歌うよ!端頭さん

白鷺(楓賢)

プロローグ

藤助の朝は、いつも静かに始まる。仏壇の前に立ち、手を合わせ、亡き妻にそっと語りかける。何を話すわけでもない。ただ、今日も無事に一日を過ごせますようにと心の中でつぶやく。それが彼の毎日のルーティンだ。


家には、寄り添いロボットの「ちんくん」がいる。AIで藤助と娘・いちかの暮らしをサポートしてくれる頼もしい存在だが、どこか人間味があって憎めない。防犯や家事を手伝い、時にはちょっとしたトラブルも引き起こす。


藤助は49歳。普段は図書館で働き、あまり外出はしない。買い物はネットスーパーや通販で済ませ、カラオケに行く日と銭湯に行く日だけが、彼の特別な時間だ。週に一度のカラオケでは、昭和の歌を熱唱し、銭湯の湯に浸かって心と体を癒す。カラオケと銭湯が、彼の生きがいであり、亡き妻との思い出を静かに温める場所でもある。


この街では、キャッシュレスが当たり前で、ベーシックインカムが行き届いている。便利な時代に取り残されることなく、藤助は穏やかな暮らしを送っている。だが、彼の胸にはいつも、少しの寂しさと、ちょっとした温かさが入り混じっている。


そんな毎日が、少しずつ続いていく。

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