白影プラトーン - 魔術を殺した龍への憧憬

北村陽

プロローグ 彼らが生きる世界について 

 ――かつて、人類が再現することのできない超常現象として認識されていた魔法。だがその根源は、生きとし生ける全ての生命に宿る生命力であることが判明した。

 そして、それまで魔法を発現させるために必要と考えられていた魔力は、生命が自己存在を維持するために必要な力の根源であることも判明した。

 この瞬間、この世界から『魔術』という概念が消滅し、新たに『願術』という概念が誕生した。


 この星に生きる全ての生命は、『願力』という実体のない結合力によってその存在を保っていた。その願力は、大気中に充満する魔力を体内の特定の部位で願力へと変換させる『魔願変換』によって得る。一般的に、具象化された願力は白銀色をしている。


 ――『願力特性』とは、その名の通り願力に備わった特異性を指す言葉だ。そして願力特性を有するということは、特性に応じた固有色を願力に有するということでもある。

 戦闘において、願力特性を有するということは非常に大きな優位性を有することと同義である。だが、その代償は生命体にとって致命的なものであった。それは自身と同種の願力特性を有する相手以外とでは、子を成すことが非常に困難であるということだ。


 ――それはまだ人と龍が世界の覇権をかけて争い、そして願力の解明が十分でなかった頃。願力特性を有する者は子孫を残すことができないとされ、ある種価値の無いその身を戦場に投じることを義務付けられていた。

 だが時代は進み、願力についての理解と人々の倫理観の変化に伴い、願力特性を有する者への認識は改善されていった。 そのきっかけとなったのが、一定以上の願力を保有する生命体を無差別に攻撃する『願魔獣』という存在の、世界的な侵攻だった。

 願魔獣は一般的に、『魔願樹』と呼ばれる白色半透明の葉のない大樹の周囲に生息していた。魔願樹は生命体の自己維持に必要不可欠な願力のもととなる魔力を絶えず生成し続ける存在だ。だが決して、近辺に魔願樹がないからといって魔力濃度が低下することはなかった。それは地脈と呼ばれる、地下に流れる魔力の通り道があったからだ。その地脈は魔力濃度の低い地域へと根を張るため、一部の例外を除いて魔力の無い地域は存在しない。

 地脈異常とは、その地脈上で起こる異常事態を指す言葉だ。そしてその内最も脅威的とされているのが、本来発生しないはずの汚染された願力が地上へと吹き出し、願魔獣が出現するというもの。

 第一次世界防衛大戦は、世界中で同時に広域にわたって生じた地脈異常に対処するものだった。


 ――かつて人と龍が争い合えていたのは、まだ願魔獣の脅威が両者へと向けられていなかったから。かつて人と龍が手を取り合えるようになったのは、願魔獣を共通の脅威と認識することができたから。


 手を取り合った人と龍の世界全土に及ぶ激闘の末、人類は一つの大陸を除いてすべての生活圏を願魔獣に奪われることとなった。だが、後に英傑と呼ばれる存在によって、最後の大陸『キティーダ』が願魔獣の手に落ちることはなかった。

 残された人類は、龍に人の言葉を教えた。残された龍は、人類に知恵を与えた。こうして、今も続く人と龍の共栄文化は形成され、キティーダ大陸は英傑らを筆頭に南北に二つの派閥に別れることとなった。


 今ある生命の形を尊重し、科学技術によって繁栄を遂げようとする保守派が多いのが大陸北部。一方で、研究によって生体の持つ可能性を最大限に引き出そうとする革新派が多いのが大陸南部だ。

 英傑らは北部のトーステル王国領東部グラシアに、そして南部のミクニ帝国領リューガハラにそれぞれ学園都市を建設した。それは人類と龍の発展のため、願力特性の有無や身分に関わらず誰しもが選択した学科の教育を受けられる近代的な社会の仕組みを形成したいという切望のためだった。


 ――物語の舞台は、学園都市グラシア。そして、人類と龍の存亡を賭けた戦場。

 秀でた戦闘の才と、取り払うことのできない難儀を抱える生徒らが集結した『白影工房』は、北部が抱える戦力の問題に対し、新兵器を開発することで解決しようと今日も奔走している。


「願力駆動式拡張型戦闘機『DEF-01-プラトーン』、――テイクオフ!!」


 漆黒の光芒を翼に宿した機械仕掛けの騎士が、敵を討たんと闇夜を進撃する。

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