第8話 エヴァン

コンコン…。


「エヴァンです。」


「入ってくれ。」


アランが言うと、エヴァンが部屋に入って来た。


「時間通りだな。」


「まぁね。メイとの時間は大事だからね。」


軽い感じで答えるエヴァン。


「じゃぁ、交代だな。よろしくな。」


「あぁ。任せてくれ。」


そうして、アランは部屋から出て行った。


「メイ。調子はどう?」


「朝食を食べてから、さっきまで寝ていたわ。」


「ふ〜ん?記憶がないけど、アランのことを信用しているんだ?」


エヴァンの言葉に、私はエヴァンの顔をじっと見た。


エヴァンは茶髪の癖毛で22歳。


身長はアランより少し低い…172〜3センチかな。


二重の大きな瞳で、私を見ている。


「記憶はないけれど、相手に対する感情は残っているみたい。アランのこと、信用できると思ったわ。」


「ふ〜ん……。じゃぁ、彼氏の俺に対しては、どんな感情?」


「えっ!?彼氏?」


エヴァンの言葉に、私は目を見開いてしまう。


「そうだよ。メイの彼氏は俺。覚えていない?」


私は口に手をやると、必死に記憶を探ろうとする。


彼氏………彼氏?絶対に違う。


アランと同じような感情しか持っていない。


あくまで、友達……親友……幼馴染……それ以上の感情は湧いてこない。


「嘘でしょ?絶対に違うわ。エヴァンに友達以上の、異性としての感情は持っていないわ。」


「え〜?本当に〜?」


「えぇ、本当に。」


私がじろりとエヴァンを見ると、


「残念。記憶をなくしているドサクサで、メイを彼女にしようと思ったのに。」


と、エヴァンは本気とも、冗談ともとれる調子で言った。


このやり取りで、エヴァンという人間のことが分かった気がした。


「エヴァン……。」


「ははははっ。騙されないか〜。それでも、俺はメイのこと、好きだよ。」


そう言って、私の右手を取ると、手の甲に口づけた。


「……もぅ……エヴァンは……。」


「ごめん、ごめん。気分転換に、中庭でも見に行く?」


「勝手に出歩いて大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。30分ぐらいの散歩は、医者から許可を得ているから。アミーリア様からも、中庭を見せてもらえるように許可してもらっているから、安心してね。」


「段取りがいいわね。」


「あぁ、もちろん。メイとのデートの段取りは、バッチリさ。」


「ふふふっ。エヴァンは、おもしろいわね。」


記憶をなくす前はどうだったか分からないけれど、自分のことを女の子扱いされるのは、少しくすぐったい感じがした。


「さぁ、行こうか。」


そうして、二人で中庭に向かった。







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