第4話 肉食獣は狩りで吠えない
ここではナノ光合成システムという、自然界の最も基本的なプロセスを模倣した革新が実現している。
システムは太陽の光を捉え、それをエネルギーへと変換することで、従来の太陽光発電の概念を根底から覆した。
特殊なナノ材料が光の幅広いスペクトルを捕捉し、その光エネルギーを化学エネルギーへと変換することで、明るい未来への道を切り開く。
学園全体がこのシステムによって得られるエネルギーで運営されている。これは建物の窓ガラスや壁面、さらには衣服に至るまで、どこでもエネルギー生成が可能となる柔軟性を持つ素材だ。
環境負荷を大幅に削減し、自己修復機能によって長期間の安定使用を実現するこの技術は、未来ノ島学園を持続可能なエネルギー供給の先駆けとしている。
一方、未来ノ島の警備体制は、最先端のテクノロジーと人の手による暖かな配慮が融合した理想的な安全環境を提供している。
桐崎ヴィンセントが経営する警備会社、『エイジス・セキュリティ』によって構築されたこのシステムは、セキュリティドローン群、AIセキュリティネットワーク、生体認証ゲート、サイバーセキュリティディフェンス、そしてエマージェンシーレスポンスチーム(ERT)など、多層的なシステムから成り立っている。
もちろん、日本国内であるからには日本警察、自衛隊との連携も必須だ。
最先端の技術を持つ夢の島であるため、テロの標的となる可能性も考慮しなければならない。
空からは数百台のドローンが警備を行い、AIが島全体のセキュリティを統合して監視している。異常行動を早期に察知し、迅速な対応を可能にしている。重大な犯罪なら、実行前に兆候をとらえたシステムが監視ルームに通報する。
高度なシステムによって連携し、組織間での情報の齟齬を極力防ぐ仕組みをこの島では試験的に導入した。今では全国に先駆けた巨大な社会実験場のようになっている。
島への入出口に設置された生体認証ゲートは、未承認の入島を防ぐ最後の砦となっており、サイバー空間のセキュリティも万全を期している。
ここを東京都未来ノ島区とすることで、都のプロジェクトとして先進技術の導入が容易であり、失敗した際のリスクもこの島内で処理できるという事情もあった。
未来ノ島は、これらの革新的技術と緻密に織りなされた警備体制により、世界でも最も安全な場所の一つとして名を馳せていた。
未来への架け橋となる未来ノ島学園、そして未来ノ島は、科学と人間性が調和した新たな社会のモデルを世界に提示しているのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
高専の教室は朝の光で柔らかく照らされていた。前方の電子黒板の前に立つ担任教師が、白いチョークで一つの名前を書き込む。
その隣に立つユエンは教室に一瞥を投げ、生徒たちの好奇心に満ちた視線を一つ一つ受け止めながら、軽く挨拶を交わす。
「
彼の声は落ち着いていて、どこか遠くを思わせるような響きがある。
180センチは軽く超えているだろう彼は、高い身長とがっしりした肩幅が目を引く。皆はその体格のスケールに驚き、短く感想を述べあっている。チェン・ユエンは皆と同じような黒髪だが、前髪が軽く目にかかるスタイルで、前髪に入った白銀のメッシュが個性を主張していた。
制服はセンス良く着崩されている。どことなく野性味のあるような風貌の中で、ヘーゼルの瞳が理知的な光をともしていた。そして、挨拶が終わるとポケットに手を入れる。その動作は多数の生徒にとっては、どことなく感じる凄味と、強者の余裕として映った。
彼は静かに教室を見渡す。生徒たちの間をゆっくりと眺めた後、最後方の席に座る一人の少年、柳の姿に目が留まる。
目元にはほんのりとした笑みが浮かび、柳との間に目に見えない何かを共有しているようだった。
