第8話 遺跡を抜けると、そこはエロトラップダンジョンだった。
夕日の差し込む遺跡群は静寂に満ちていた。
この一帯は魔物も少なく、安全と言えば安全だ。
「さて、中に入るとするか」
「待って、ジンパチ」
遺跡の一番大きな建物の中へと足を踏み出そうとすると、ミリーダに袖を掴まれた。
「ん? どうかしたか?」
「私、暗いとこだめなのー(棒)」
上目遣いに言ってくるものの、言葉はあまりにも棒読み、状況を利用して少しでも引っ付こうとしているのだろう。
「えぇ、お前暗殺者じゃん。暗いとこは専売特許だろ」
「……ちっ」
やはり図星。
「ほら、行くぞ。アテナー」
「……少し、待て」
王国の鎧ではなく、先程道すがら購入した装備と剣を携えたアテナは何やら神妙とした顔で、ダンジョンの入り口を睨んでいる。
「何か、感じたのか?」
「はぁ!? か、感じてなどいないっ!」
「そういう意味じゃない。雌豚さん」
ミリーダは冷ややかな目をアテナへと浴びせた。
「くっ、殺せ……」
流石に今回は、自分の間違いに気づいたようで、言い返しては来なかった。
「それで、何か分かったのか?」
「……このダンジョン、恐らくは途轍もない怪物がいるな」
それは、騎士の勘か何かなのだろう。何処か確信めいた言い方をする辺り、流石だ。
「ああ。この奥にはな。古代の怪物がいる」
「なっ!? 古代の怪物だとっ!? そんなダンジョンに三人で向かうというのかっ!!」
「だから、三人なんだよ。何事も適切な数ってもんがある」
これまでの経験上、ダンジョンに適した人数とは、三人以下だとルークは知っていた。
人が多すぎても戦い辛く、食料の確保も難しいからだ。
「貴様は、ダンジョンには慣れているようだな」
「ああ。割と詳しい部類だ、基本的に拷問官ってのは暇なんだよ」
「ならば、何も言うまい」
「ああ。なら、俺もわざわざ何も言わないことにする」
言わない。それは何故、ルークがいくつものダンジョンを踏破してきたのか。という疑問に対する答えではなく。
「……ここがエロトラップダンジョンであることは、言わないことにするとも」
***
エロトラップダンジョンとは、同人誌におけるなんか卑猥な罠ばかりが存在するダンジョンのことを言う。
そう、つまり何が言いたいかというと。
「な、なっ! なんだあれはっ!」
「あー、ついにお出ましか」
「……きもちわるい」
ダンジョンに入って、三時間ほど進み続けた末、ついに一つ目のトラップが現れた。
細い廊下、背後から迫るは……。
「走れっ! 超ロング触手の群れだっ!」
無数のてらてらとした光を放つ触手達。
ちなみに、あだ名ではなく、種族名が『超ロング触手』なのだ。
「ジンパチ、お先に」
「ちょ、おま……はやっ!」
ミリーダは狭いダンジョンの一本道を脱兎の如く駆け出した。
流石は暗殺者の脚力。一瞬にして、その姿は数十メートルは遠のいた。
「くっ! こんな怪物っ! 成敗してくれるっ」
「あー、一応言っとくぞ? アテナ」
「貴様っ! こんな時に何を言うつもりだっ!」
迫る触手。アテナは剣を抜くと、中段に構えた。
「その触手に、斬撃は効きません」
「はぁぁぁ!? 計ったなぁぁぁ!!」
「いや、その……それと戦おうとは普通、思わないかなーと。気持ち悪いし」
アテナは剣を腰に戻し、踵を返すも時は既に遅し。
「や、やめろっ! このっ! このぉ!!」
触手はまず、逃げられぬように両足首を絡みとると、次は両腕を頭の上で拘束する。
「おー、絶景だなぁ」
確かに、女騎士と触手は……なんというかその、エモいな。同人誌界隈で人気だったのも頷ける。
ルークが一人頷いていると、
「見てないで、助け……ひっ!」
鎧の下、剥き出しになった脇に触手が這い回わる。
「あ、ああっ!!! やめ、やめろぉぉ!!」
ばたばたともがくアテナ。しかして、一切拘束は緩まない。次第に、触手は本数を増やし、鎧の隙間から侵入し始める。
「ひやぁぁぁ!!! 無理ぃ!! そこはダメぇぇ!!」
「い、一体……その下で何が起こってるんだっ!」
胸の中に、熱いものを感じながら、ルークはアテナを眺めていた。
「くっ!! うぅ!! イっ!!」
アテナの四肢がぴくぴくと痙攣し、その目が艶やかに蕩け出す。
「あ、そろそろ助けてやるか」
ルークは歩いて近寄ると、差し迫る触手の群れを全て掌によって、捌く。
「満足……できたか?」
「う、るさい。早く、解いてくれ」
「はいよ。──
ルークが縦一線に放ったその技に、アテナの全身に絡みついていた触手たちの一切は断ち切られた。
解放されると同時に、アテナの体はルークに覆い被さるように倒れてくる。
「よっ。大丈夫かー?」
「そう見えるなら……目を取り替えてこい、外道め」
「あ、粗相ですね」
「くぅぅぅ!!!」
……なぜ、この女騎士は学ばないのか。
失神したアテナを担いだまま、ため息混じりに、ルークは進み始めた。
さて、ミリーダは一体どこまで……。
「ジンパチ、こっち」
声が聞こえたのは、しばらく歩いた先。視線の……下。
「え? 何してんの?」
床からひょっこりとミリーダの頭だけが飛び出している。
「走ってたら、落とし穴に落ちたの」
「ほ、ほう。なるほど、大丈夫か? 痛くはないか?」
「別になんとも……感覚がしないから」
「っっっ!!!! なんだってぇ!!!」
ルークの悲鳴がこだました。それは、触手が出てきた時とは、一線を画すものだ。
そう、なぜなら元の世界でその落とし穴のことを。
──感覚遮断落とし穴と、呼んだからだ。
────
あとがき
お読みいただいてありがとうございます。
これからも頑張って続きを書いていきますので、作品フォローや星レビューを付けて応援していただけると、とても嬉しい限りです。
どうぞ、よろしくお願いします!
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