Episode1-6 決着

「いきなり熱くなっちゃってごめんね。」


「全然い〜よ。てかヘレン、あんな大声出せるんだねぇ…。」



牢屋ではつい熱くなってしまった。死体を見たことで怒りが募っていたことと、何度目か分からない理不尽を見てしまったから。


ちょっとキャラじゃなかったな〜って反省してるけどね。私って淡々と殺戮する方が似合ってそうじゃない?


まぁやってしまった物は良いとして、今は貴族サマのところに向かっている。1階には居なかったし、多分2階だろう。ちなみに奴隷ちゃんは牢屋の狼君に外に出してもらった。


確認する限り既に6人は捕まってるんだよね。使用人が4人、護衛らしき人が2人。残りは7人。



「2階ぶらぶらしてるけど〜居なくない?」


「こうも居ないと、どこかの部屋に籠もってブルノを守ってるって感じかなぁ」


「うへぇ…めんど。助けて神様〜。」


『はいはい…そこの壁、幻影魔法で隠されてる廊下がある。その一番奥の部屋にいるよ。護衛が4人、隠れてるのが1人あとブルノだね。』


「ありがと〜。さて、行こうかヘル。」


「……本当にチートだなぁ…」



まぁ世界滅ぼそうとしてるんだし、ちょっとくらいチートで良いでしょ。…てかこれは神様の力なんだからチートじゃないでしょ!


壁を触ってみると、手がすり抜けた!なんだこれ凄い!教会にも設置したい!


興奮して廊下を進むと、突き当たりに周りより豪華な装飾の扉があった。絶対ここじゃん。なんで自分の居る部屋を豪華にするの?狙ってくれって言ってる様なものじゃん。


あ、でも。幻影魔法かかってるから普通はバレないのか、神様には通用しなかったけど。



「お邪魔しま〜す!ってうわっ!」


「…おじさん本当にキレそう。」



そこに居たのは、丸々と肥えて服を脱ぎ捨て裸の貴族。突然の襲撃に腰が抜けているのか、萎えて小さくなったブツをぶらぶらさせながらこちらを見てくる。


そして金属の鎧を身に着けた護衛が4人。恐らくついさっきまで強姦されていたであろう女性。思い返せば、神様の情報だと6人しか居ない。だとしたら7人目は…



「だ、誰だお前らっ!」


「この状況でここに来るのなんて襲撃の犯人しか居ないでしょ。頭大丈夫?いやそんなことより…」



視線を女性に向ける。年齢は多分私と同じくらい。やせ細っており、身体中に痣がある。頬も腫れている。身体中に白い液体がかかっており、ベットに血が付いてることから恐らく…


何時間、ここで耐えたのだろう。辛かっただろう、怖かっただろう。男に囲まれて暴行されながら犯される。涙を流しながら気絶しているその顔は苦痛に歪んでおり、きっと今、悪夢を見ているのだろう。


ブルノに視線を戻すと、ニチャっとした顔でこっちを見ていた。護衛達も私を見ており、特に胸に視線を感じる。


後ろのヘルが見えてないのだろうか。それとも勝てると思ってる?どちらにしても不快極まりない。



「こいつはとんでもねぇ美女だなぁ!おいお前らっ!こいつを捕らえろ!!男の方は殺せっ!!」


「「「「 はっ!! 」」」」


「ふひひっ…。男を殺したらお前を捕らえて剝いてやるよぉ。そのデケェ胸で奉仕したくなるように調教して、お前の中までぐちゃぐちゃに犯し尽くしてやるぅ。上玉だからなぁ!数年は性処理ペットとして飼ってやるよぉ…」



ブルノが私の未来を語るに連れて、ムクムクと萎えていたブツが起き上がる。腰が抜けているくせに口だけは一丁前で、完全に勃ったブツを私に見せつけてくる。


ガチャガチャと護衛が剣を構えだす。遅い、構えるまでにヘルならもう100回は切ってる。



「お前ら、生きて帰れると思うなよ。このブルノ様に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる。ぐひゃひゃ!」


