デモンストレーション (8月30日7:00~8月30日7:30)

――20XX年8月30日 7時00分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス


「おはようございます。昨日は深夜までお疲れ様でした。今日はデモンストレーション決行日。昨日出た予測を基に、警察が巡回を強化しているが油断はできない。正直、情報が無さ過ぎて何もかもが手探り状態だ。…天道さんが来るかはわからないが、来たら詳細を詰めよう。他に何かあるか。」


渦雷からいはミーティング開始後、班員に今日の予定と行動方針を呼びかける。

あれから天道てんどうは姿を見せず、連絡もなかった。

なので、ありきたりな線からの予測しかできず、班としてかなり追い詰められていた。


そんな中、東雲しののめが発言した。


《あー、すんません。追加です。ネットに落ちている犯行予告や不穏な発言などピックアップした資料が…今、各自端末に送りました。3課1係4班ネフィリム達に協力してもらったんで、後でみんなからもお礼ヨロ。以上。》


東雲しののめは眠そうな声で報告した。

どうやら、あれから3課1係4班ネフィリム達と共に、徹夜で情報をまとめてくれていた様だった。

ありがたい。


実は昨日、SNS等でテロ予告やそれに近い投稿がされていないかも調べていた。

だが、1課2係7班だけでは全てを拾いきれる訳もなかったので、情報捜査の専門家プロである3課にヘルプを依頼していた。

手伝ってくれたのは3課1係4班で、ネフィリムはその班のリーダー。ヲタク口調の男性だ。東雲とかなり仲がいい。



「あ、私からも1点。昨晩、クソ天道にミーティングのお誘い送ってます。しっかり既読ついてるんで、無視したら許さん。…まだ来てないけど。以上ですー。」


晴野はれのは自分のタブレットを見せた。

そこには天道に送信した、以下のメッセージが表示されていた。


〔明日7:00からミーティングするから新情報と詳細持って来い。班を持つ上司の責任を果たせ。出来なければ今までの事と併せて管理能力の欠如で上層部に訴える。〕


言い回しと言い、流石は晴野である。思わず小さく笑った。

連絡役の仕事オペレーターを見事にこなしてくれている。ありがたい。



クソ上司天道は来る気が無いようだ。

先ほど晴野が言った「まだ来てないけど」の部分に殺意が混じっていたが、全員が同じ気持ちであるため、スルー。


実は、天道は元々特殊部隊に居て、なぜか公安に流れていた。

天道は特殊捜査本部の班を担当するとなった時、今まで培ってきた技術を活かしたいと考え、捜査から荒事までこなす1課1係の担当を希望していた。

だが、なぜか1課2係の担当になったと聞いている。


既に所定の期間が経ち、結果も出しているため、担当変更の申請をしてもマイナスにならないはず。

むしろ実績と経験を買われ、引く手あまたで移動しやすくなっているのに。

だから渦雷たちは、天道が移動を言いだすのを待っていた。


違う課で自分の班を持ちたいのであれば、今の受け持つ班の評判や実績も必要になる。

今回の一件は、確実なマイナス要因になるはず。

今まではプラスでも、今回マイナスが付いたらどうなるかわからない。



――目的の為にも、自分の評価を気にするタイプだと思っていたが…違ったのだろうか。



渦雷からいはそんなことを考えながら、2人に言葉を返す。


「2人とも、ありがとう。…他にはあるか?」

「無し。」


全員、同じ答えが返ってきた。

首を振る、バッテンを作る、などの動作を併用する班員もいた。


「では10分程で、追加の資料に目を通してくれ。その後、追加情報の精査と、昨晩の予測のブラッシュアップを行う。」

「はい。」


班員の声がそろった。




――20XX年8月30日 7時30分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス


方針を決めている途中に、班員のスマートフォンが一斉に鳴った。

表示されているメッセージは最悪なものだったが、当然と言えば当然の結果。


「…予定を変える。テロが起こった。届いた犯行予告の分析を開始する。また、現場の情報が上がり次第、精査する。」


渦雷からいが発言すると、雪平ゆきひらが口を開いた。


「すみません、犯行予告に目を通したら現場を見に行きたいです。【色】から何かわかるかもしれないので…。」


雪平ゆきひらは現場に行くことで手がかりを掴もうとしていた。

雪平は共感覚の持ち主であり、文字や景色、人の【色】を見ることで、ある程度の情報を高い精度で拾ってくることができる。

ただし、【色】が見えすぎてしまう為、運転などが苦手である。


確かに、事前に予測していた場所ではあった。

だが、人があまり集まらない、マイナーな場所を狙われたため、少々移動手段に困る。


テロが起こった今、この後の対応があるため、渦雷は席を外せない。

また、渦雷からいは運転免許を持っていない。



――どうしたものか



すると、霧島きりしまがすかさず口を開いた。


「僕が一緒に行くわ。雪平、目立つと面倒だから着替えていくぞ。タイピン忘れんなよ。」


霧島が車のキーを取り、指で回しながら席を立った。

周囲の野次馬に溶け込むことで、素早く状況を確認し、帰還するつもりらしい。


「霧島さん、ありがとうございます!みなさん、行ってきます。」

雪平は言いながら、霧島の後を追って仮眠室兼更衣室(男性用)に入っていく。


「わかった。まだテロリストや実行犯が潜伏しているかもしれない。気を付けて行ってきてくれ。」

「了解!」

「はい!」


プルルル…


霧島と雪平の返事と同じタイミングでオフィスの電話が鳴った。

すかさず晴野はれのが電話を取る。


「――はい…承知しました。失礼いたします。」


電話を切った晴野の顔色が悪い。

というかうんざりした顔をしている。

嫌な予感しかしない。


晴野はれのが言いにくそうに口を開いた。

渦雷からい氏―。伏魔殿から招待状が届いたー……阿久津あくつが今から来いってさ。あのクソ天道てんどうも一緒に呼び出されてるって。」


きっと今回の失態だろう。

自分が情報を渡さなかったことを棚に上げて、こちらを叱責する気だ。

目の前が真っ暗になる。


――行きたくない。


渦雷からいは気が重かった。

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