第18話

 7:55 a.m. ほうほうのていで『人形師マリオンの箱庭』に帰りついたココは、カウンターに倒れた。戦闘によってネグリジェはぼろぼろ、自慢の金髪は焦げてしまった。

 おまけに、押し入り強盗のせいで惨状が広がっている。疲労感が増した。


 まったくやってられない。シャッターを閉じた暗い店内でココはうめいた。

 どうせ、今日は営業どころの騒ぎではない。アウトポス中が飛行兵器被害で混乱しているはずだ。

 ココは開き直って、隠していた密造酒とグラスを取り出した。やけくそだった。


「ミスター、感心しませんね。臨時休業です。速やかにお帰りください」


 めきめきとシャッターを破壊して侵入しようとする人物に怒鳴った。

 泥棒の一味かと睨みつけたが、ジョン・ドゥだった。来店時間が早いのは珍しい。

 いつものガスマスク、こざっぱりとした白いシャツに暗色のズボン、鞣し革のブーツを履いている。黒衣ではない格好は初めて見る。案外若いのかもしれない。


「……今日は営業しないんです」


 ココは声を絞り出した。


「これは、飛行兵器攻撃でこうなったのか?」


 ジョン・ドゥが唇を開いた。低くもなく、高くもなく、いたって普通の声だった。

 ただ、ジョン・ドゥに並々ならぬ関心を抱いていたココには、特別な声のように感じられた。一種の苦味を伴って。


「いいえ。あなたのお仲間が散らかしたのよ。そして、シャッターは今、あなたに壊されたわ。つくづく野蛮なひとたちね。力の加減を知らないの?」


 ココの指摘にジョン・ドゥは身動ぎする。

 黒づくめの大男たちは、ジョン・ドゥと同じ、


「この店に忍び込んだ泥棒たちは、あなたが普段着ているような黒い服を着ていた。そのなかでもあなたの衣装は立派ね。あたしが知る限り、マントを着用しているのは大統領とあなただけ。以上のことから推測して、あなたは大統領の次に偉いひと。

──よくも、素知らぬ顔をしてこの店に通っていたな。薄汚い政府の犬め!」

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