恐るべき終焉

古村あきら

恐るべき終焉

 月のない夜だった。

 天井の隙間から漏れる、どこか人工的な光が、ぼんやりと辺りを照らしていた。

 廃墟を思わせるその場所に、黒い装束に身を包んだ影のような姿が、ぽつりぽつりと集まり出す。誰も言葉を発することなく、しわぶき一つ聞こえない。何かに怯えるように身を寄せ合い、柔らかな光からさえ我が身を隠すように隅に固まる。

 微かに渇いた音を立てながら、影は少しずつ増えていき、やがて狭い部屋は喪服に埋め尽くされる。暫くして、入り口は厳重に閉ざされた。

 空間を覆い尽くしているのは、悲しみであった。家族を亡くし、我が身の行く末にも一抹の希望すらない。親の、夫の、子供の、友人達の、後を追うしかないのだという諦観ていかんが満ちていた。

「我々は、多くの仲間を失った」

 長いひげを垂らした長老が、しわがれた声でそう言った。小さな啜り泣きと、カサコソという衣擦れの音が、あちこちから聞こえる。

 長老は白く濁った眼で辺りを睥睨へいげいし、前に進み出た。スクリーンの前で柱に寄り掛かる彼の、膝下で千切れた脚が、画面に奇妙な陰影を作る。身にまとう艶の無い黒装束は、長年の戦いの痕跡であろうか、あちこちが擦り切れ、染みついて取れない血の匂いすら感じられた。

 やがて彼は、重々しく言葉を繋いだ。

「だが、諦めてはいけない。逃げ延びなければいけない。……生きねばならない」

 けれど、あちこちで、投げやりとも思える溜息が漏れる。

「……無理だ」

「勝てっこない」

 呟く声を聞いて、長老は目を伏せた。

「……そうかも知れん」

 長い沈黙が、啜り泣きを際立たせた。その声が奴らに聞こえるのではないかと恐れるものが、彼女たちの背を撫で、泣くのをやめさせようとする。

「奴らは、次々と新しい兵器を開発している。けれど我々が把握しているのはわずかであり、まだ防御の方法すら見付けることが出来ていない」

「……お手上げだ」

「逃げ出そう」

「だが何処へ。何処へ逃げろと言うんだ」

「何処へ逃げても同じだろう。我々は駆逐くちくされる運命にあるんだ」

 行き場のない怒りと、ヒステリックな泣き声が広がる。だが次の瞬間、頭上に響いた爆音が、彼らを沈黙させた。

 見上げた視線の先には、絶望があった。

 天井近くに開いた隙間から黒い管が差し込まれ、やがてシュウシュウという音とともに毒を含んだ白い煙が部屋を覆い尽くす。

 藻掻きながら仰向けに倒れた長老の、視界に入った最後の風景は、スクリーンに映った、奴らの兵器の概要だった。すべての命を惜しみなく奪う、殺戮さつりくの為だけに作り出された、世にも恐ろしい兵器。

 若い仲間が命を懸けて手に入れたその情報は、しかし既に時代遅れのものと成りかけている。

 Cook‐Loach

 BULL‐SUN

 GokiBuri‐HoingHoing


「……終わりだ」

 最期の呟きには、何の感情も含まれてはいなかった。



                               終わりだ

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恐るべき終焉 古村あきら @komura_akira

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