第2話 女騎士と奴隷印
「あ、あへぇ……」
目の焦点が合わぬまま、仰向けに倒れ伏した女騎士。その豊満な胸や引き締まった腹部には、薄い黒のインナーが汗で張り付き、つるつるとした生地の表面を艶めかしく松明の光を照り返している。
「こんなもんか」
情報は引き出した。
扉の正面に取り付けられた松明から伸びた赤の光が、その濡れそぼった太ももを艶やかに照らす。
女騎士の嬌声が止んだからだろう、再び拷問部屋の扉が開く。
入ってきたのは、黒いドレスの女。
レイズだった。
「相変わらず、鬼畜ね。──ルーク。情報は聞き出せたの?」
「そりゃ、もうバッチリ。ほれ」
名を呼ばれた男、ルークはにやりと笑うと、筒状の羊皮紙をレイズへと投げ渡す。
レイズはルークを一瞥したのちに、羊皮紙を開き、つづられた文字をゆっくりと目でなぞり始めた。
「……確かに。さすがは、最強の拷問官。報酬はあとで払うわ」
「その体で払ってくれてもいいんだぜ?」
「少しは自分の立場をわきまえなさい。普通、上司にそんなこと言った時点で、貴方は粛清されてもおかしくないのよ?」
「でも、粛清しない……だろ? 何せ、あんたの目的には、俺の能力が必須。そんなにあっさり俺の首は切れない。違うか?」
レイズは大きなため息を漏らした。ルークの言葉が図星だったのだろう。
「さて、他の仕事はもうないな? なら、俺はこれで……」
「いいえ、まだあるわ。その女よ」
レイズは今だにビクビクと卑猥に四肢をを震わせる騎士へと白い指を差した。
「ん? なんだよ。この騎士はもう用済みだろ?」
「まだよ、その騎士のこと貴方は何も知らないのね」
ルークは今一度、騎士へと目を向け、凝らすように見た。
鎧を見るに、王国の貴族騎士の一人。金色の髪に、白い肌、青い目。今では見る影もないが、顔立ち自体は美しく、凛々しい。
「普通に、王国の貴族騎士じゃないのか?」
「彼女は、普通の騎士ではないわ。名前は、アテナ・ラーテル・スー。王国でも有数の実力を持つ騎士」
王国でも有数。なれば、世界でもトップクラスだと言える。それほどに、この世界においては王国の実力は優れているのだ。
「ほーん。そりゃさぞ、強いんだろうな」
「ええ。だから、貴方にあげる」
「あ?」
「好きに使いなさい? 今のように屈辱を与えるでも、王国の民に堕ちた淫らな姿を見せつけるでもよし」
「あー、なるほどね。あんたはこいつを俺に有効活用しろって言いたいわけだ」
「ええ、そういうこと。だから、これを使いなさい」
与えられたのは、四方形の金印。
「これは? いや、待て……まさかと思うが、奴隷印か?」
「よく知っているわね。流石は、転生者」
「まあな、同人誌……この世界でいう聖典で読んだことがある」
「異世界の聖典……流石ね」
レイズが真面目に羨ましそうな顔をしているのを見て、ルークは笑いを堪えるのに必死だった。
「……あ、ああ。ほんと、あんたに見せてやりたい……よ」
「どうかした?」
ルークのそんな様子を見て、訝しんだようにレイズは目を細めた。
「いや、何も。どうやって使うんだ?」
「まずは、主人を設定するのよ。貴方の、手の甲にでも押しなさい」
言われるがまま、押す。肌の表面がじわりと熱を持つような感覚がした。
「次に、貴方の奴隷になる者に押しなさい」
「やけに簡単だな。こっちは何処に押してもいいのか?」
もっと何か条件があると思っていたのだが。
「安心しなさい。既に他の煩わしい条件は拷問の最中に達成しているはずよ」
「なるほどね」
都合のいい限りだ。ま、そうと決まれば何も問題はなかろう。
「で、次は?」
「それは貴方が、その騎士をどう扱うかによるわね。奴隷が主人に背いた場合、押した場所に魔法による苦痛を与えるから」
「ほうほう。なるほどねぇ。じゃあ」
ルークは印を手に、いまだ恍惚とした表情で天井を眺める騎士の元へと歩み寄った。
「おーい、大丈夫かー?」
「…………はっ! な、何をする気だっ!!」
目が合うなり、騎士は我に帰ったようで、きりりと睨んでくる。しかして、先程までの威圧感はない。寧ろ、少し照れている様に見えた。
(よし、完全に堕ちてるな)
ルークは確信するともに、手に持った奴隷印をちらつかせる。
「お前を奴隷にする。まあ、安心しろ。しっかり使ってやるから」
「きっ、貴様っ!」
「そうだなぁ。心臓の上か、利き手……いや、そう言えば、同人誌じゃ、お決まりのいい場所があったな」
ルークは屈むと、騎士のインナーを破る。
「──さてさて、ここにしようかな」
「ひっ!? やめろぉ!!」
「じっくり調教してやらねぇと、な」
ルークが印を押し当てた場所。
それは、下腹部。ちょうど、子宮の上に当たる場所だった。
「んっ! あっ……」
「さて、これでいいのか?」
女騎士の下腹部に紋様が現れたのを確認して、ルークは振り返った。
「ええ。それで契約は完了よ。私は外で待っているわ。色々するなら早く済ませて」
この女。何を想像しているんだ? そんなことを思った矢先、ルークは思い出したように言った。
「ちょ、報酬は?」
「それよ。好きに使いなさい。構わないでしょ?」
「あ、あー。そういうことね」
「それじゃ、ごゆっくり」
レイズはそのまま、かつんかつんとビールを鳴らして、尋問部屋から去って行った。
なんとも、さっぱりとした女だ。
「……」
気まずい。なんと言うか、お互い事後的な……。
「き、貴様! 今からい、一体何をする……つもりだ」
その目はなんとも何処か……。
「あー、お前……なるほどね」
うん。そうだよな。ルークは確信した。
この女騎士は……。
「お前、くっころ騎士じゃん」
多分、誘い受け系なのだ、と。
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