柳もまた、その視線を受け止めると、少しだけ首を傾げて応える。彼らの視線の交換は一瞬のことだが、その短い時間の中に、語られていない物語が満ち溢れているように感じられた。
周囲の生徒たちのざわめきは、新しい顔への好奇心と授業の始まりへの準備の中で静かに消えていく。しかし、その日の教室の空気は、何かが始まる予感で微かに震えていた。
ホームルームが終わり、クラスメイトたちが各々の予定に向かって教室を出て行く中、隣の席のクリスが柳に向かって小声で尋ねる。
「知り合い?」
柳は一瞬考える。
「いや……多分、知らないはず……」
彼は自分でも確信が持てないような返答をする。確かにユエンのあの行動は、既知の間柄でなければ成立しそうにないものだった。
しかし、柳にはそのような記憶がない。
クリスはさらに付け加える。
「有名人だからかな? アメリカの有名選手なら、ここに来る前に調べたのかも。でも、それにしては初対面の柳にあの感じは、ちょっと何なのかなって思っちゃったよね」
柳はその言葉に反応しようとするが、その前にユエンともう一度目を合わせ、何かを確かめたいと思い立ち、ゆっくりと立ち上がる。
しかし、その時、彼は目の前の現実に、ある種の違和感を覚える。ユエンが彼に明らかなコミュニケーションの意図をもって笑顔を向け、目線を交わしたのは事実だ。
それがなぜか今、ユエンの姿に焦点を合わせたとき、彼はクラスメイトからの質問攻めをはぐらかし、既に教室の扉から出て行くところであった。
柳はその背中を見つめながら、混乱と好奇心が入り混じった心境になる。
その瞬間の交流は、確かに実際に起きたことだが、同時に彼の心には説明できない種類の迷いが生じていた。ユエンは一体、何者なのだろうか。そして、彼はなぜ、あのように柳に接したのだろうか。
クリスの言葉が再び彼の意識に戻る。
「初対面にしては、ちょっと変だよね……」
柳は頷くしかなかった。それが今の彼にできる、唯一の答えだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
放課後、柳は学校の工作室で黙々と作業を進めていた。
目の前には部分的に分解された電脳装置が広がっており、柳はその修理に集中していた。彼は試合で使用する装置が少し調子を落としていたため、今はそれを直すことに専念している。
そんな集中を優しく割って入る声があった。
「……柳?」
その声に反応して顔を上げると、朝に教室で見た新しい顔、チェン・ユエンが立っている。
「……ええと、チェン・ユエン…くん? 僕と、知り合いだっけ?」
柳が戸惑いを隠せないまま尋ねた。
ユエンは静かに微笑み、「ちょっと違うかな」と言い、手に持っていた小さな部品箱をテーブルに置く。
「……なんて呼んだらいいかな?」
柳が更に問う。
「おれは……ユエンでいいよ」
返答は穏やかだった。
「君のことも、なんて呼ぼうか。皆にはなんて呼ばれてる?」
返された質問に、柳は言い慣れた返答をする。
「柳でも東雲でも構わないよ。でも友達は大体、シノって言うかな」
「シノか。それがいい」
チェン・ユエンは柳の椅子に距離を詰め、大きな掌を見せた。腕につけられた金色のチャームが揺れて、小さな音をたてる。
柳は彼の無言の提案に感謝し、二人で装置の修理を始めた。ユエンは言葉少なく作業を手伝うが、その手際の良さに柳は驚かされる。
「上手いね。どうしてこんなに手早くできるの?」
柳が興味深く尋ねると、「……色々といじってきたからね」ユエンは淡々と答える。
作業が終わる頃、工作室は夕日に染まっていた。装置は無事に修理され、柳はユエンに感謝の言葉を伝える。
「ありがとう。今日は助かった。また何かあったら頼むかもしれない。その時はよろしく」
ユエンは笑顔で応じる。
「いいよ、何でも言って。シノ」
その一言には何かを託すような暖かさがあった。
