誰かの悪が誰かの正義

@Osasa_1004

エピソード

クズ。ゴミ。カス。この世は俺みたいな人間を罵倒する言葉で溢れてる。自嘲する乾いた笑い声が、空気を震わせ虚しく響いた。


英才教育に力を入れる親は少なくない。俺の両親は高学歴思考で、俺は物心つく前から塾に入れられた。勉強を何のためにしているのかはわからなかったが、勉強をすることは自分にとって当たり前だった。遊びが何なのか知らなかった。勉強をしていい成績を出した時、両親に褒められる。褒められたいがために勉強をしていた。成長して思春期になり、普通なら反抗期がくるみたいだが、自分が両親に反抗することはなかった。

俺の人生はほぼ親の為に生きてるようなものだった。親の望みを叶えるために生きていた。だから親が俺に勧めてきた一流大学に合格するために、ただひたすらに勉強した。高校のほぼ全ての時間を勉強に捧げた。そして、勿論のことその大学に合格した。

合格しその大学に通った。両親は俺に自慢の息子だと言ってきた。大学は普通なら自分の好きなこと、学びたい分野を勉強するところだ。しかし、俺には別にやりたいことがなかった。親から突然解放され、導いてくれるものがなくなった俺は虚無感に襲われた。もう勉強をしなくていい。好きなことを学んで、好きなように生きていい。はっきり言ってよくわからなかった。


大学から家に帰る途中、毎度派手派手しい建物が目に入る。特に気に留めなかったが、その日は何故か入る気になった。ーパチンコ屋。大人の世界だという認識があった。親はあまり好まなかった。俺は何となく入った。それだけだった。

なんとなくパチンコに通うようになった。ハマったというよりは、なんとなくでやっていた。気づいたら、依存していた。気づいたら、パチンコに全てを捧げていた。大学に通う回数がだんだん減っていった。俺はパチンコ屋に住み着いた。

大学から電話がいったのだろうか。突然親から電話がきて、何をしているのだと怒られた。怒られたことはなかったから、あまり怒られたという感覚が湧かなかった。その後大学に再び通ったけど、気づいたらまたパチンコに依存していた。単位をとれず、親は怒り狂い、俺は大学を中退して行方をくらませた。クズ人間の誕生だった。

俺はたいして頭を使わない仕事についた。一人で暮らすには十分なお金だった。俺は別に両親の思うように、金持ちになりたいわけでも、高い地位につきたいわけでもなかった。クズみたいに生きていた。地面に這いつくばるように、なんとなく生きていた。パチンコはやめられなかった。ご飯を十分に食べれなくても、パチンコだけはやめれなかった。そうまさにクズだった。

携帯電話には会社の番号しか登録されていなかった。両親はクズになった俺を探そうとはしなかった。だってもう俺は「自慢の息子」ではないから。どうでもいいと思えた。子供時代に両親に捧げた人生は無駄でしかなかった。


ふらふらと夜道を歩く。今日は久しぶりにお酒を飲んだ。千鳥足で公園にたどり着く。家は遠くはないが、少し休憩しようと思ったからだ。目を見張る。そこには砂場で遊んでいる男の子がいた。公園にある時計を見ると、時計の針は12時を指していた。酔ったせいで幻覚でも見えてるのだろうか。少し近づいてみることにした。

暗くてよくわからないが、男の子は7歳くらいだった。妙にリアルだった。まさかこの時間に子供が一人で出歩いている訳あるまい。くるりと踵を返し、家に帰ろうと思った時だった。

