4:44 a.m. 天使が通る【終末世界/ディストピア・ファンタジー】

その子四十路

第1話 Day 1

 ──4:44 a.m. 薄花色の静寂がOutoposアウトポスを支配する。


 電気文明が廃れて十年が経過した。

 主要エネルギーは石油、石炭、天然ガスに変換。稀少なエネルギー源を巡って國同士のいさかいが激化している。

 先進國だったアウトポスは第六次世界大戦に敗れ、大國の植民地となった。

 殺戮はすべてを奪う。

 今もなお、アウトポス人の心臓には戦争の爪痕が刻まれている。鮮血を噴き出す生々しい傷が。


 敗戦國、荒寥とした赤褐色の砂漠を蒸気機関車が走る。

 眼が眩むような朝陽を背負い、地平線に汽笛を轟かせて。

 蒸気機関車は走る。理想郷の成れの果て、夢が潰えた都市国家へ。

 ──砂塵が太陽を覆い隠した。



 Day 1 4:54 a.m. アウトポスの首都Angelusアンゲルス

 商店街の一角にある雑貨屋に明かりがともる。

 早朝の散歩から帰宅すると、店のシャッターを開けるのがココの日課だ。


 フリルたっぷりのワンピースドレス。カウガールふうのベスト、編み上げブーツ。腰まで伸びた淡い金髪は三つ編みに結わえてある。

 八才くらいにしか見えないが、孔雀青の瞳は理知的だ。


 ココは戦争孤児である。焼け野原にひとり取り残されていた。

 爆発に巻き込まれ、すすけて泣きじゃくっていた子ども。

 大人たちは不憫がり、避難所にくるように説得したが、少女はその場所から動こうとしなかった。

 砂漠に侵食された商店街で、今日もココは帰らぬ父を待っている。


 ココは店の前をほうきで掃き清め、品物のほこりを払い、店内を埋め尽くす花瓶の水を入れ換えた。

 つり銭の金貨を用意し──金貨はアウトポスが繁栄していたころの名残である。砂金が発掘されていたため、黄金の國と呼ばれていた。すべての金は炉で溶かされ、爆弾、兵器の資材となった。

 砂金は枯渇し、ときおり、砂地が気まぐれに光るだけ。


 金貨には天使の横顔が刻まれている。

 笑っているようにも泣いているようにも見える表情だ。虚ろな瞳はなにを見つめているのか。

 ココは金貨を宙に投げる。表か裏か……コイントスの結果を確かめぬまま、無造作に金貨をレジスターにしまった。

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