元S級ダンジョン探索者ですが、金が底を尽きたのでF級からやり直します。

さい

No.1 S級ダンジョン探索者

 六年前──

 黒島カイト、十六歳。

 世界最年少でS級ダンジョン探索者に到着。

 しかし、一年後、世界最高難易度ダンジョンを攻略後、引退宣言。

 彼はダンジョン探索者という業界から姿を消すのであった。

 今となっては彼の姿を知る者はいない。

 一体、彼はどこで何をしているのだろうのか。



 ピピピピピ、というスマホから流れるアラームの音で俺こと黒島カイトは目を覚ました。


「ふあああ……」


 欠伸をしながら上半身を上げると、目の前には槍の先があった。


「え……」


 冷や汗をかきながら、視線を上げるとそこには、

 

「ば、ばあさん……」


 鬼のような表情をした一人のおばさんが立っていた。

 このばあさんの名前はタカコ。

 俺はタカコのばあさんと呼んでいるわけだけど、なぜこんなに殺意を出しているのかというと。


「さあ、約束の日が来たよ、半年分の家賃を払う時がねえええ!!」


 タカコのばあさんは槍を思いっきり突き刺した。


「──ッ!!」


 慌てて倒れ、その攻撃を避け、すぐさま立ち上がった。


 あっ、あぶねー。


「な、何しやがる!? 後一歩で死んでたぞ俺!!」

「ははは、死ね死ね死ね。死んでお前の臓器を売る。そうすれば家賃代はチャラだ」

「こええよ!!」


 そう、タカコのばあさんはここの大家であり、俺が半年も家賃を滞納していることに対して怒っているのだ。


「なら、早く払え」

「金が、金がねえんだよ!!」

「なら──」


 槍を振るタカコのばあさん。


「働け──ッ」


 慌ててその攻撃を避けた。


「だから、やめろって」

「はあ……お前、それでもS級ダンジョン探索者かい」

「う、うるせえ……」


 ここだけの話、俺は五年前までS級ダンジョン探索者として活動していた者だ。

 世界最高難易度ダンジョン『ロッキー山脈ダンジョン』。

 俺は一人で攻略し、報酬として大量の金を得た。

 この金で一生を過ごそうと、そう思っていたのに、今となってはもうすっからかん。

 え、何があった!?

 そのレベルだ。

 本当、俺って恐ろしい。


「カイト、お前、まだ二十二歳だろ? もう一回ダンジョン探索者にでもなるのはどうなんだ?」

「ダンジョン探索者ねえ……」


 ダンジョン探索者──それは遥か昔、突如として地球上に出現したダンジョンと呼ばれる場所に潜り、金銀財宝やダンジョンを攻略するロマンで溢れた職業だ。


「三年ダンジョンに潜らなかったらまた試験からなんだよなあ……」

「あんた、他の方法で金を稼げるのかい?」


 幼い時からダンジョン探索者として世界最高難易度ダンジョンを攻略することだけを目標に生きてきた俺に、目標などない。


「そ、そうだな……パチンコかな。てことで、ばあさん金を貸してくれ」

「貸すか!! もう一度ダンジョン探索者になれ」

「やだね、またF級からやり直すなんて……」

「そんな贅沢言える口かい」


 タカコのばあさんは、大きなため息を吐いた後、


「よし、わかった。お前がもう一度ダンジョン探索者になったら滞納をチャラにしよう」


 その言葉に俺は食いつき、


「ほ、本当か!?」

「ああ、あんたの活躍する姿をもう一度見たいしね」


 ニヤリ、と茶色い汚ねえ歯を見せるタカコのばあさん。


「今日は何月何日だ、ばあさん?」

「ん、四月三日だが……」

「ちょうどいいな、明日、ダンジョン探索者試験の日じゃねえか」


 ダンジョン探索者試験──それはダンジョン探索者としての適正を測る試験。

 合格することにより、ダンジョン探索者ライセンスを手に入れることができ、無事ダンジョン探索者になれるのだ。


「ほお、もう、締め切りが終わってるんじゃないのか?」

「あー、それなら大丈夫だ。試験管に知り合いがいるからなんとかなるだろ。ばあさん、言ったからな? 滞納を無しにしろよな」

「ババアは嘘をつかない生き物だ。信じろ」


 こうして、俺はダンジョン探索者に再度なるためにダンジョン探索者試験を受けることとなるのだった。



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元S級ダンジョン探索者ですが、金が底を尽きたのでF級からやり直します。 さい @Sai31

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