第3話:魂の国。

「それで俺がぐちゃぐちゃになって死んだ後、賽河原さいがわらちゃんが魂を持って

帰ろうってやって来たんだ」


「違うよ、私は井戸川っちの命を救うためにやって来たの」


「ん?救う俺の命を?・・・なんで?」


私、亡くなる人のデータを前もって調べてからお宅にお伺いするんだけど

井戸川っちの個人データを調べてるうちに・・・その〜」


「なに?調べてるうちに?・・・なに?」


「井戸川っちのことが好きになっちゃって」


「・・・・・・およよ・・・それはまた、衝撃の告白」


「魂、取りに来たって言うより井戸川っちが死なないよう見守るために来たの」

「で私の彼氏になってもらうために・・・・」


「まじで?・・・彼氏だって?待て待て・・・まあ、このさい魂持ってかれるより

彼氏になったほうがいいけどさ・・・」

「それって押しかけ彼女じゃないかよ?」


「だって私、井戸川いとかわっちのことが好きになっちゃったんだもん」


「す、好きになったって?・・・死神が?・・・俺のことを?」


「私、井戸川っちがめっちゃタイプなの」

「だから生きててほしくて・・・忠告することと守るために来たの」


「ああ、これから起きるであろう事故のことか?」


「でも、死んじゃう運命にある人は一時的に事故を回避しても、そのしわ寄せが、

必ずやって来ちゃうんだよね」

「死ぬ人はどんなに災難を避けようとしても結局死んじゃう運命みたい」

「だから、助けられるかどうか自信ないけど・・・」

「でも、井戸川っちが死にそうになったら私、命をかけて守るから」


「どうせ死ぬのに守るって矛盾してないか?」

「だけど今まで、命をかけてなんてそんなこと言ってくれた女の子なんて

ひとりもいなかったな・・・感激しちゃうな」


「世の中の人間の女子は彼氏のことよりいつだって自分が可愛いんだよ」

「もし、私がいなかったら井戸川っちは確実に死んじゃうね」


「うそ〜俺、まだ死にたくないよ」


「分かってるってば、井戸川っちは私が死なせないから・・・」

「私、まだ未亡人になりたくないの・・・だからここに残るね」


「え?・・・未亡人って・・・まだ結婚もしてないじゃん」


「そんなこといいの」

「私、たった今から井戸川っちのクソ狭い部屋で暮らすから」


「暮らす?賽河原さいがわらちゃんが?俺の安アパートで?」


「あのさ、生活必需品とか用意して来てないからね、井戸川っちそのへん

お願いね?」

「あと、服とかブラとかパンツとか替えがいるから・・・買って?」


「買ってって・・・」

「あのさ、さっきもい言ったけど、ここ女子を部屋に入れるのは禁止だからね」


「せっかく魂上他界こんじょうたかいから抜け出して来たんだよ」


「こんじょうたかい?・・・ってなに?」


「魂の国の名前だぴょ〜ん」


「魂の国?・・・そんな国があるのか?」


「亡くなった人の魂を管理して置くところだよ」

「そんなところだけど怖くないからね」

「もしかしたら人間の世界より平和でのんびり過ごせて楽しいかもよ」

「だから、もし井戸川っちがここで死んじゃっても行くところが魂上他界こんじょうたかいって

だけのことだよ」


「魂だけになってるから物理的欲求は必要ないし学校も行かなくていいし

勉強もしなくていいし汗水垂らして働かなくてもいいの・・・」

「そのうち自分の順番が来たら次の世代に転生して行ちゃうからね」


「そうなんだ・・・働かなくていいのはめちゃ魅力的だけど、体がないってのは

イヤだな・・・」


「なんで?」


「だってエッチできないもん」


「男ってそれしか頭にないの?井戸川っち・・・」


つづく。

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