第1話
[ご飯代]
テーブルの小さなメモ用紙に書かれた三文字と、その下の五千円札に目を落とす
母親とご飯を食べなくなって、もう何年だろう
父親は顔も名前も知らない
お金を置いていれば何とかなると思っている
放任主義の母親
平日は家に居ないし、休日は夜しか帰ってこない
たまに男の人と帰ってきて私を家から追い出すから、帰ってこなくていいと何度思っただろう
机の上に置かれた五千円を財布に入れて、ポケットに家の鍵を入れて手ぶらで家の外に出る
オートロックのドアが閉まったのを確認してからエレベーターに乗った
夜の22時になって、高校生が出歩くと、条例に引っかかる
それを知っていて向かうのは、家から少し離れた場所にある繁華街
縦長の繁華街の中間地点にある大きな交差点にある店の裏手の細い路地
そこに黒い車が止まっている
迷いなく、車の右側のドアを開けて助手席に乗り込む
「陽菜(ひな)お疲れさま、今日は早かったね」
運転席の背もたれを少し倒した状態で、スマートフォンを見ながら声だけかけてくる
グレーのスーツを着て、耳にピアスの穴が二つづつ開いた男
父親と言うにはあまりにも若いし
兄と言うには私と顔立ちが違う
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