第19話 有栖川
【お詫び】
体調不良で1週間飛びました。申し訳ございませんでした。
アホみたいな遅刻や飛ぶことが多いですが、引き続き『It's top secret!』をよろしくお願いします。
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潜入2日目になった。
FBI top secret 002の
いつもは息子と2人で暮らしているのだが、潜入中は1人暮らしになっていた。
久々の1人での生活にどこか寂しさを覚えてしまう。食事メニューも今までと比べると手を抜いていた。用意したお弁当も簡単なものにした。
息子である
裏山での生活や、忍からの訓練内容をきらきらした瞳で話す息子の顔を見て、霧雨は昨日までの疲れが吹き飛んでいた。
この後は忍と共に裏山に戻り、1日中遊んだり訓練したり、薪を割ったりするのだとか。
息子の世話を忍に任せ、帰宅して準備を整えてから出社した霧雨だった。
「おはようございます」
ビルへと入り、ICを使って入館ゲートを通り抜ける。警備員に挨拶し、エレベーターホールへと向かった。同じ会社の人もい居たので、エレベーターを待ちつつ簡単に会話をする。
会社が入っている目的のフロアに移動し、オフィスのドアを開き、社員に挨拶する。
「おはようございます」
「おはようございます」
社員から挨拶が返って来る。
清水は挨拶を返しつつ、デスクに座る。パソコンの電源を入れ、社員用のポータルサイトを確認する。……良かった。トラブルは何もなさそうだ。
「おはようございます」
FBI top secret 003の
清水も「おはようございます」と返し、周辺を警戒しつつも仕事に取りかかった。
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時刻は10時過ぎ。人の出入りが落ち着いてきた頃。
FBI top secret 001の
「おはようございます」
速川はビルに入っていく社会人に挨拶する。同時に警戒も強めていた。
だが、今のところは不審人物もなく、昨日と変わらない。平和だった。
「――速川くん、お疲れ様。交代するよ」
「中山さん。ありがとうございます」
速川は礼を言い、警備室へと引っ込む。
警備室内には防犯カメラの映像が一望できるディスプレイが複数設置しており、各オフィス以外の建物全体の様子が把握できた。
速川は藤井商事株式会社のフロアに即座に目を向ける。
――藤井商事株式会社のフロアはまだ荒れてないみたいだな。
速川は安心した。
【
そのため、速川は警備室に居る時はこまめに見ることにしていた。
さぁどうしようかと思ったとき、表が騒がしくなった。
警備室内に居た人間は何だ何だと監視カメラ越しに確認する。
画面に映っていたのは15名のスーツを着た男性の集団だった。入館ゲート前で警備員と少々モメている様だ。
「……何か、にぎやかですね」
「今日、インターンか何か来る予定があったんだろうか?」
「それなら目的のオフィスに居る担当者を呼び出さないか?」
「ICが壊れたとかじゃないんか?」
不思議そうにしている警備員を一瞬視界に入れ、速川はスーツの団体が映るモニターに視線を固定する。
モニターを覗きに行くフリをしつつ移動し、いつでも動けるように覚悟と体勢を整えておく。速川が移動したすぐそばに緊急通報ボタンがある。万が一の場合は押せばいい。
今回の任務では、
5名が警備員に連れられ、警備室へと案内される。その他10名は入館ゲートの内側に入り、エレベーターホールへと向かった。
――杞憂だったか……?単なるトラブル?それとも……。
速川は警備室のドアに視線を向ける。
扉が開き、スーツの団体に対応していた警備員が入ってくる。
「……あ、すんません。なんか、担当と連絡がつかずに中に入れないみたいで。この人ら、共通の入館用ICも持ってないみたいなんですよ――……え」
警備員の言葉は全て言えなかった。
後ろから刺されたのだろう。腹部から血が零れ落ち、服が真っ赤に染まる。
「つ゛っ――!!!」
警備員の背後に居たスーツ姿の男は、警備員の背中からナイフを抜いた。刺された警備員の身体が床に落ち、
同時に残りの4名も警備室内へと入り、ドアを閉め、退路を塞いだ。
そのうちの一人が手袋越しにとある手紙の封筒を取り出し、ホワイトボードにマグネットで貼り付ける。手紙の差出人は――【有栖川】。
「おはようございます。出勤しに来ました」
男は笑い、赤く染まったナイフを警備室内へと向ける。
殺戮開始の合図だった。
他の4名もナイフを出し、フォーメーションを展開する。
――誰一人雇ってねぇよ。
心の中で速川は吐き捨て緊急通報ボタンを押し、左手でスマートフォンを操作した。
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黒瀬は資料を作成していた。パソコンに情報を片っ端から打ち込んでいく。
ヴーッ……ヴーッ……
仕事をしていると、黒瀬と清水のスマートフォンが同時に鳴った。
画面を見ると発信者は速川。3者間通話のようだった。
――まさか、来た!?