「おじさん。何してるの?」

おじさんか。もうおじさんと言われるような歳になってしまったか。

「僕は何でこんな時間にここにいるの?」

不思議な感覚だった。この子はリアルか、それとも幻想か。

「僕は遊んでるの!ほら見て、砂のお城を作ったの。」

そこで漸く男の子と目があった。現実か?近寄って男の子に触れてみる。しっかりとした感触があった。

「おじさん?」

「ど、どういうことだ?家出でもしたのかい?」

「家出?家出じゃないよ。お母さんもお父さんも僕が居なくても気にしないの。だから、遊びに来たの。昼だったら、お砂場独り占めできないでしょ?」

「でも、いいの?危ない人に連れて行かれちゃうよ。」

男の子がクスクス笑った。

「もしかしておじさん危ない人なの?」

「そ、そんなわけないじゃん。」

「でもいいもん。別にいいよ僕は。連れてかれても怖くないよ。おじさん僕を連れてってもいいよ。」

「どうしてそんなこと言うの?」

「だって...。そうだ!おじさん僕をおじさんのお家に連れてってよ!」

「何で?」

「だって、おじさんも一人ぼっちでしょ?別にいいじゃん。」

「だめだよ。そんなの。おじさんはクズ人間だから。」

「クズ人間?じゃあ僕もそのクズ人間になるから。おねがい、おじさん。」

こんなに子供と関わるのは初めてだ。おねだりされるのは苦手だと思った。

「それはできないけど、家まで送ってってあげるよ。帰ろうか。」

彼のおねだりを上手くかわすことができないと思い、取り敢えず打開案を提案する。

「んー。わかった!」

意外にも彼はすぐ俺の提案を承諾した。


男の子と歩く。この時間に出歩く人は滅多に居ない。男の子に着いていく。

「おじさん。この家が僕の家!ありがとう!バイバイ!」

案外彼の家は公園から近かった。遠くまで行くのは正直めんどくさかったから助かった。

男の子に手を振る。また今来た道を戻り、公園を通り過ぎて漸く家に着いた。ポケットから鍵を取り出して、ドアノブに手をかけた時だった。

「おじさん。本当のお願い。僕を中に入れて。」

そこには先ほど家に送って別れた男の子がいた。男の子は真剣な面持ちで話しかけてきた。周りを見渡す。こんな時間に誰も出歩いているはずはなかった。ここで追い返すこともできず、仕方なく家の中に入れる。

「わー!おじさんこんな家に住んでるんだね。」

「ねぇ、僕。こんな夜に出歩いたらさすがに危ないから今日は居てもいいけど、朝になったらちゃんと家に帰るんだよ。」

「......うん。」

そういった男の子は悲しそうな顔をしていた。


砂浜で遊んでいたせいか、男の子は泥だらけだった。まずはお風呂に入ってもらわないといけない。そう思い彼をお風呂場に連れて行った。これくらいの子は一人でお風呂に入るのだろうか。自分がいつ一人で風呂に入り始めたか全く記憶にない。

「一人でお風呂に入れる?」

「うん、もちろん!」

わかるとは思うが念のため風呂の使い方を説明する。不安だったので、風呂場のドアの前で待つことにした。ドアに寄りかかる。深く息を吸う。静かな世界に引き戻される。

ふと考える。自分がやっていることは、犯罪なのではないか。いや、でも男の子をこんな時間に返すわけにもいかない。あんな時間に子供が出かけても気にしない親が、子供が居ないと通報するわけないがない。しかしそうであっても、明日の朝一で彼を家に返さなければ。

ガチャリ。慌ててドアから体を離す。男の子に渡した服はやはり大きすぎたみたいだ。普通のTシャツが、彼が着るとワンピースのようになっていた。

大きいなぁと彼をまじまじ見ていると、俺の目はあるものを見つけてしまった。ーそうか。

俺の目線の先には、痛々しいアザがあった。普通の子供服なら隠れるであろう傷は、たるんだ服には隠せなかったようだ。あの場所はこの男の子が転んでできたものではないだろう。と考えると、そうゆうことだ。 

