劣等領地の噛ませ令息が支援魔法を極めたら最強の美少女軍隊が出来上がってしまった件
ナガワ ヒイロ
第1話 噛ませ令息、前世を思い出す
悪役というと人は何を想像するだろうか。
俺が真っ先に思いついたのは、物語の終盤で主人公の前に立ちはだかる存在。
いわゆるラスボスだ。
しかし、アニメやゲーム、漫画やライトノベルにはラスボスとは比べ物にならないくらい弱っちい悪役も登場する。
それが噛ませ犬。
主人公の強さや優しさを強調するためだけに存在する悪役だ。
どうか驚かないで聞いてもらいたい。
俺、
このままでは二度の戦いを経て、俺は勇者である主人公に殺されてしまう。
その、はずだった。
「うっ、な、なんて強さなんだ……」
「ん。主様に逆らう奴は許さない」
どういうわけか俺の目の前には半殺し状態の勇者が倒れていた。
その勇者を見下ろすように、ケモ耳美少女が立っている。
本来なら主人公が余裕で勝利する戦闘。
それを汗の一滴も掻かないで覆してしまった有り得ない展開。
一体何故こうなったのか。
俺は前世の記憶を取り戻した三年前の出来事を思い出すのであった。
◆
「この決闘、僕の勝ちだ!!」
目の前の少年が高らかに勝利を宣言する。
真っ白な髪とルビーのような紅い瞳の絶世の美少年だった。
俺はその少年に見覚えがある。
友人がめちゃくちゃオススメしてきたゲーム『ストーリーズ・オブ・ファンタジア』の主人公と全く同じ容姿だった。
いや、待て。
どうしてゲームの登場人物が目の前で動いて話しているのか。
「え? これって、俺?」
俺は手元に転がっていた剣の刀身に写る自分の姿を見て困惑した。
そこに写っていたのは、黒髪黒目の人相が悪い少年だ。
よくも悪くも人畜無害なモブ顔だった俺とは似ても似つかない。
俺はこの少年も知っている。
『ストーリーズ・オブ・ファンタジア』で主人公に突っかかってくるキャラクターだ。
平民でありながら勇者の力を持って生まれ、王女や公爵令嬢に慕われている主人公に嫉妬して決闘を仕掛けてくる噛ませ犬。
たしか名前はシュトラウスだったな。
「あ、そうだ。俺、シュトラウスじゃん」
少しずつ意識がハッキリしてきて、ズレていた何かがピタッと嵌まる。
そう、俺の名前はシュトラウス。
たった今、山田孝一という平凡な大学生だった前世の記憶を思い出したが、俺は間違いなくシュトラウスだ。
状況を少し整理しよう。
俺は目の前の主人公、勝利を宣言した美少年が王女や公爵令嬢に慕われていることが気に入らず、嫉妬して取り巻き二人を連れて三対一の決闘を仕掛けたのだ。
で、あっさり敗北してしまった。
そりゃまあ、この決闘は主人公にとってのチュートリアルのようなもの。
勝てるわけがないよね。
そして、俺は主人公との決闘に割と重大なものを懸けてしまっていた。
「シュトラウス、約束は守ってもらう。君は今日で学園を去れ」
「っ!!」
そう。
俺は目障りな主人公を序盤の舞台、アーベント王国の王都にある学園から追放したくて互いの退学を懸けて決闘していたのだ。
そして、俺はその決闘に敗北した。
決闘の勝敗は絶対なので、俺は学園を退学になってしまう。
ここまでゲームのシナリオ通りだった。
「いや、待て待て。一度冷静になろう。有り得るのか? ゲームの噛ませキャラに転生とか。いや、最近のネット小説じゃ割とよくある展開だけどさ。よりによって劣等領地の噛ませ令息に転生とかするかね? ないわー、まじないわー」
「お、おい、聞いているのか、シュトラウス!!」
「うっせー!! ちょっと黙ってろハゲ!! こっちは色々とショックを受けてんだよ、ウンコ!! バカ!! アホ!! ウンコ!!」
「なっ!!」
俺は主人公に向かって暴言を吐いた。
そのお陰で頭の中が一瞬スッキリしたような感じがして少し冷静になる。
そうだ、まだ慌てる時間じゃない。
