第4話
ココが営む雑貨屋は、『人形師マリオンの箱庭』という。
ココの父親マリオンは小さな港町出身で、疎開途中のアンゲルスにて高次元電磁波爆弾に被爆したとみられている。ココは父親と二人きりの生活だった。
発見当初、ココから聞き出した数少ない情報である。
父親とはぐれ、知らない場所に取り残されたココは恐慌状態にあり、自分の名前さえ忘れていた。
地元住人は父子の再会のために手を尽くしたが、捜索活動は難航した。
『人形師マリオンの箱庭』と大きな文字で書かれた看板は、ココの父親への伝言である。
“あなたの娘はここにいる。ここであなたを待っている!”
もし、マリオンが生き別れた娘を捜して、商店街を訪ねたら、自分の名前を掲げた看板に目を留めるかもしれない。
住人たちは祈るような気持ちでペンキを塗り、看板を立てた。
ココの心臓には疾患があって、激しい運動や衝撃を与えるのが禁じられている。
元気なうちに、父親に一目会わせてやりたかった。
マリオンが死亡しているならば、それをココに教えてやりたい。死は不幸ではない。生けとし生けるものはみな同じ処へ還るのだから。
ココは、父親が帰ってくると信じてやまない。
ココに、“もう待たなくてもいいんだよ”と誰も言えないまま、月日が流れた。
──おぼろげな記憶だが、マリオンが人形職人であったことを、ココは覚えている。
波止場近くに建てられたバラック小屋には、人形の顔、手足の部品が散らばっていた。
夏は暑く、冬は寒いあばら屋でココは生まれ育った。さざ波と海鳥の鳴き声が子守り唄。
汗をかき、人形を組み立てるマリオンの後ろ姿。気を引きたくて、抱きしめてほしくてココはほやほやと泣いた。
ココをあやす優しい声、大きな温かい手のひら。貧しいながらも、父子は穏やかな生活を送っていた。
機械人形はAIを搭載しており、さまざまな役割を担っていた。
マリオンは全自動機械操縦人形製作の名人だった。
父親譲りなのか、ココは手先が器用である。精密機械の修理が得意だ。
幼いココは高次元電磁波爆弾によって破壊された大時計を直し、持ち込まれた数々の機械を修理した。
今となってはおそらく、アウトポス随一の修理技師だろう。
機械と向き合うとき、ココは父親を想う。
どこでなにをしているのか。痛がったり、苦しんでいないか。飢えてはいないか。
マリオンのいる場所が、恵まれた地でありますように。
──そして、災禍をもたらした戦争犯罪人について考える。
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