男の子が不思議そうな顔をした。俺の目線を追い、自分のアザが見られてることに気づいた。

「おじさん。お父さんに殴られちゃったの。僕が悪かったみたい。でもね、最近もうお家にいるの嫌なんだー。僕が夜に出かけても、誰も探しに来ないの。」

その傷が一層痛々しく見えた。自分が恥ずかしくなる。自分の過去を全て裏切って生きている自分は、本当に最低だ。

「....ねぇ。おじさん。僕のお願い聞いてくれる?」

なんとなく予想はできる。しかし、彼のお願いは自分の予想の範疇を超えていた。

「おじさん。僕の誘拐犯になってよ。」

どこで覚えたのだろう。7歳を軽く見てた。ユウカイハン?飲み込むのに時間がかかる。

「おじさん、クズ人間なんでしょ?僕もクズ人間になった。もうお母さんもお父さんも知らない。もういいの。だから僕を誘拐して。」

どんな人生を七年間送れば、彼のようになるんだろう。そう言った男の子の心の奥底に炎がメラメラ燃えていた気がした。


男の子と向かい合っていた。夜遅いから寝かせないととは思わなかった。取り敢えず話を聞いてみようと思った。

「お母さんとお父さんから逃げたいってこと?」

「ううん、違うよ。僕はお父さんとお母さんに悔しいって思って欲しい。」

「それは....」

口にしようとして、ギリギリのところで食い止めた。ーそんな親は悔しいとは思わないんじゃないか?

「おじさん。僕だけじゃなんもできない。手伝ってよ....。」

葛藤が生まれる。この子は自分に犯罪を行わせようとしている。この子を助けることになっても結果的に俺は裁かれる。でも....。

どうせ何もない人生だ。誰のためにも生きていない。どっちにしろ俺はクズだ。世の中に貢献していない。もし、この子のために俺が行動を起こしたら。何が変わる?俺は何になれる?意味のない人生か...。

男の子と目を合わせる。知らぬうちに手は汗ばんでいた。

「ー復讐だ。」

「復讐?」

「やるからには絶対に後悔させるんだ。」

男の子の顔に花が咲く。目が輝いた。

「本当に!?ありがとう!」

それは主人公になった瞬間だった。夢と現実の狭間にいるような感覚だった。不思議な感覚を残したまま、俺は眠りについた。


目が覚めて、夢から現実に引き戻される。酔った勢いなのか、夜の勢いなのか。やってしまったと思う自分がいるが、どこか納得している自分もいた。男の子は隣ですやすやと眠っていた。相変わらず服の隙間から見えるアザは痛々しかった。

男の子を軽く揺する。昨日覚悟を決めたけど、もう一度あの出来事が本当だったのか確かめたかった。

「おはよう。」

「んー。おはよう....」

男の子が大きく屈伸をする。

「本当にいいの?俺が誘拐犯になって。」

男の子が眠そうに目をこする。

「うん。」

「じゃあ、作戦会議をしよう。」

不思議と心は弾んでいた。危ない橋を渡るとき特有の高揚感を覚える。また昨日のように、男の子と向かい合って座った。

「おじさんね、ただ普通に誘拐犯になるだけじゃダメだと思ったんだ。」

「どうするの?」

「警察と勝負するの。ここで俺が誘拐しても、お母さんとお父さんが気付くかわからないよね?じゃあ絶対に気付くようにすれば良い。」

作戦を男の子に話す。男の子は力強く頷いた。さあ警察からどこまで逃げられるのか。心臓は高鳴っていた。


◯REC

「どうもこんにちはー!Kです。今日からYouTubeを始めることにしました。どんなことをするかというと、誘拐でーす。このチャンネルは犯罪チャンネルでーす!よかったら皆さん見てってください。」



「誘拐をしてきました!よーし、男の子にお名前を聞きたいと思います。名前を教えてくださーい。」

「....やめて!家に帰してよ!絶対に教えてあげない!」

男の子が身動ぎする。目には涙が浮かんでいた。

「そうだねぇ。暴れる子にはお仕置きしないとねぇ。」

お面を被った男が男の子を殴る。男の子の服の隙間からちらりとアザが見えた。

「今回はこんなところかな。また投稿するので、是非見てくださーい。」



最近のSNSは怖い。鼠算のように動画の視聴回数は増えていく。世間は釘付けになる。たった一つの動画が世界を歪ませる。 生じた歪みから溢れ出てくる言葉。 

『何これキチガイじゃんwwwwww』

『男の子がかわいそう』

『これガチでやばくね?』

『何こいつ頭イってるんじゃないの』

『最低。』

『は?これ警察行き案件じゃない?』

『クズ』

『ゴミ』

『カス』

『死ねよ。』

 