シュトラウスは主人公との決闘に敗北して学園を退学となるが、まだ破滅の運命からは逃れられる場所にいる。
俺はこの後すぐ退学となり、貴族の両親が治める故郷の領地に帰るのだ。
当然ながら、この世界で唯一魔王を倒せる力を持った勇者に決闘を仕掛けた馬鹿な息子を許すわけがない。
もし勇者の機嫌を損ねて魔王討伐に支障が出たら大問題だからな。
シュトラウスは実家を勘当されてしまう。
しかし、シュトラウスが本当にヤバイ問題を起こしたのはその後だった。
シュトラウスは勇者を逆恨みして魔王軍幹部と手を組むのだ。
魔王から絶大な魔力を与えられ、主人公に二度目の決闘を申し込む。
当然、そこでも敗北する。
最後に「魔王様万歳!!」と叫びながら身体が干からびてしまう場面は中々ホラーチックで怖かった思い出だ。
「やっべー。まじやっべーわ。どうしよ」
このまま故郷に帰ったらシナリオ通りに勘当されるだろう。
魔王軍幹部から仲間にならないかと誘われたら断れない。
断ったら魔王が復活する情報を秘匿するために殺されるだろう。
なら魔王軍幹部と接触しないよう、どこか遠い場所で暮らすべきだが……。
今まで貴族として甘やかされてきた世情に疎い俺が中世ヨーロッパ風の舞台と倫理観の世界で生き残れるか?
それなら魔王軍の仲間に入れてもらって、主人公とは戦わないよう立ち回るのが最善では?
「ふ、ふん。どうやら今さら決闘したことを後悔してるみたいだね」
「あ?」
「君が反省して謝罪するなら、決闘を取り消しにしてもいい。今後アウロラとナザリーに近づかないと誓うならね」
アウロラというのはアーベント王国の第一王女であり、ナザリーというのは公爵令嬢だ。
俺は二人に慕われている主人公が気に入らなかっただけで、別に二人に言い寄っていたわけではないのだが……。
しかし、これはチャンスだ!!
恥も外聞もかなぐり捨てて土下座し、勇者に許しを乞えば何とかなるかもしれない!!
「すっ」
すみませんでした。もう二人には近寄りません。許してください。ごめんなさい。
ただそう言うだけで全てが解決する。
破滅が待っているシナリオをブレイクすることができるかも知れないのだ。
言え、俺!! 早く土下座して謝れ!!
「すっとこどっこいのクソッタレがああああああああああああああッ!!!!」
「へぶっ!?」
気が付くと俺は主人公の顔面を見事なストレートで打ち抜いていた。
油断していた主人公は不意打ちを躱すことができず、空中を見事に三回転し、地面に顔から激突した。
そこまでやってから俺はハッとして、自分の失態を理解する。
ここで謝れば解決だった。
でも、ああ、無理だ。
これはクソみたいなどうしようもないプライドの問題である。
俺は前世の記憶を取り戻したが、俺は俺。
大嫌いな相手に許しを乞うくらいなら、チャンスなど溝に捨ててやる。
決闘を見守っていた学園の生徒たちから悲鳴のような声が上がった。
中には「卑怯者!!」や「勇者様の慈悲を無碍にしやがって!!」という俺へのブーイングが聞こえてくる。
やっちまった。
でもやっちまった以上、もうここで許しを乞うても退学は免れられないだろう。
「ま、なるようになるさ!!」
こうなったら開き直るしかない。
どうにもならないことがあった時、前世の俺はそうしていた。
こうして俺は、その日のうちに学園を追い出されてしまうのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「普通嫌いな相手に謝れとか言われたら殴るよね」
シュ「ね」
「面白そう」「続きが気になる」「暴力は全てを解決する」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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