第1章
第1章第1話
─ここ、アロバントリン王国には、1人の英雄がいた。
名はユウタ。
こことは違う世界に生まれ、英雄として召喚された。
だが、ユウタにはスライム一匹を倒すのも相当な時間と努力が必要だった。
包み隠さず言うと、ユウタには勇者としての適正が余りにも無かったのである。
髪はボサボサで、肌も荒れている。口にするのはいつも自分を卑下する事ばかり。
それでも街の人々はユウタに優しく接し、時には助け合い、時には喧嘩し、時には親の代わりとなっていた。
ユウタもそれに答えるように、明るくなっていき、髪や肌を気にするようになった。
そして、アロバントリン王国の『ダンジョン』に潜るまで強くなっていた。
そんなユウタも体力的にも精神的にも疲れる時もある。
そんな時、傍にいて支えてくれたのはカレンだった。
辛い時はいつも励ましてくれ、楽しい時は一緒に楽しんでくれる。そんな彼女にユウタは心惹かれていた。
いや、好きになっていた。
の方が正しいだろう。
「それじゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
ユウタは今日も元気に挨拶をする。
それに答えるのは家族代わりのソルフおじさんだった。
ユウタが『勇者』として召喚された時からお世話になっていた人だ。
だが、ソルフおじさんはユウタを『勇者』ではなく、1人の『人間』として見てくれた。
ユウタは、そんなソルフおじさんに家族として好意を寄せていた。
誰もが自分を『勇者』として期待されていた中で、『人間』として見てくれたからであろう。
「あっ!ニヤカト兄さん!おはよう!」
「おお!ユウタ。今日も元気一般だな」
ニヤカト兄さんとは、ソルフおじさんの家から近くにあるショップで働いている、見るからに好青年なイケメンだった。
肌や髪を綺麗にする時も、ニヤカト兄さんに手取り足取り教えて貰ったものだ。
「何か買っていくか?」
「そうだなー…。ポーションをお願い!」
「よし!分かった!」
ニヤカト兄さんは少し店の奥に行ってポーションを取った。
「お代は300ゴールドだ」
「はい」
「おっ、きっちり渡してきたな。やっぱり、ユウタは細かいよな」
「細かい男は好かれるって言ったのは誰かな」
ニヤカト兄さんはふっと笑う。
もちろんニヤカト兄さんが適当に教えたものだが、ユウタがちゃんとそれをやっているのをまておかしくなったのだろう。
「そうだな、そんな事も言ったな」
そう呟き、まぁいいや。とユウタを見送った。
「おーい!ユウタちゃーん!」
「あっ、ハナタおばさん」
「おばさんとはなんだい。おばさんとは」
「ハハッ。ハナタさん、冗談ですよ」
「嫌な冗談だね。ますますニヤカトに似てきたよ」
この人はハナタおばさん…。ハナタさんである。年齢を気にしているのか、おばさんと呼ばれるのを嫌っている。
ハナタさんもまた、果物屋さんを営んでいる。
「それより、なんか買っていかないかい?」
「そうですね。小腹が空いた時に食べれるようなのをお願いします」
「あいよ」
そうして、ハナタさんはリンゴのようなのを3個入れた。
「ほら、40ゴールドだよ」
「えっ、3個で60ゴールドじゃないんですか」
「オマケだよ、オマケ」
「いやいや、頂けないです!」
「なら、カレンちゃんにあげな」
そうハナタさんが言った瞬間、ユウタの顔はリンゴのように赤くなった。
ハナタさんはそれを笑うかのように言った。
「全く、ものすごく分かり易いんだから」
「う、うるさいです!はい!40ゴールドてをす!」
「ありがとさん!」
そしてユウタはなるべく早足で行った。
「あれっ?ユウタ。おはよう」
そう可憐な声でユウタの横から姿を表したのはカレンだった。
だが、今のユウタにはカレンにいつもどうりに接しる自信が無かった。
「おはよう…」
「どうしたの?元気無いみたいだけど、」
そう言って顔を覗いてくる。
顔が真っ赤なのを察されたくないユウタは反射的に顔を逸らしてしまった。
しかし、それが良くなかった。
カレンはその行動を見て、ユウタの顔を押さえて自分に向かせた。
「むー。こっち見てよー!」
その行動と言動と可愛さでユウタは会心の一撃を食らった。会心ダメージは200%を超えていた。
「ご、ゴメン…」
ユウタはその一言を出すので精一杯だった。
「もう。私、無視されて悲しかったんだからね」
「もうしないよ…」
「ならよし!」
「…そういえば、ハナタおばさんからリンゴを貰ったんだ。1つどう?」
「わぁ…。ありがとう!」
「お礼なら、ハナタおばさんに伝えておいて」
「でも、くれたのはユウタ君じゃん!」
そう眩しい笑顔で言われると何も言い返せない。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん!必ず戻って来てね」
「分かった」
彼女のその言葉だけで、何日も生きて行けるような気がした。
10分後。
「はぁ…!」
剣を振るい、ゴブリンを切りつける。
『グルルッ…!』
ゴブリンが後ろから襲ってくるのを察知し、避け、真横から剣を突き刺す。
『ゴロ!』
苦しそうな声を出し、紫の血を流した。
そんなのお構え無しで、壁に叩き付ける。
『グルッ!クルル…』
ゴブリンは息絶えたのか、そのまま倒れる。
「ふぅ…」
この世界はゲームではないので、経験値などもない。だから、敵を倒したからといって強くなる訳ではない。
だが、ユウタは敵を倒し、どうやって行動したらいいか。どうやって戦えばいいのかを『経験値』として獲得した。
そうして、スライムもろくに倒せないユウタは、ゴブリンを複数倒せるまでに成長した。
「はぁ…今日は終わるか」
ハナタおばさんから買ったリンゴを食べながらそう考える。
『グルル…』
威嚇の声かを聞こえた方を見ると、そこにはゴブリンの倍ぐらいのデカさのグールがいた。
「…どうやら夜帰宅は確定だな」
そう言いながら剣を構えると、ユウタはグールに、走っていった。
ユウタ、初のグール討伐だった。
「もう!こんな夜遅くまで何してたの!」
「スミマセン…」
帰ると、ソルフおじさんの家に何故かカレンがいて、コッテリ怒られていた。
「はぁ…。強くなるのはいいんだけど、なるべく心配かけないようにね!」
「分かったよ…」
それだけ言うとカレンは帰っていった。
「だってよ〜」
とソルフおじさんがリビングから顔を覗かせて言った
「分かってるよ…」
「あまり、カレンちゃんを泣かせるなよ。ああ言って、心配なんだからな。もちろん、俺もだが」
「善処するよ」
「しっかりと守れよ。それが男ってもんだ」
「…分かった」
「これを言うとすぐやるんだから…」
「何か言った?」
「いいや、なんでも」
ユウタはあえて聞かないようにした。
それに何かしら答えたら、照れ隠しだと思われそうだったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます