ヒドラジンの混合物やアルミニウムの化学反応を火の魔術と言うのを止めろ。

はち

第1話

 フルダイブ型MMORPGが世に生まれて早四半世紀が過ぎた。

 星の数程あるゲームが生まれては消えを繰り返す中、ある一つのゲームもサービス終了を控えていた。


「あーあ、結局、新しいシリーズ出るとみんな居なくなるよなー」


 そう独りごちる1人のプレイヤーがいた。腰掛けているのはドラム缶や廃材で作られた椅子。

 彼こそはこのゲーム、ラスト・ワン・ワールドで最も大きく、そして最もプレイヤーの恨みを買ったギルド《クリーナーズ・ワールド》のギルドリーダーであり、唯一火炎放射器使いでランキング上位に入ったプレイヤーである。


 このゲームは所謂PvPvEと言うコンピューター操作の敵が居る世界でプレイヤー同士でも闘うゲームであり、世界観はゾンビウイルスが蔓延した世界で生き延びる人間達のサバイバル系ゲームだ。

 その中でもこのクリーナーズ・ワールドはゾンビやそれに感染した者達を殺し街を浄化して元の世界を取り戻すと言う考えの者達が作った集団と言うロールプレイをしているギルドであり、当初は他のクラン同様に無名に近かったが運営が行ったゾンビの大攻勢にギルドで団結して耐え抜けと言うイベントにてギルド員達の余りのロールプレイ具合に良くも悪くも有名になった。


 と、言うのもゾンビに一定ダメージを受けたプレイヤーは一定時間内に各地に現れる中ボスを撃破すればドロップする薬を投薬し一定時間ゾンビに攻撃を受けたりゾンビ化ウイルスに触らなければゾンビ化しないと言うシステムなのだが、クリーナーズ・ワールドのプレイヤーはやられた時点でそのプレイヤーを殺すと言う行為をした。

 もちろん、自身のクラン員だろうが協力するクラン員だろうと野良のプレイヤーだろうと関係無く自身の領地にいた者は皆同じ様に殺したのだ。

 この事は公式の目にも止まり、公式公認の「プレイヤーが自ら運営し役割を熟す勢力」となった。この事は後のMMORPGの新しい概念にもなった程で、ギルドマスターと彼が認めた幹部達、構成員は皆、その役を徹底している限り公式も彼等専用の装備を与えたりすると言う物になって行く。

 これが現在主流の「プレイヤーと運営によるゲームの創造と発展」になる。

 そして、そんなゲームの所謂ヴィランクランたるクリーナーズ・ワールドの最後の構成員であり、幹部であり、ギルドマスターたるプレイヤー、ベイクドもちょちょはゲームサーバー終了の時間を待っていたのだ。


「ま、このゲームも待ちに待った2が出て早3年だもんな。皆コンバートしたり新規勢だったりで、何時迄もここにいる奴は中々いねぇよな」


 彼は腕時計を確認する。カシオチープにもにたそのデジタル時計はサービス終了まで後5分程を指している。

 もちろん、元々のギルドメンバー達の幾人かも彼に挨拶しに来たが、最期まで此処に残る者は彼ぐらいであった。

 目の前のテーブルに愛用の武器である火炎放射器を降ろす。テーブルの脇にはお気に入りの武器であるRPOロケットランチャーも立て掛けてあった。

 サービス終了直前に最後の攻撃としてクランを攻めてくるプレイヤー達がいる可能性もあったが、ついぞ無かった為に無駄に鎮座しているだけでもある。

 廃城の様なこのギルドの建屋は運営が用意してくれた物だ。城とは元来、防御の為の存在だ。


「明日も仕事かー」


 ベイクドもちょちょは深いため息と共に背もたれに体を預け、目を閉じた。

 時間は後1分を切っている。アラームを設定しているので、サービス終了の時刻を知らせてくれる。

 ベイクドもちょちょは目を開き、立ち上がった。そして、火炎放射器を背負う。火炎を噴き出すノズルは1.5メートル程のパイプ状で形状的にはM35火炎放射器に似たそれは彼が運営に作って貰った専用装備だ。

 この火炎放射器はこのゲームにあるどの火炎放射器よりも火力と射程が上である。

 彼を殺せばドロップアイテムとして手に入れれる。が、彼は常勝無敗。対人戦においても他のギルド幹部やギルド長よりもその戦績は高い。

 故に唯一のユニークアイテムとも言われているのだ。


「結局、これも俺専用だったもんなー」


 嬉しそうな、それでいて残念そうに1人ごちると腰の切り詰めたKS-23を撫でる。地味にこのショットガンも専用の装備で、弾も専用のドラゴンブレス弾だ。最も装弾数は薬室とチャンバー含めて2発でダブルバレルショットガンと違って一発撃つとポンプ動作で薬室に弾を込めなくてはいけないので、余り使える武器では無いと見做されている。


「まーええか。

 これが終わったら、俺も2にコンバートしよ」


 アラームが鳴り、強制シャットダウンを待つが起こらない。


「あれぇー?」


 ベイクドもちょちょは首を傾げ、時計を見る。時刻は順調に時を刻み、1分経った。


「んん?」


 彼は首を傾げると装備を全て整えて城の屋上に向かう。崩れかけた城は鉄パイプとブルーシートやコンパネなどの足場と建材で補強されている。

 そんな屋上にある広場から周囲を見る。城は郊外にあるので広場から見ると煤けた街が目に入るのだが、彼の目前には一面の森だった。


「何でぇ?」


 彼はそんな疑問を口にしつつ、大急ぎで城の中に戻る。中に戻ると作戦室と書かれた大広間に入る。其処には乱雑に積まれたモニターと其処に映し出される城の各所にある監視カメラの映像が出る。

 城を守るNPC達が警戒をしているが、少なからず動揺した様な動きを見せていた。


「ボス!大変です!!」


 作戦室の扉がノックされつつ開く。ガスマスクを被り、タイベックの化学防護服を纏っている。警備隊長と言う役職を与えられたNPCだ。


「うぇ!?」


 NPCの突然の登場にベイクドもちょちょはノズルを構える。


「お、落ち着いて!

 俺です!」


 警備隊長は慌てて両手を挙げ、無抵抗を示した。


「お、おう、お前だな!」


 自分ですと言われても警備隊長としか呼んでいなかった為に名前がパッと出てこない。

 しかし、少なくとも敵では無い。敵では無いがNPCがこんなにも人間的な行動をする事は無かった。


「ボス、周りが、森みたいになっちまったですが……」

「あ、ああ、さっき見た。屋上にも監視員出して周囲を監視しろ」

「はい!

 おい!」


 警備隊長が廊下に出て指示を出すとすぐに戻って来る。ベイクドもちょちょは椅子に座ると、警備隊長がウィスキーのビンとグラスを二つ置いて注ぐ。

 警備隊長はガスマスクを外すと、ワイルドな顔立ちをした男だった。


「取り敢えず、これでも飲んで気を落ち着けましょう」

「あ、ああ」


 ベイクドもちょちょも被っている兜を脱ぐと酒を煽り、盛大に咽せる。


「だ、大丈夫ですかボス!?」

「な、何だこれ!?

 酒じゃねーか!?」


 そう、酒なのだ。ゲーム内で酒類を飲んでも酔う事はない。擬似的な酔いと言う物を再現しているがそれは実際の酒とは雲泥の差である。

 しかし、今飲んだ酒は本物のウイスキーだ。


「え、ええ、そうです。酒です」


 警備隊長が何言ってるんだ?と言う顔をするが、言葉には出さなかった。


「と、言うかお前はNPCだよな?」

「えぬぴー?」

「いや、お前、ゲームの……いや、いい。

 こんな状況だ。混乱してるだけだ。取り敢えず、各部隊の長を集めろ。今すぐに」

「わ、分かりやした!」


 警備隊長は酒を一気に煽ると出て行った。

 残ったベイクドもちょちょは目を瞑り、頭を抱えることにした。

 15分もすると各部隊の長達が集まる。


「全員居るな?」


 ベイクドもちょちょは椅子に腰掛けたまま正面に並ぶ元NPC達を見やる。

 全員が緊張した顔をしていた。


「全員集合完了です」

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