第29話

仏壇に藍原さんの写真があった。


それは僕の知ってる彼女そのもので

現実を受け入れられない。

〈近藤さんどうして泣きそうになってるの?〉

と笑って驚かせてくれないだろうか‥‥


だが、そうはならなかった。

お線香をたてる自分の動作で思い知らされた。彼女は本当にもうこの世にはいない、と。


“近藤さん。ありがとうございました。

ひとつ聞きたいのですが

このクマのストラップに心当たりありますか?

楓凪から手紙と一緒に渡すように言われました。”


“はい。このストラップは以前

旅行のお土産として社員にあげたものです”


“そうだったのね。

縫い目がほどけるまで持っていたなんて

大切だったのね。近藤さんありがとね。

貰ったものをお返しするのは良くないけれど

これは楓凪からのプレゼントだと思って

持って帰ってあげてください”


僕はクマのストラップを手に家に着くなり

玄関に置いた。

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