黒瀬は素早く通話状態にし、耳に当てながら席を立つ。清水も同様だった。
「もしも――」
《何やってんだお前らぁ!!》
《け、警察――うわぁ!!》
まず聞こえてきたのは阿鼻叫喚だった。どうやら本当に【有栖川】が来たらしい。そして、速川から通話が来たとなると、現場は1階の警備室のようだ。
《【有栖川】だ!警備室5、残り10エレベータにて移動!服装はスーツ――っ!!》
「十字石!?」
突如通話が切れた。
警備室内には機材が詰め込まれており、言うほど動けるスペースがない。そんな場所で防衛戦をしているのだ。訓練を受けている十字石でも何発か食らうことはあるのだろう。
だが、最低限の情報はわかった。
こちらに来る敵は最低でも10名。警備室が片付いたら合流する可能性があるし、数名見逃している可能性もある。
服装はスーツ。会社内で浮かない感じだ。監視カメラさえ壊してしまえば、逃走時はうやむやにできるだろう。
廊下で2名はアイコンタクトをとる。 黒瀬は一旦デスクへと戻った。
清水はそのまま廊下を進み、エレベーターホールへと向かって進む。【有栖川は】絶対にここを通るはずだから。
――これ、使えるかな?
清水は消火器の近くで電話をかけるフリをした。
エレベーターホールのランプが点灯し、扉が開く。中から10人のスーツを着た集団が降りて来る。
――へぇ。こいつらが【有栖川】か。
清水はにこやかに会釈をし、電話に集中するフリをする――と、通り過ぎた集団の中に居たはずの一人の男性が近付いてくる。
――まさか……!刺される!!
清水は
想定外だったのだろう、男は驚きつつも再び刺そうとしてくる。
清水は攻撃を怖がっているフリをしながら何なく躱し、大きく息を吸い込む。
「刃物を持った集団が居るぞ!!――逃げろ!殺される!!」
清水はフロア中に響き渡るくらいの大声で叫んだ。
それと同時だろうか。
フロアがざわついたと思ったら、すぐさま悲鳴が聞こえ始めた。
さて、清水の相手はこの男だ。
廊下に逃げてきた人が刺されないよう、制圧しておく必要がある。
「この人刃物持ってます!逃げて!!」
そう言いつつ、優勢で抵抗している風を装う。横をたくさんの人が通り過ぎていく。
パフォーマンスは十分だろう。
清水は男を気絶させ、ジャケットを使って腕を拘束しておく。犯人が救出されては面倒だったので、掃除用具入れと壁の空いているスペースにしまい込んだ。……ジャストフィットだった。
ついでに箒を1本拝借しておく。
――今のところ他が上がってくる様子はない……残り9人!
