第7話
「あらためまして。マルキオだ」
爽やかすぎるイケメンの笑顔。何かをされた訳ではないが妙にしゃくに障る。ぐっと
「藤原十太です」
「ーーーほんとに共有語が話せないんだ。それに喋る鉄板、というかスキルかな?ほんとうにおもしろいね」
マルキオはまるで値踏みをするかの様な含みのある笑みを浮かべた。
「昨日話したマナについてなんだけどあてがあるのよ」
ぱちんとウィンクすると「それを今から彼と採りに行って貰うつもりよん」とジンジャーは笑顔を浮かべた。
挨拶もそこそこにマルキオに先導されて雑多とした貧民街を抜けていく。同じようにごった返す人混みを歩いているのにマルキオはまるで踊るようにスマートに先を歩いていく。
「ーーあら。まだ生きてたの?」
人混みを避ける為、大通りから一本外れた道を歩いているとゾクリとするほど艶のある声が降ってきた。
そこは難民街に似つかわしくない華美な建物だった。木と漆喰で作られた建物の二階の窓。そこからけだるげな金髪の美女が二人を見下ろしていた。
彼女の声を皮切りにマルキオの姿を見た女性たちが次々と窓から顔を出して黄色い歓声上げ始める。
「簡単には死ねないな。ーーー君に会えなくなるからね」
ぱちんとマルキオがウィンクするとずるーい!と悲鳴じみた声が上がった。
「なぁにやってんだいっ!もうすぐ開店なんだ、さっさと準備しな!!」
一体全体俺はなにを見せられているんだと十太がげんなりしていると、店から箒をもった老婆が飛び出して来た。
マルキオを見つけた老婆は一切の躊躇なく箒を振りかぶると、その綺麗な顔面に迷わずフルスイングした。
「また来たか。このスケコマシがッ!!」
鋭い一撃をひょいとかわす。
マルキオは「またね♪」と軽口を叩いてそそくさと走り出す。金髪の美女は「はいはい」とけだるげに笑った。
あとに残された十太をギロリと睨みつけると老婆は静かに箒を上段に構える。身の危険を感じた十太もその場を全力で後にしたのだった。
マルキオに連れられて大門を抜ける。
槍を持った衛兵から呼び止められたが、彼が首から下げた銀色のドッグタグを見せると衛兵は驚いて道を譲った。
大門の内側にはまた壁と門、そして広場が広がっていた。ちょっとした砦のようだ。
難民街はその外壁にへばりつくように広がっているらしい。二つ目の門を抜けると、そこには十太にとって夢のような世界が広がっていた。
「おわぁ・・・!」
立ち並ぶ店からは威勢の良い声が響きわたり、軒先には様々な品物が並べられている。取り扱っている品物は様々だが、十太の目を惹くのはやはり剣や鎧が並べられた武具屋であった。
現代日本ではぜったいにお目にかかれないそれらにテンションが上がりすぎて感嘆の声が漏れる。
じっくり見て回りたかったがマルキオに置いて行かれそうだったのでグッと我慢する。
大通りを途中で外れ南に向かうと巨大な公園に出る。
だだっ広く遮蔽物の全くない公園。その中央に石造りの建物がぽつんと建っていた。
そこに続く一本道には皮や鉄で出来た鎧に身を包み、剣に槍で武装した人間が無数に歩いていた。
傷一つない装具に身を包み意気揚々と進む者。
全身傷だらけで満身創痍で涙を流す者。
まるで正反対の様相の人間が同じ場所を歩いている。まさに悲喜こもごもといった様相だった。
「今からどこに行くんですか?」
『おら、スケコマシ。どこに連れ込むつもりかってよォ』
「あぁ、確かに話してなかったね。今回の目的は魔石さ」
そして魔石稼ぎと言えばダンジョンでしょ、とへらへら笑う。
石と鉄で出来た堅固な門。そこを守る衛兵に大門と同じようにドッグタグを見せて中に入る。
内側は吹き抜けになっており建物の中なのに窮屈さはあまり感じない。部屋もほとんど見あたらないし、建物としてはほとんどハリボテだ。
どんな意図があってこんな建物を作ったのか。そんな事を考える十太を後目にマルキオは建物の中央へと歩を進める。
そこには地下へと続く巨大な穴がぽっかりと空いていた。
(魔石にダンジョンか・・・!)
