第35話 再会と再臨
セルタの言っていたことは、結果としては間違っていなかった。
私たちが期待薄で街に戻ると、そこには見たことがない冒険者、剣士、魔術師が広場に集まっていた。
その数約3000、いや4000人か?とにかく、数を把握しきれないほどだ。
人数の割合も、やはり冒険者らしき軽兵が多いように見えるものの、それでも、いかにもって感じの本職剣士・魔術師がこれまでと比べると相当多いように見える。
「…………わぁ。」
安堵と驚きが混ざったようなバカみたいな感嘆の声しか出てこない。
ようやく到着したのだ。
王都からの大々的な援軍が。
これだけの数がいるなら、魔物たちの数も抑え切れるかもしれないし、少なくとも死者がこれ以上増えることはないだろう。
街の中に入り、広場いっぱいに屯する冒険者たちを眺めつつ、これからはこの人たちに任せてあとは休んでも平気かなぁなんて思っていた時。
「レイナ。」
私の背後から話しかけてくる声があった。
「あ、ラグドにクレイ。」
振り返ると、2ヶ月前堕龍討伐の件で知り合ったラグドとクレイが、以前よりも形式的な装備と立ち振る舞いでこちらに近づいてきていた。
「二人も来たんだ。」
「ああ。『邪災』は俺たちにとっては未知だが、師匠曰く即刻抑え込まないといけない重要案件らしいからな。手が空いている冒険者や剣士たちは大体ここに集まっていると思う。」
こんな形で再会することになるとは思いもしなかったが、ラグドたち含め。少なくともこれだけの数がいれば全く歯が立たないという現状も回避されるだろう。
私たちの苦難は全くの無駄ではなかったのだ。
ふぅーっと一息ついてようやく少し安心していると、ラグドとクレイの後ろから、剣士らしき男が近づいてきた。
「ラグド隊長、我々は準備完了いたしました。いつでも行けます。」
「そうか。上からの指令を待つ。一度待機だ。常に気を張る必要はないが、立場を忘れるなよ。」
「はっ。」
男はラグドに深々と頭を下げると、背中を向けて来た細道を戻っていった。
……ラグド隊長?それにさっきのラグドの鋭い口調は……。
「隊長ってどゆこと?」
「ん?ああ、俺たちは元々剣士のちょっとした隊の隊長をやっててな。今は聖騎士見習いに昇格できたんだけど、今回は人手が足りないってことで隊長に戻ってやってるんだよ。」
立場的には 隊長<聖騎士見習い なのか。
てっきり『見習い』って言うくらいだからラグドたちの地位はそんなに高いものではないと思っていたんだけど。
「あ……僕は隊長なんて器でもないので、ラグドのとこの副隊長をやってました……。」
横で付け足すようにクレイが控えめに付け足す。
「すごいんだね、二人とも。まだ若いのに。」
「そんなことはないさ。それを言ったらレイナはもっと若いのに達観しているし、リーシュは俺の何倍も強い。」
「はは……。」
リーシュはともかく、私も思いっきり年齢偽ってるんだけどね。いや、偽っているというか、転生前のことを含めればもう立派なアラサーだ。
ラグドたちが怪我に侵されないかだけは少し心配になってきたが……ともかく、二人を含めてこれだけの援軍が来てくれたのだ。
「なんとかなるかな……?」
「大丈夫だと思います。魔物の進行も抑えられるでしょうし、そうなればあとは慎重に魂玉を探し出して破壊すればそれで終わりですから。」
珍しくクレイが自信を持って頷いている。彼女のことだからこの邪災に向けてもきちんと準備を重ねてきたのだろう。
「よかった………。」
ここ一週間溜まり続けた困憊が一気に体全体を駆け巡り、急激に体内から力が抜けていく。
「レイナさん、大丈夫ですか?」
そんな倒れかけた私を支えるように、クレイが横から身体を支えてくれた。
「レイナさん含めて、この街の冒険者たちは早く休んでください。少なくともこれ以上事態が悪くなることはないですから。」
