27話
冴島たちは聞き込みを行っていたが、成果を上げられずにいた。それもそのはず、購入店が絞られたといっても、店が購入者を覚えていなかったからだ。
「おい、山城。お前の調査通りなら、ここが最後ってことになるが」
冴島の目の前には、すでに閉店しているのでは、と思わずにはいられない佇まいの建物があった。辛うじて読める看板には「占いショップ 鹿島」と書かれていた。ここが空振りなら、「アルカナ事件」の手がかりは無くなる。
冴島がノックをするが、店主の反応はない。やむを得ず扉を開けると、埃が舞い上がり、ドアについていたベルがチリンと音を立てる。
「すみませーん、どなたかいらっしゃいますか?」山城が問いかけるが、反応はなかった。
「こりゃ、空振りだな……」
「空振りとは? 何がじゃ?」
突然、二人の後方から声がした。振り向くと、そこに立っていたのは、すでに七十歳を越えていそうな老婆だった。
「ほう、占いショップにカップルで来店とは珍しい。普通なら、相手との相性を占うために一人で来るんだがねぇ」
冴島が訂正しようとすると、それよりも早く山城が「そうなんですね」と返事をしていた。どうやら、カップルという認識を利用しようとしているらしい。
「それで、何をお求めかな?」
「この写真のタロットカードが欲しくて来たんですが……」との問いかけに、老婆は首を傾げる。
「珍しい品をお探しのようじゃな。しかし、残念ながら在庫はない」
「そうなんですね……。もしかして、つい最近売り切れたんですか?」山城がさりげなく本題を切り出す。
「いや、違うね。あれは……三年も前かねぇ」
三年前。それは、「アルカナ事件」が起きたのと同時期だ。冴島の心臓が飛び跳ねる。はやる気持ちを無理やり抑え込むと、「その人はどんな方でしたか?」と問いかける。
「どんな人か? 忘れるわけがないね。夏にもかかわらず、マフラーで顔を隠していたから」
ビンゴだ。
「なるほど。変わった方ですね。占いショップに来たということを知られたくなかったんでしょうね。恋人に」と山城。
「そうかもしれんのぅ。彼女に知られたくなかったに違いない」
彼女に知られたくなかった。つまり、客は男性に違いない。
「お話、ありがとうございました。私たちはこれで失礼します」
その時だった。冴島のスマホが鳴ったのは。静かな店内に音が響き渡る。液晶画面には「飯田警部」と表示されていた。
「もしもし」
「冴島! 大変なことになった。鍵山が襲われた!」
「え、鍵山先輩が!?」
「ああ、そうだ。命に別状はない。しかし、厄介なことになった。現場に置かれていたんだよ、タロットカードが」
タロットカードが置かれていた。つまり、「アルカナ事件」の犯人が口封じに襲った可能性が高い。そして、冴島の予想通りなら、八番目のカード「力」のはずだ。
「冴島、君の予想は外れた。置かれていたのは――八番目のカード『正義』だ」
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