「え!今の笑い声!?キモっ!……おっと申し訳ない。つい本音が。」


「捕まえろっ!!その生意気な口叩けないようにしてやるっっ!!!」



ヘルに視線をやると、ずっと無視されてるからかしかめっ面してる。ここで私がやったら可哀想だから、ヘルに譲ってあげることにした。



「ヘル、お願いしていい?」


「やった〜!おじさんの番だ!!」



ヘルは剣を抜刀すると、近づいて来ていた護衛の腕を切り落とした。ごとりと音を立てて地面に腕が落ちる。


血が吹き出し、護衛の顔がどんどん青白くなっていく。



「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「うるさいなぁ…すぐ止血すれば死なないでしょ。」


「なんで…俺がこんな目にっ!!」



全員がぽかんと落ちた腕を見ている。さっきまであんなに威勢の良かったブルノは、顔を真っ青にして震えている。


なんか、腹立つな。自分達がいたぶる時には何も思わないくせに、いざ自分の番が来ると理不尽だと泣き叫ぶ。哀れで目も当てられない。最低で最悪な自己中人間だ。



「それは今まで君達がしてきたことでしょ。それが返って来てるだけ。私は見たよ、地下室で両手両足を切られて死んでいた男の死体を。あの人は何て言ってたの?痛い、苦しい、辞めてくれ、何で俺がこんな目に…って、言ってたんじゃない?その時辞めなかったから、あそこに死体があったんでしょ。今君達の身に起こっていることは全部自業自得。分かったら大人しく拷問されて。」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


「ヘル、お願い」


「はいよ〜」



瞬きをすれば、誰かが切られている。腕が落とされたことを確認した時には、隣の足が無くなっている。


護衛達からすると、まさに地獄の様な時間だっただろう。微塵も可哀想とは思わないけど。


ブルノを見ると、ぶくぶくと泡を吹いて気絶していた。そろそろ護衛達も瀕死になる頃だし、捕らえておくか。



「ヘル、そろそろ捕まえよう。」


「おっけ〜。死なないように回復かけておいて。後でストレス発散に切ろうかなって。」


「怖いこと言うな〜。はい万物を癒せ【完全治癒】っと」



無くなった手足を元に戻したところで、持ってきたロープでぐるぐるに縛る。ついでに【固定】の魔法を使えば終わりっと…



「これで終わりかな?」


「ん、神様の情報だと隠れてる奴がいるって話じゃなかった?」


「…確かに言ってたかも。─っ!神様!隠れてる奴はどこ!?」


『もう部屋を出てる!多分シャルの方に向かってる!!』


「「 ─ッ! 」」



縛った奴らの監視をヘルに任せて、私は部屋を飛び出した。そのまま窓から飛び降り、侵入した付近まで急ぐ。


屋敷の裏に着くと、そこにはナイフを振り上げ襲いかかろうとする男と、必死に逃げようとするシャルの姿があった。


まずい、ここからじゃ届かない。もう既にナイフを振り上げていて、全力で走ってもシャルに刺さる方が先だ。


そして相手は暗殺者。確実にシャルの即死を狙っているだろう。私の聖魔法は死者には痛痒しない!



─────どうする。どうすれば良い。魔法は発動するまでの時間がない!ここから守れる方法はっ!!




────






──








─無理だ。何をしても届かない。だんだんと視界がスローモーションになっていく。ナイフが振り下ろされるのを、ただ見ることしか出来ない。



また私は、誰かが死ぬのを見ることしか出来ないのか…




その時、視界の端に銀色の毛が映った。地下室で助けた狼が一直線で男に向かっていた。そしてその背中には、逃がしたはずの奴隷ちゃんが乗っていた。



─何を…─────ッッ!!!!まさかッ!



奴隷ちゃんは狼のスピードをそのまま活かしながら、背中を蹴って男に飛びかかった。が、彼女は武器なんて持っていない。だとすればやることはただ1つ。



奴隷ちゃんは男とシャルの間に無理矢理入り、


それを見た瞬間、頭が急激に回り始める。すぐに魔法陣を展開し、攻撃魔法と治癒魔法を並列発動させる。



彼の者に罰を与えよッ!【魂の断罪】ッ!万物を癒せッ!【完全治癒】ッ!!