「うん……あっ、まって。リーシュがまだ北西の方で戦ってるはずだから……そっちにも行って………休ませて…………あげて…………。」
そこまで言ったところで私の意識は数日ぶりに自然と失われた。
せめて自力で家に帰らないと情けないと思ったが、もう限界だ。リーシュは大丈夫だろう。あの子はそこら辺の魔物にやられるようなタチではない。ギルやレックスはさっきまで私と一緒だったし……うん。大丈夫だ。私の仲間たちはみんな無事。
曖昧ながらも脳内で自分の大切な人たちの安否を確認した上で、私は完全に深海の底に脳裏を沈ませた。
♦︎♦︎♦︎
「……ん。」
どれくらい眠っただろうか。
これ以上長い眠りが存在するとしたら、それはミナセに殺されて冥界の根源地にたどり着いた時くらいだろう。
錨でもまぶたに下がっているのではないかと勘違いするほど重たい瞼をゆっくりと開くと、そこには見慣れた天井が見えた。
ここは………ああ、私たちの家か。
ぱちぱちと何度か瞼を開閉させて意識を戻していると、天井ばかりが映っていた視界に、別のものが飛び込んできた。
「レイナ?起きたの?」
家の天井以上に見慣れた顔、私の相棒、傷ひとつない元気なリーシュがそこにいた。
「うん、起きたよ。おはよ…………ってうわっ!?」
一言だけ口を開くと、リーシュは大喜びでこちらに抱きついてきた。
「よかった……ほんとによかった……もしレイナが死んじゃったら……わたし……。」
「リーシュ……。」
そんなに私のことを心配してくれていたのか。
「もうレイナの魔力食べられなくなるなんて、考えたくない……!」
「は?」
「え?」
なんか違くね?
そんな理由で心配してたのかよ。
「あ、いや、まあうん。よかったね、これからも魔力食べられて。」
まあ、ある意味リーシュらしいしいっか。
リーシュもなんの問題もなさそうでよかった。元々心配はしていなかったが、もしものことが絶対ないとは言い切れなかったのも杞憂で終わった。
「リーシュは無事だった?」
「うん、全然大丈夫。傷一つ負わなかった。レイナはそうでもないみたいだけど。」
「まあね。」
自分の身体を見回すと、表面的には魔治療薬での治癒が完了しているようだったが、内部はまだだいぶ損傷が激しく動かすと痛い。どっちかと言うと筋肉痛的な痛みなのかもしれないけど、なんにせよ肉体的にはまだ戦える状態ではない。
「今どうなってる?」
もしかして私が寝ている間にすでに邪災は退けられたなんて僥倖は……。
「今ラグドたちが戦ってるけど、まだなんとか玉は見つかってないみたいだよ。」
そんなうまいこといかないか。
窓から外を見ると、街は変わらず忙しくざわついている。まだ怪我人がたくさん出ている証拠だ。
「……ちょっと休んだらまた行こう。」
「えっ!?なんで?」
「なんでって。」
「援軍来たんだし、もう休もうよ私たち。」
リーシュはありえないことを聞いているように目を見開く。
リーシュの言うことはもっともだけど、まだ邪災が治っていない時点で私たちは戦うべきなのだ。まあ、そうは言ってもリーシュは十分すぎるほど活躍したし、休んでいても文句を言われる筋合いはないか。
「疲れただろうしリーシュは休んでていいよ。」
「いや、休むべきなのはレイナでしょ。」
「そうかもね。」
でも、ラグドとクレイは逃げることができない立場で戦っている。あの二人は私にとって大切な人だ。
だから、守れなかったとしてもせめて協力はする。当たり前の話。
「……どうしてもって言うなら、わたしも行くけど。」
あまり乗り気でないリーシュは『やめて』と言いたかったのだろうが、説得は無理だと判断したのか否定的な肯定で私を抱きしめた。
弱いくせに心配ばかりかけて、最低だな私って。今更だけどさ。
転生した(元)社畜ケモ耳少女、幸せのために強くなる! 佐古橋トーラ @sakohashitora
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