大事なところのネジ〝だけ〟締まってる最強主人公

一見は、よくあるタイプの欲望に忠実なクズ系、さながら掲示板回のカキコミをしているようなのが主人公なのか、と思わせつつ

「強いことなんて、善良であることに比べて……何の価値も、ねぇよ」

というセリフを吐き捨てられて、すべて持ってかれました。九割のギャグで一割のシリアスを輝かせ、そのシリアスでギャグも輝く、という技量には感服です。そのギャグもネットミームを擦るだけじゃない、ネットミームをスタート地点にしてそこから先を探るような、作者のセンスと技量、思想をしっかりと感じるもの。というか簡単に言っちゃうと、ギャグのセンスがオタク文化というより、深夜ラジオや大喜利コミュニティ、そっちのサブカル寄り。

加えて、キャラが、本当にいい!

キャラ属性だけで動くのではなく、言動の一つ一つがしっかり、生の人間です。それでいてしっかりネット小説の作法に則って理解しやすく、結局コイツ何がしたいん? と困ることもない。作中のオカルトシステムがあまり目にしないタイプの東洋ベースで、おそらくはかなり独自構築、なおかつしっかり魔法に関しても説得力のある感じを醸し出せているのもまた、キャラの実在性を作るのに一役買ってます。すごい呪文はやっぱ、インフェルノフレイム! とかどっかで聞いたことあるやつより、Hymnus ad vitam(星々と蒼き空の魔法)、とかの方が良い、って方にはマジでオススメです。

そして最後に、一人称でありながら書き過ぎてないのが本当にすごい! 筆が進みすぎて、主人公が美少女キャラを見てエロ思考を全開にする感じとかを一人称で書いちゃうのが、結構ネット小説では多いと思うんですが、そこは最低限でスルーしていく。それでいて、なんか抑えてるんだろうな、とは別に思わず、このキャラは別にそんなんじゃないな、と全然納得できる。まあまだそんな美少女キャラは全然出てきてないんですが……言うなれば、私のようなオタクくんたちの、一般人から見ればキッショ、と言われるような点が、文章にマジでない。作中に変身願望が強すぎて魔法美青年になるキャラが出てくるんですが、その扱いが、ホントにネット小説かよ、と目を疑いたくなるぐらい二十一世紀です。インターネットが十数年繰り返しているゲイいじり、ホモいじり、淫夢語録、皆無というわけではないですし(無い方が不自然になりますし)、そのキャラも結局はコメディを担ってるんですが、主人公最強作品は主人公以外全員そうですし、少なくとも、キモいキモいと笑われるためだけに出てくるオカマキャラなんかとは全然違う、バックボーン(背骨)のあるキャラです。

一人称のスイッチが結構あって、そこで少し戸惑う感じはあるんですが(なんか記号を使ってくれ〜……)、それでもなお、ガシガシ読み進めてしまう、力のある作品です。