十太にとってのダンジョンと言えば、暗く狭い洞窟や巨大で邪悪な雰囲気の城。ゲームやマンガで幾度となく見てきたそれものだ。
死と暗闇。
罠と魔物。
信頼と裏切り。
それらを越えた先にあるのは無惨な死かもしれないし、人生を変えるほどの財宝かもしれない。
想像に過ぎないが十太にとってダンジョンとはそんな危険とロマンに満ちている場所だった。
(よっしゃ!!)
大きく深呼吸して気合いを入れ直して先を見据える。
・・・見据えたのだが。
「これが・・・ダンジョン?」
地下へと続く階段を降りた先はずいぶんと人の手が入っていた。
地面や壁は煉瓦と木材でしっかりと舗装されており、壁のへこみには遠間隔で照明が置かれている。
通路は横に広く縦に高い。おかげで圧迫感はほぼない。
天井には淡い光を放つ不思議な苔やキノコが生えており、照明と合わさってかなり遠くまで見渡せる。
人もまばらにいて談笑している姿を見かける。
「もしかしてガッカリした?」
肩を落とした十太を見て、マルキオは笑いながらそう尋ねた。
『そりゃそうだろ。こんな整備されきった通路なんてただの散歩道だぜ。なんの面白味があんだよォ』
「だよね。この
この世界の金と学のない若者にとって富や名声を築ける方法。それは冒険者になる事だ。
そして冒険者としてもっとも力を付ける方法は魔物を倒して魔石を吸収する事だ。
魔物がわんさかいるダンジョンは実戦の経験と魔石。その両方を得る事が出来る一石二鳥な場所だ。
「だから冒険者の数。とくに新人の人数は万年飽和状態なんだよね」
ダンジョンを内包する大陸でも希有な街ミズガルズはダンジョンから得られる資源で潤っている。
冒険者の効率をあげるためにミズガルズのダンジョンは少しずつ整備され、開拓と整備がされつくしたダンジョンはただの資源回収場所になり果てた。
しばらく歩いて行くとぷるぷるとゲル上の生き物が目の前を這いずっているのに遭遇する。
「お、スライム」
もっと水っぽい見た目を想像していたが実物はドロっとしたゲル状で、地面を這っている姿を見るとナメクジを連想させた。
半透明の身体の中には、なにか白っぽい卵のような物がある。
「あんまり稼ぎにはならないんだけどーーーねっ!」
前方を歩いていたマルキオの上半身がはねた。
抜刀と同時に上半身をひねると、背後に立っていた十太の頭上を白刃が閃く。べちゃりと両肩にねばっこい液体が引っかかってから、天井にいたもう一匹のスライム。それが自分にめがけて落ちて来ていた、それをマルキオが空中で両断したのだと理解した。
「ーーうげぇ!」
触れてみて分かったがスライムの身体は液体というより柔らかめの寒天に近かった。感触的にはクラゲに近い。色が半透明なだけでしっかりと肉を持つ生物である事が分かる。
真っ二つにされてもなお、うごうごと動いていたので十太は慌てて払いのけた。慌てる十太の様子を見てマルキオをくすくすと微笑ましい者を見るように笑った。
「ダンジョンではとくに天井には注意が必要だよ。スライムは毎年冒険者の死因トップスリーに入るからね」
なにそれ恐!と青ざめる十太にマルキオは両断されたスライムの身体から白い卵のような物体を取り出す。
剣の柄で卵のような物をこづいて割る。
中にはとろりとした、これまた卵の白身のような液体が入っていた。
「これが魔石だ。実物を見るのは初めてかい?」
ずいっと十太の口元に突きつけてくる。
どうやら飲めという事らしいが、さっきまであの珍獣の体内にあったそれを飲めと言われても美味しそうだな!とはさすがにならない。
有無を言わせないマルキオの気迫に押されえおそるおそるそれを口にする。
これは身体が受け付けないと一口で分かった。
食感は卵の白身を生で口に含んだかのような触感。
無味無臭だが妙にのどに引っかかる。何度も喉を動かし必死に喉の奥、胃へと押し込む。
油断すると吐き出してしまいそうなそれを胃へと押し込むと腹の奥から身体全体へとぽかぽかした物が駆けめぐる。
「とりあえず初めてのマナ取得おめでとう」
「へ?」
マナ?・・・これが?
頭に無数の疑問符を浮かべる十太。
「じゃ、とりあえずあと2~30個はいっとこうか」
にっこり笑ってマルキオは鬼畜のような事を言った。
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