柳はその場を離れるユエンの背中を見送りながら、彼が一風変わった人であることを改めて感じる。そこにはわずかな違和感も混じっていた。それでも、柳はユエンの優しさと協力に感謝を感じていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中庭は昼休みの賑わいで満たされていた。ベンチに座る学生、立ち話をしているグループ、それぞれがひと時の静寂の中で、目の前の光景に注目していた。
その中心で、バスケットボールを手にした柳が友人たちと軽快に球を扱う。
「OK、チーム替えてやってみようか!」
長岡が手を合わせながら大声を出し、周囲の野次馬や参加者たちが沸き立つ。皆がチーム変更によるパワーバランスの変化と、この昼休みお決まりのゲームに新たな出来事が追加されることに対する期待に満ちていた。
そんな彼らの輪に、ひときわ目立つ新顔が歩み寄る。
「シノ? ……ちょっと混ぜてもらえるか?」
コート内を割って入ったユエンの声に、一瞬、場の空気が凍りつくような一層の静寂が流れた。しかし、柳はすぐに笑顔で応えてやる。
「いいよ、来てくれ。いいよね?長岡」
「ああ、いいぜ。じゃあ東雲もいるし……俺のチームで」
長岡がチームの編成を指示する。この返答を合図に、周囲の学生たちは手元の携帯端末や腕時計型端末を操作し始めた。
彼らはユエンの背の高さ、がっしりとした体格、そして何よりもアメリカの高校生部門でのネオトラバース優勝という戦績に目を輝かせた。
野次馬たちのざわめきが次第に高まりを見せ始める。
「……おい、あれって転校生だろ、東雲のクラスの」
「アメリカから来たんだって!」
その声に続くように、別の声が加わる。
「ネオトラバース高校生部門全米優勝?!」
「マジ?!」
疑問の声が交差し、更なる好奇の目が二人に注がれる。
「プロ入りの打診があったが突然日本へ……」
「えっ?! なんでそんな人が島に……」
「ドキドキしてきた!」
周囲の期待感が、二人の間に生じたわずかな距離を一層際立たせる。
柳は心の中で溜息をついた。彼はこの突然の対決に集まった学生たちの期待に応えることができるのか、自問自答する。しかし、心を奮い立たせるのは、彼らの間に生じている言葉にはできない種類の緊張感だった。
「でも、シノくんもすごいんでしょう?」
「どっちが勝つんだ……」
彼らの言葉は柳の耳に届くが、その瞬間、彼の心は既にゲームに集中していた。
ボールが動き出す前の一瞬、中庭は畏敬の念に包まれたかのような静けさに満ちていた。
そして、ボールが動き出すと同時に、その緊張は一気に解放され、場の空気は一変する。二人の動きに合わせて、学生たちの歓声が再び中庭に響き渡る。
「うわ、すげえ、でけー! ゲームのスピードが変わったぜ!」
「やばい、パワーが違うわ! 面白くなってきたんじゃないの?」
ユエンの目には、静かなる自信が宿っている。
柳はボールを軽やかに扱う。彼の動きはまるで風を切るようで、見る者を魅了した。
一方、ユエンも負けじと、彼の体から発する独特のエネルギーを使って、ボールを操る。数度のボールの取り合いが起こり、柳はチームメイトにパスを渡そうとするが、チームメイトの反応が僅かに遅れ、ボールは奪われる。
「長岡! 回せ回せ!」
長岡にボールが渡る。しかし柳のカットがすかさず入り、周囲の他の生徒たちのマークもあり不利と判断した彼は、フェイントをかけながらユエンにボールを投げた。
「いけ、チェン!」
「任せろ!」
一方の柳は、内に秘めた集中力を静かに燃やしていた。周りではまだざわつく声が聞こえているが、二人にとってはそれはもはや遠い世界のことだった。
「……あっ?!」
柳にボールを奪われ、ユエンはそれを追う。あっという間に追いつき、奪い返そうとしたボールを柳が指先で操り身体を挟んで、奪われまいとステップを踏んだ。
