手をかけたがびくともしない。

押しても引いても動かない。


見かねたように近くのタブレットが音声を流す。


『ご入店のお客様は、こちらで機械じゃない審査をしてください』


「はあ?」


タブレットを見ると、1ピースがかけているパズルがあった。


「こういうのか。まったくどこまでも厳重なんだから」


パズルのピースを、空いたスペースに合わせて移動する。

パズルがはまって完成するとロボットの診断が終わる。


と思っていたが、2問目が始まった。


『写真のうち、横断歩道のパネルをタッチしてください』


「……まだあるのか」


『自動車のパネルをすべてタッチしてください』


『厳重だな』


『レタスの中からキャベツのパネルだけをタッチしてください』


「めんどくせぇな!!」


散々ロボットかどうかチェックをかいくぐると、

入口のドアからガコンとなにか外れる音がした。


「やっと開いた……」


ドアを開けるとそこには楽園がーー。



「こちらで、ロボット検査をします」



「まだあるのかよ!」


店の入口をふさぐように立っているボディーガード。

ふたたびロボットチェックが実施される。


「あの、どうみても俺は人間でしょう?

 うたがいようがないじゃないですか」


「最近のAIの技術はめざましく、

 人間のように話すロボットもいますから」


「ロボットだとそんなに問題なんですか?」


「ロボットなんですか!」

「ロボットじゃないですけども!」


「では証拠を出してください」


「え……? 証拠……?」


「これもロボット診断のひとつです。

 自分で人間である証拠を見せられるなら、

 人間である確率が増えます」


「これは? 運転免許証ですけど」


「こんなの偽造いくらでもできますよ。

 免許証ごときで人間証明ができると思っているのなら

 あなたはずいぶんと周回遅れの時代遅れ野郎ですね」


「いちいち文句言わなくていいじゃないですか!」


「これも診断です。正しい感情反応を見ているんです」


「うそつけ!」


所持品をいくらひっくり返しても、

自分が人間であるという証明には足りない。


スマホの指紋認証だって。

自分の雇用証明書だって。


店の門番は顔を横にふる。


「駄目です。そんなものでは人間の証明になりません」


「くそーー!! なんでだよぉーー!」


ゴールは目と鼻の先なのに。


「それなら、これでどうだ!!」


手元に持っていたボールペンを腕に突き立てた。

あきらかに赤い血が流れているのを見せる。


「どうだ! これならロボットじゃないって証明になるだろう!」


「ダメです」


「うそん!?」


「今どき人口血液搭載のアンドロイドもいます。

 血を流したから人間だなんて発想は古いですよ」


「もうどうしようもないじゃないか!」


「ではひとつだけヒントをあげましょう。

 人間にあってロボットにないものを見せればよいのです」


「だからそれをさっきから見せてるのに、

 あんたがダメだとつっぱねてるんだろう」


「不確かなものだからです。

 どの人間にもあって、ロボットには絶対にないもの。

 それはなにかわかりますか?」


「……あ! そ、そうか!!」


助け舟もあいまって、やっと人間証明の糸口をつかめた。

もう向こう10年は連絡を取っていない母親に電話をした。


音信不通になっていた息子からの電話。

すっかり親孝行デートのなにかだと期待した母親がやってきた。


「たかし、用ってなんなんだい?」


「母さんにはここに立っているだけでいいから」


「ええ?」


親と子。


それは人間にしか成し得ない関係性だった。

どんなにロボットが精巧になっても家族は作れない。


二人を認めたボディーガードは初めてうなづいた。



「認めましょう。あなたはロボットではない」



「やったーー!!」


ついにロボット診断を突破できた。

ボディーガードは心よくドアを開けて店へと招き入れた。



「ようこそ、熟女専門BAR -バブみ- へ! 2名様ご案内!」




もう後ろにいる母親の顔は見られなかった。

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