龍の宝珠
「それは龍の
「多分、そうだろう」そう言って、流果は赤い城の話を始めた。
<赤い城について流果が語ったこと>
赤い城が龍の頭部であることに気づいたのは、城内に侵入して数ある赤い部屋をひとつずつ探索していた時の事だった。
とある部屋に入ると正面に大きな窓がふたつあり、そこからは巨大な天の屏風のように連なる白い山々が眺められた。
あれは私たちが目指している場所だ…流果は直観的に思った。思った瞬間、景色はズームインして、山並みの麓に赤い家々が見えた。
赤音の風景に似ているようにも思えたが、もっと大規模で、放射状に配置された家々は街を形成し、その中心に石と木で積み上げた巨大な寺院か要塞のような建物と建物を取り囲む広大な森が見えた。
自分の意志で自由に景色をズームできるとわかると、流果は拡大して詳細を眺め、縮小して全体を眺めた。
流果は思った。ふたつの窓は龍の眼で、自分は龍の脳内にいるのではないかと。そして閃いた。
「龍の脳内には、龍の神通力の源である宝珠があるはずだ」
流果は「龍の眼の部屋」を出ると、赤い暗闇の階段をさらに上っていった。
雷光が止むことなく暗闇を照らし続ける最上階の部屋で、それを見つけた。
雷の閃光が幾筋にもなって台座に乗せられた宝珠を突きさしていた。部屋の上部には天井が無く、ドーム型の柱の間から深淵なる宇宙が見えた。
流果の目の前で、宝珠は生き物のように色を変え、辺りを炎の色で照らし出した。
全て幻かもしれない…そう思いながらも、踊るように色が変化し、凝縮されるようにサイズダウンしていく宝珠からしばらく目を離すことができなかった。
雷光の雨が止むころには、宝珠は手のひらに乗るくらいの大きさになっていた。
無限に続きそうな幻想から覚めたばかりの心地のまま、流果は思わず宝珠を手に取ると、階段を駆け下りて城門で待機していた馬に跨った。
馬を歩かせてゲートを出た瞬間、辺りが一変して静謐な夜になった。振り返ると、巨大な赤い城は幻のようにかき消えて、眼下に白い雲海が広がるばかりだった。
この雲の下には「龍の眼の部屋」で見た景色があるのかもしれない…そんなことを考えながら、タテハたちのいる赤い迷路へと続く星空の階段の頂点でしばらく思いを巡らせた。
数分経っても厚い雲は視界を遮ったまま微動すらせず、どこまでも広がっていた。
この雲の下に我々が目指す安住の地があるに違いないとは思うものの、すき間なく敷き詰められた雲のせいで確かめようがない。宝珠を手に入れたことでもあるし、取りあえず元の場所に戻ってから考えよう…流果は思った。
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僕は流果が見た巨大な寺院のことが気になり、何度も流果に質問した。流果もその建物が特に印象的だったらしく、一つ一つ詳しく説明してくれた。
流果の話を聞きながら、僕はある建築関係の本を思い出していた。インドのサラハンにある壮大なビーマカーリー寺院の写真だ。
ヒマラヤ杉と石を交互に積み重ねた壁が格子模様となっている独特の建築様式で、建築を学ぶ者としては非常に興味深く、実際に見てみたい建築物のひとつだった。
中世の時代にはバシャール王国の地方領主が住んでいたといわれる5階建ての建造物である。
たぶん流果は「朱冥国」の一部を見たと思っているのだろう…と僕は勝手に考えた。そして、その建造物を実際に見てみたいと思った。
今まで「朱冥国」というのは僕にとってはただの架空の国名だった。現実か幻かの区別もつかないものであった。けれども今、僕の中で少し具現化してリアルになった。
どのようにして「朱冥国」の街が形作られているのか、どんな形式の王宮や街並みなのか…建築家の卵にしてみれば、それを目に収めることができるとしたらとても貴重な経験になる。
今まで目的もなくただやみくもに彼らについて行くばかりの旅であったのが、この小さな具現化がきっかけで、僕には「朱冥国」の宮殿を見に行くという明確な目的ができたのだった。
https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16818792439297176084
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