清水は逃げ惑う人の流れに逆走し、オフィスへと走った。
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「逃げてください!!――うわ!!」
黒瀬は事務椅子を使って強制的に刃物男と距離を取らせ、従業員を逃がしていた。
だが、いかんせん敵の数が多く、切りつけられた人や刺された人もかなりいた。
黒瀬の役割的に派手に動くことは出来ない。
数名は沈めていたが、「武術の心得があるので」で押し通せる程度にしていた。
だが、応援も武器もない状況でよく健闘できていると自画自賛したいくらいだった。それほどまでに現場はカオスだった。犯人もオフィス内外に散らばっている。近くに居る人を逃がすので精いっぱいだった。
「黒瀬君!!」
清水が合流して箒を投げ渡してきた。
黒瀬――
対して清水は消火器で殴っている。
射程範囲内に追い詰めたら消火剤を噴射して、敵の視界を奪うのだろう。また、そこそこ鈍器としても使えそうだった。
敵は片っ端から動けなくさせていく。簡易的に拘束もした。黒瀬は粗方片付いたところで人数をカウントする。
その頃には清水はヤバめの容態の会社員の止血を行っていた。一刻を争う状態の者も居た。
清水は本職が保育園の先生。万が一の時の為に必要な手当ては一通り知っているので、警察や救急隊に聞かれても問題はないだろう。
「……1、2、3……5……6!」
「俺が外で3人倒してる。だけど――」
――確実に1人足りない!
「探してくる!」
黒瀬はオフィスを飛び出した。
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外がかなり騒がしかったが、出ることは叶わなかった。
手を洗い、自分の不運に息をつく。
火災で逃げ遅れたとかではないことを祈る。
――外も大分静かになったし、オフィスへ戻ろう。多分、大丈夫。
トイレの入り口にあるドアを開けると、なぜか目の前に男が立っていた。ここは女子トイレのはずなのに……!?
男の口は弧を描き、その手には刃物を持っていた。
遥香は悲鳴を上げ、即座にドアを必死に閉めて抵抗した。
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「――!?向こうか!!」
黒瀬は悲鳴が聞こえたほうに駆ける。どたどたと物音もしている。
「――えっ」
だが、音源は女子トイレ。
一瞬突入を
会社は血まみれ。この後はどのみち出勤停止になるだろう。
業務停止や変質者疑惑。色んな意味で会社に居られなくなること上等で、手に持っていた箒を構え、突入する。
入ると、【有栖川】のメンバーであろうスーツ姿の男が馬乗りになり、女性社員を殺そうとしていたところだった。
後ろから箒で殴りかかる。
黒瀬は何とか犯人を女性社員の上から払いのけ、女性社員に逃げろと言おうと――
「――かずま、くん……」
殺されかけていた女性社員は、
「チッ」
【有栖川】は舌打ちをし、ナイフを構えて黒瀬に切りかかって来る。
黒瀬の中でブツン、と何かが切れた音がした。
「――!!」
「――て……――黒……さ――
はっとして手を止める。すると、真っ白になっていた視界が正常に戻る。
耳元で聞こえるのは彼女の声。泣いているようだ。
また、黒瀬の身体は後ろから強く抱きしめられているようだった。
目の前に居るのは血まみれの【有栖川】――遥香を殺しにかかっていた男だ。かろうじてまだ息は残っているようだ。
――あれ?死んでいない……?普通は殺すんじゃ……ああ、そうか。
意識を取り戻した
「――ひっ……!!」
遥香は突如、黒瀬を突き飛ばした。――が、力が足りずに自分が後ろに倒れ込み、黒瀬と距離を取る形となった。
「――え……?」
黒瀬は驚きで目を見開く。彼女に拒絶されるとは思っていなかったのだ。
大隅遥香は一般人だ。暴力的な場面――ましてや人を殺しかけている場面など、絶対に見る機会はない。
だが、黒瀬計磨はFBI top secret 003の
「……遥香……?もう大丈夫、だよ……?」
「……嫌……。……来ないで……」
「……?」
黒瀬の視界に入ったのは、怯え、震え、顔面蒼白になった
自分を守ってくれたとはいえ、何のためらいもなく相手を殺そうとする
彼の暴力性を見てしまい、恐怖で後ずさりする遥香。
困惑しつつも純粋に意味が解らないという表情を浮かべる、【有栖川】の返り血を被った黒瀬。
――2人は住む世界が違ったのだ。
It's top secret! 八嶋 黎 @yashima-rei
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