第6話
8:00 a.m. 少年たちはそれぞれ仕事に出かけていった。
ココはひとり、依頼された機械の修理に取り組む。息苦しいまでの花の香りに包まれながら、ココは作業に没頭する。
部屋の四方を囲む木製棚は天井まで高さがあり、40センチ×50センチで仕切られている。てんでばらばらに物が詰め込まれた無法地帯。
針のない蓄音機、留め具が壊れているブレスレット、インクが漏れてくる万年筆……etc.
使い道のないがらくたは、誰かの遺品である。
アウトポスでは墓を持てない。
感染症対策として遺骸は約6000℃の炎に焼かれる。灰すら残らない。こっそり墓を建てても、砂嵐が墓標を沈めてしまう。
いつからか、人びとは『人形師マリオンの箱庭』に遺品を持ってくるようになった。
修理を希望する機械製品といっしょに、遺品を置いてゆくのである。
無許可の行為だが、ココは咎めなかった。
遺品を置いていった人びとはときおり店を訪れて、茫洋とした眼差しで遺品を見つめていた。
親しいひとの死を受け入れられないのだろう。夢とうつつのあわいを漂っていた。
棚に置かれた遺品を、無断で持ち帰るひともいた。
遺品は対価として金貨になり、バナナや林檎になり、やがて蒸発したように消えた。
墓参りよろしく『人形師マリオンの箱庭』を訪れたひとは、自分が持ち込んだ遺品が消えていることに目を丸くし、呆然と立ち尽くす。
──そうして、死を受け入れる。
その一連のやりとりを、風葬のようだとココは思った。
『人形師マリオンの箱庭』は遺品と供花でいっぱいだ。まるで、
死の気配に飲み込まれないように、ココはマイナスドライバーを握り、ラジオペンチを手繰る。
ココは、箱庭の墓守りだ。
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