だんだんと重なっていく。小さな歪みからだんだん大きな歪みに変わっていく。

無駄な人生。意味のない日々。息を吸って吐くだけの人生。今までずっと言われるべきだった言葉の数々が可視化できるようになった。それだけの話だ。


「おじさん、あの動画で本当にお父さんとお母さんに復讐?ができるかな。」

「大丈夫。二人で有名になるんだ。そしたら絶対に気づいてくれる。みんなあの子の両親は誰だろうって探し始めるから。」

「わかった!なんかおじさんすごいね!」

きらきらとかがやいたまあるいおめめ。腐り切った俺の目とは全然違う。この目の輝きを失わないようにしよう、と思った。




「お願いします。」

俺は今までにないくらい、頭を下げてお願いした。長年、こんな俺でさえも唯一気にかけてくれていた小さな会社の社長だ。迷惑はかけたくなかった。だが嘘もつきたくなかった。

「えーっと、今世間を賑わせているあの動画は君があげたということなのか?」

「はい。これはあの男の子と俺が決めた彼の両親への復讐です。」

「なんでそんな...。もっといい方法があったんじゃないか?」

「俺が犯罪を起こすような奴だったとは思わないんですか?」

「思わないよ。ずっと誠意を尽くして働いてくれてたじゃないか。君と私の信頼ってそんなもんなのか?」

「いえ。でも、俺はもう終わりなんです。時間がない。」

「...突拍子もないことをしたな。私ももう死ぬだけの人生だ。最期に刺激が欲しいと思ってた頃だったのだよ。いいよ、助けてあげよう。」

俯いていた顔を勢いよくあげる。俺が頼んだのは、俺が捕まった後の男の子のことだった。それが、結果的に犯罪に巻き込むことになってしまった。いいのだろうか。 

「いいんだ。君を雇ったのは自分と重なったからさ。私も刺激が欲しいよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」


そこからの行動は早かった。人気のないボロボロアパートに住んでいてよかった。夜、男の子を連れて社長の家の地下室にやってきた。地下室といっても倉庫みたいなものだ。でもこれで警察にすぐ捕まることはないだろう。もっと掻き混ぜないといけないんだ。

◯REC

「やあ、こんにちは!久しぶりだねぇ。前回の動画は楽しんでくれたかな?ねぇ僕、どう思う?」

「家に帰りたいよ。」

「あれ?おかしいな。巷で聞いた話なんだけど、俺があげた動画のせいで警察が動いたらしいね。でも普通なら動画が上がる前にお母さんとお父さんが探しにくると思ったんだけど、来なかったね。」

「そんな…そんなはずないよ!僕が遊びにいったと思ったんじゃないかな。」

「夜中に?誘拐しようと決めたけど流石に日中にするのはハードルが高かったんだよね。そうしたら夜中に子供が歩いていたんだ。ちょうどいいところに来てくれたんだ。おーっと、少し話しすぎたかな。今回の動画はここまで次回お楽しみに。」

  

世間の反応は素早い。

『ん?夜中ってどうゆうことだ?』

『この子の家庭に問題が?』

『警察早く捕まえてくれよ』

『えー、意味わかんないんだけど』

『この人の目的は何?』

『この男の子の両親はどうしているわけ?』

『親は?どう思ってるんだろ』


俺は悪役気取り。いや実際に犯罪者だ。みんなは探偵気取り。掻き回して、掻き回して、もっと、もっと。心が鈍色に染まっていく。楽しささえ覚えていた。いつの日かハマってしまったギャンブルよりも何よりも、やりがいがあった。