しかし、パスできる相手が視界にいない。振り返り確認しようとした瞬間、ユエンにボールを奪われた。
「もらい!」
高く結んだ長髪が目の前を横切り、柳は歯噛みした。
「……この……!」
ユエンの動きには、アメリカでの経験が生きた独自のテクニックが見られる。迷いのないドリブル、長い手足が可能にするダイナミックな動きは、柳にも対応が難しいものだ。
ユエンを除けばこの場では一番背の高い彼でも、ユエンと15センチの身長差がある。
スピードと反射神経を研ぎ澄まされたアスリートとしての勘も、現実世界の尺度に合わせる技術と経験によっては裏目に出ることは、長岡も知っているとおりだった。
しかし、その点においてはユエンも同じことだ。
「長岡!」
ユエンは追ってきた柳と、一瞬だけ目が合う。神秘的な光が鋭く細められた眼光は、畏怖すべき対象として彼の脳裏に刻まれるほどのものだった。
まずい。
刹那に飛ばされたボールを長岡がキャッチし、ドリブルでゴールに向かおうとするが、ユエンを追い越して噛み付いた柳がまたもボールを奪い返した。一歩踏み込むごとに鋭さを増すプレイスタイルは圧巻で、ユエンは油断ならないと覚悟した。体を巡る血液を速め、獲物を追う。
「くそ! カット! カットカット!」
歓声が大きくなり、上階の窓が開けられた音が聞こえてきた。
写真や動画を撮るデバイスの電子音までがあちこちから発せられている。このゲームは高専の勢力図の一部となり、生徒たちの話題は観戦者の感想とそれに伴うパワーバランスの変化、ユエンの参入でもちきりになるだろう。
全米優勝の経験を持つというチェン・ユエンは、柳と同じかそれ以上の各種能力を持っていることだろう。
アメリカでの経験から、その能力は現実世界でのスポーツに適したレベルに、現在は調整されているはずである。『慣れ』というものも、ネオトラバース選手の間において、現実ベースの肉体を操るための重大要素だ。
二人は浮いたボールの軌道を計算しながら言葉を交わす。
「盛り上がってきましたね、東雲選手?」
「……ふ、集中しないと、また出し抜かれるんじゃないかな?」
「ははっ、お前最高だよ!」
試合は次第に激しさを増していき、二人は互いに譲らず、柳のスピードに対して、ユエンは予測不能の動きで翻弄する。
周囲からは歓声が上がり、その中で二人だけが別世界にいるかのようだった。銀灰色と淡褐色が衝突する。
しかし、クライマックスに差し掛かった時、予期せぬ出来事が発生する。激しい攻防の末、ボールが突如として破裂したのだ。
「うわ!」
その瞬間、場の空気は一変した。
驚きのあまり固まっていた二人の表情が、次第に和らぎ、ついには笑い声が漏れる。その笑い声が、突然の破裂音に緊張していた中庭の空気を一気に緩和させた。
「……なんだよ、これは」
ユエンは破裂したボールを見つめながら言う。柳もまた、同じく笑みを浮かべていた。
「まさか、こんなことになるとはね」
この予期せぬ出来事が、二人の間に奇妙な絆を生み出した。
周囲の学生たちもその変化に気づき、彼らに対する見方が変わった瞬間でもあった。
「今度は新しいボールでリベンジだな」
ユエンが言うと、柳は頷き、昼休み終了の予鈴が鳴り響く。ユエンは柳の肩を組んで教室へ足を向け、柳は微笑みで返しながら共に歩を進めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
春の日差しの中、柳とクリスが並んで歩く姿は、周囲から見てもなんとも微笑ましい光景だった。
ただ、その二人をじっと見つめる一人の視線がある。それはユエンからのもので、彼の目は何かを探るように、柳とクリスの間の空気を読み取ろうとしていた。
柳がその視線に気づき、少し首を傾げてユエンに問いかける。
「……何かあった?」
「ああ、悪い。そういうつもりじゃないんだ」