魔法陣が黄色と緑色に光り始める。魔法の並列発動。それは2つの詠唱を同時にすることで別々の魔法を発動させる技だが、これが出来る人間はヘレンを除き殆ど居ない。


1つを口で、もう1つを脳内で同時に詠唱することで発動出来るが、そもそも脳内での詠唱は魔力が脳に到達し、廃人になるリスクが高い。


それを可能にするのが、ヘレンの圧倒的聖力と解除されたリミッターである。魔力が脳に到達した瞬間だけ聖力へと変換し、身体へと送り返す。


普通の人間には一生掛けても出来ないことだが、ヘレンの解除されたリミッターによる反射神経と、並外れた魔力操作によってそれを可能としている。


男の身体が倒れる。と同時に奴隷ちゃんに【完全治癒】をかける。傷が深いが、今の私なら助けられるっ!!



「かふっ…。あぁ…間に合って良かった…」


「─ッ…。お願い戻って!」



奴隷ちゃんの口から血が溢れる。辛そうな顔をしているが、問題はない。徐々に顔色は良くなっているし、血も既に止まった。


良かった、助けられた。シャルも、少しナイフで切られたくらいで、大きな怪我は無さそうだ。



「ばかっ…なんで身代わりになるようなことしたの…」


「ふぅ〜…ヘレンが来てるのは見えてたし、牢屋での魔法も覚えてた。即死さえ防げればどうにかなると思ったから。」


「……これから絶対に同じことはしないで、私が…もっと強くなるから…。でも、助かったよ、ありがとう。ほら、シャルも。」


「ふぇぇ!!ありがとうございますぅぅ!!怖かったぁぁ!!!」


「あぁシャル!可哀想に…よしよし、今日は一緒に寝ようね。」


「いつも一緒に寝てるよぉぉぉ…!!びぇぇぇぇ!!!」



シャルは泣いちゃってるけど、安心して涙が止まらないだけみたいだし、奴隷ちゃんも無事だった。これで一件落着かな。


ってそうだ。ずっと奴隷ちゃんって呼んでて名前聞いてなかった。



「今聞くことじゃ無いけど、貴方名前はなんて言うの?」


「本当に今言うことじゃないね…雰囲気とか壊してない?……それで、名前ね。名前は───ヘレンが付けてほしいな。あんな…あんな奴から貰った名前なんて名乗りたくないよ。」


「ん〜そっか、分かった。名前ねぇ…」



今一度奴隷ちゃんの見た目を観察する。ショートボブのブロンド髪に、真っ黒の目がキラキラと輝いている。美しさを取り戻した肌は健康的な色をしていて、痩せてはいるがスタイルの良さを隠しきれていない。服はボロボロの布で、ところどころ肌が見えていてちょっとエッチだ…これ下着付けてる?


ヘルなら紳士だし、見てないだろうけど…後で引っ叩いておくか。一応ね、一応。


おっと、それで名前か…私達の組織名が花の名前だし、花から取っても良いかも。


彼女を象徴するなら…やっぱり「忍耐」だよね。何年も助けを望み、苦痛に耐え続けた。

彼女にぴったりな名は──



「デイジー。」


「デイジー?」


「そ、〈忍耐〉〈全てを耐え忍ぶ〉の花言葉を持つシャスターデイジーから取った名前。そして普通のデイジーの花言葉は〈希望〉、あと〈美女〉とかもあるから、貴方にピッタリだと思う。」


「デイジー…うん。美女って言うのは恥ずかしいけどいい名前…。ありがと、ヘレン。」



そう言ってデイジーは笑った。

花のように綺麗なその笑顔が、何処となく母親に似ていて…私は思わず抱き締めてしまった。



「わっ…。どうしたの?」


「なんでもない…」


「お姉ちゃんずるい!シャルもぎゅーってして!」


「ふふふ…シャル〜おいで〜」


「キャー!!」



私は2人をぎゅっと抱き締めながら、2人がこれ以上苦しまないよう、一切の甘えを捨てようと静かに決意したのだった。



────────────────────

どうも、ゆーれいです!


襲撃は今回で終わりだぁ!…まぁ3話分しか無いんですけど…。凄いノリで書いてるけど、割とストーリーになってると思います。

え、性格がところどころ違うって?うるさいうるさい。皆だってたまに変わることあるでしょ!


あーもう聴こえな〜い。作品のフォローと★での評価お願いしま〜す。


それではまた〜

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