ぬかるみはまった気がした。空っぽの心を突如染め上げた。そこには新たな人格があった。だけど、もしかしたらこっちが本当の自分だったのかもしれない。しかし同時にちくりと痛んだ。男の子の目を毎度見るたびに、自分が落としてきたものの重みを思い知らされた。気持ちと気持ちが綱引きをしていた。正義と悪。ヒーロと悪役。正解と間違え。誰かに教えて欲しい。


「ねえ、おじさん。僕たちいつまでここに居るの?」

「どうしよっか。どうしたい?」

前の動画を上げてから、テレビ局が動き出した。彼の両親は質問責めにされた。

『息子さんについてどう思っていますか?』

『早く戻ってきて欲しいと思いますか?』

『彼はどんな子だったんですか?』

彼の両親が良い親を演じることはなかった。無言を貫き、ようやく口を開いたと思ったら『近所迷惑になるので、こういうことはやめていただきたいです。』と言った。

新聞に『ネグレクト』として取り上げられ、俺に対するまだ警察の捜査はまだ続いているが、世間は俺よりも男の子の親に注目していた。

俺は接触者がそもそも少ないせいか、俺の正体を知る人はいなかった。俺が住んでいるこの地域は都会なわけでもないため、監視カメラが至る所に付けられているわけでもなかった。おそらくいまだに地道な作業が進められているのだろう。


「僕は、知ってたよ。お父さんもお母さんも僕に興味ないこと、知ってた。おじさんは優しいよ 

ね。あのね、もう亡くなっちゃったんだけど、昔僕の隣の家におばあちゃんが住んでたの。そのおばあちゃんが僕に本を読み聞かせてくれた。いろんな話を聞いたの。その中に誘拐の話があったの。その本でねお父さんとお母さんが子供のことを心配してたの。僕良いなーって思って。」

男の子は大人びて見えた。

「おじさんが誘拐してくれて嬉しかったよ。心配されないけど、でもおじさんは僕のために僕を誘拐してくれた。僕もダメ人間だね。」

そう言って、彼は微笑んだ。

「俺はダメ人間だよ。でも、君はまだダメ人間じゃない。あともう一個だけ動画を出そう。それでおしまいにしよう。」

「もう終わるの?」

「うん。大丈夫。きっと」


◯REC

「やあ、みんなこんにちは。今日は大事な話があるんだ」

お面を外す。これでもう終わりだ。男の子が驚いた顔をしている。だけどそんなの気にしない。

「俺は男の子を誘拐した。でも怖くなったから、自首しようと思う。今から警察に行ってきます。だからその前に一つだけ言わせてください。男の子はもともと傷だらけだった。誘拐をしたのはお金目当てだった。だけど、彼の状態を見て、お金はもう諦めた。彼が虐待を受けてきたのは一目瞭然だった。事実を知って、純粋無垢な男の子をそのまま放置することもできなかった。どうせなら皆さんとこの事実を共有しようと思って。では警察に行ってきます。」


『え?意外な展開。』

『なんか結果的に良かったんかな。』

『親はどうなるの?』

『虐待って….。男の子が可哀想。』


拘置所にいた。言った通り、自分で自首をした。男の子のことは社長に頼んだ。ネットに男の子を殴った動画を上げたため暴力と捉えられたこともあり、判決は5年の懲役となった。クズみたいな自分が躍起になり、こんなことをしでかすとは誰が予想できただろうか。俺は清々としていた。別に世間に悪役と捉えようが、結果的にいい人だと捉えようがなんでもよかった。5年間の刑務所生活で静かにひっそりと生きた。



漸く刑務所生活が終わり、普通の日常生活に戻れるうようになった。社長に1番にそのことを伝えに言った。そこには少年になった男の子がいた。

「久しぶり。おじさん。俺は今児童施設にいるんだ。よくここに遊びに来る。」

「そっか。」

「あの時はありがとう。」

報われた。犯罪者という肩書きは、俺にとっては栄光との記録となった。クズ。ゴミ。カス。この世は俺みたいな人間を罵倒する言葉で溢れてる。その中に響いた「ありがとう」。ああ、これでいいはずだ。




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