ユエンは急いで言い訳をするが、その「そういうつもり」とは具体的に何を指しているのか、柳にはさっぱりわからなかった。
「……ごめん、何が?」
柳の素朴な疑問に、ユエンは一瞬言葉を失い、唖然とする。
クリスもこのやり取りに耳を傾けていて、ユエンの視線の意味を察知すると、わずかに頬を膨らませ始める。まるで彼女なりの抗議のようだ。
……このかわいらしい女の子が東雲柳の交際相手だとすれば、なるほど納得のできる話ではある。あるが。
「……だから、何が?」
柳が再び問う。この時の彼の声には、ただ純粋に疑問を呈しているだけの、無垢な響きがあった。
「お前、マジかよ……」
ユエンは顔を覆い、ため息をつきながら絶句する。この二人の間に存在する、誤解されがちな微妙な距離感を、彼はようやく理解したのだ。
その間にクリスは小さな足音を立てて、先に教室の入り口へと向かう。ユエンは彼女が去っていく姿を目で追いながら、深く考え込む。そして迷いながらも、再び発言しようとした。
「……あー……その……シノ」
「何?ユエン」
そして、彼女の背中を見送った後、柳に向き直り、何か言いたげな表情を浮かべるが、結局何も言えずにいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
放課後の教室は、日の光が斜めに差し込む穏やかな空間だった。
机に向かい、何かに集中しているクリスの元へ、ユエンが静かに近づく。
「……あ、シノの……」
ユエンが切り出すと、クリスは顔を上げて彼を見る。
「……クリスだよ。チェンくん」
ユエンは、少し緊張しながらも彼女の名前を呼ぶ。
「クリス、昼間はごめん」
素直に謝罪する。まずはここをクリアしなければ、彼女との円滑な会話は成立しないだろう。
「……何がですか?」
クリスの声には、少しの苛立ちが含まれていた。大きな瞳が長い睫毛に縁取られ、薄い金髪が揺れている。
むくれている顔すらも可憐な彼女を見ていると、東雲柳との交際の事実がないという話が不自然なものに思えて仕方がなかった。
「……クリス、シノのことが好きなんだろ?」
ユエンはあえて直球で質問する。クリスは一瞬、息をのんだ。
「……っ、はあ……」
彼女は深く息を吸い、少しだけ視線を彷徨わせる。すらりとした指が口の前に組まれ、次の発言に苦心しているようにも見える。
「……違ったらごめんね」
ユエンは慎重に付け加える。
「……違うよ。大当たり……でも、関係は幼馴染。17年間変わらずね」
クリスは諦めたように、そして少し寂しげに告げる。軽く引き結ばれた唇はほのかに赤く、彼女の中の柳への感情が表されているかのようだった。
「……シノって、いつもああなの?」
ユエンは好奇心から質問する。
「そう」
クリスの答えはシンプルだった。
「へえ……そんであんたは……」
「そう。自覚したのは12歳くらいかな。最初は恥ずかしくて、でもそれから……」
クリスは遠い目をして、ほんの少し笑みを浮かべる。
「……あんた、苦労してるんだなあ」
ユエンは、クリスの言葉の重みを感じ取りながら同情的に言う。
「そうだよ。本当、大変なんだから」
クリスは答えると、再び前を向いた。その唇はほんの少しの笑みを浮かべている。長年の想いが静かに宿っているようだった。
しかし、彼女は決して諦めないのだろうということが、その真剣な眼差しからも読み取ることができる。やがて立ち上がり軽い挨拶を交わすと、彼女は軽やかに荷物を纏めて教室を去っていった。
ユエンはクリスの柳への深い想いと、それに対する彼女自身の複雑な感情を少しだけ理解する。そして彼女の静かな強さに、心を打たれるのだった。
「どういうことか知らないけど……早く収まるところに収まったほうがいいんじゃないか、東雲柳」
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