第6話 私の姉妹愛を喰らうがいいわ!

「ちょっとお姉ちゃん、こっち来て!」


 咲に連れていかれたのは小さな部屋。わ〜懐かしい〜なんも変わってないじゃん!と言っていたあたり、過去使っていた部屋なんだろう。


 普通の部屋のように見えるが、どことなく家具の配置が家の咲の部屋と似ている。何も知らないところに来たのだから、少しでも安心できる場所をと思ったのだろうか。実家の自室が安心できる場所なのは大変いいことだと思うが、やっぱり寂しかったんだろうな……。今はお姉ちゃんがいるからね。任せなさい!


「さてお姉ちゃん。どういうつもりなの。っていうか『いもうと♡すきすき選手権』って何よ。発音だけなのに、真ん中にハート入ってるのわかるよ」

「お姉ちゃんの愛が詰まってるからね。それじゃあ説明します!」


 ルールは簡単。咲が好きなものの単語だけでしりとりをして、

・1分間言葉に詰まった方

・「ん」で終わる言葉を口にした方

・咲が好きなもの以外でしりとりを続けようとした方

の負けってわけ。


 これなら、知識を蓄えていそうなエルフ相手でも戦えそうな、私の考えてきた秘策。ずるい?しょうがないじゃない、私は咲のお姉ちゃんなのだから!こう、バトルマンガみたいなかっこいいバトルはできないかもしれないけど、アイツの咲への愛を知るには十分な内容でしょ?


「つまり、アイツの本気度を確かめるのよ。ぽっと出のやつがいう『愛してる』なんて言葉以上に頼れないものはないでしょ」

「ぽっと出って……お姉ちゃんから見たらそうかもしれないけどさ~」


 そう、ぽっと出の男なんかに、うちの可愛い妹をほいほい渡すわけにはいかないの。ちゃんと見極めないと。


「咲だって、嬉しいんじゃないの?か、彼氏の口から自分の話題聞けるのは」

「嬉しいけどさぁ!そうじゃなくって、というかそれ以上に……」


 咲は顔を真っ赤にして、顔を手で覆いながら言う。


「それ以上に恥ずかしすぎるんだけど!」

「でも、キュスタールが自分の事知ってくれているか、知りたいでしょ?」

「し゛り゛た゛い゛!」

「じゃあお姉ちゃんに任せなさい。咲は審判よろしくね。お姉ちゃんが間違えた時も、ちゃんと指摘するように。八百長がしたいわけじゃないんだから」

「うん、わかった。え~でも恥ずかしいよ~!!」


 咲は体を器用にくねくねさせながら、タールの元へ戻ってゆく。恋すると人って変わると言うけど、ちょっとその動きはどうかと思うよ、お姉ちゃんは。でも心底楽しそうな咲の様子に、どうしても口角は上がってしまう。


 じゃあ見せてやろうじゃない。私の姉妹愛を喰らうがいいわ!


 ◇◆◇◆◇◆


 キュスタールの元に2人で戻り、場を整える。と言っても、机も何もない場所で、キュスタールと私が程よい距離で向かい合うだけなんだけど。間に咲が立ち、セッティングは完了。


「えー、では。第一回『いもうと♡すきすき選手権』を行います。審判は私、咲です。よろしくお願いいたします」


 ペコリと頭を下げる咲。


「咲の最愛の姉!詩!」


 腕を組みながら声を張る私。


「エ、なんデスこれ。名乗るノ?ナンで?……まぁサキが言うナラ名乗りますけド。サキの彼氏、キュスタール・リュスランでス。」


 咲に促され、困惑しながら名乗るキュスタール。


「では、ルールを説明します」


 そうして、先ほど伝えたルールをキュスタールへ伝える咲。しりとり自体は昔咲と一緒にやったようで、大まかなルールは知っているようだった。


「それ、お姉さんが有利ナノでハ?」

「当たり前でしょう。お姉ちゃんだもの」

「えエ……。ちなみニこれ勝つと、何か貰エたりスるんですか?」

「咲のちゅー」

「やりましょう」

「ちょ、ちょっと待ってよ!?え、そうなの!?咲のちゅーかかってるの初めて聞いたんだけどえ2人ともちょっと、覚悟決まった顔しないでよ!」


 顔を真っ赤にしているが、任せなさい。咲の唇はお姉ちゃんが守る。


「うー……じゃあ始めるよ?どっちから始めるかは、コイントスで決めるね。表がお姉ちゃん、裏がタールだよ。せーのっ!」


 キンッという音と共に投げられるコイン。そして咲がキャッチした時上に出ていたのは……裏。


「じゃあタールから。初めの言葉どうしよっかな……。もうこうなったら咲の名前でいっか。じゃあ『サキ』から」


 はいどうぞ、とキュスタールを促す咲。数秒間顎に手を当て悩んでいたかと思うと、「キュスタール」と呟く。


「サキ、私の事好きでショウ?なのでまずハ『キュスタール』です」

「えへへ~!好き!」


 くっ、幸せそうな笑顔しちゃって!

 両手で大きく丸を作り、じゃあ次はお姉ちゃん、と促す。


「ル……ルねぇ。じゃあル〇ンド」

「さっくさくで美味しいよねー!咲もあれ好き!」


 またしても両手でおおきく丸を作り、キュスタールを促す。


「知らなイ単語デスね?後でルマ〇ドとやらが何か、教えてくだサイ。ド、ドですか」

 とんっとんっと膝を指先で叩きながら思案するキュスタール。


「では、ドルリーズ」

「あ~!かわいいやつだね!1回生で見て見たいな~。好き!」

「いつデモ見に行かせテあげるよ。いツ行こうカ」


 まるっと円を作ってキュスタールと話し込む咲。いやちょっとまって。


「ドルリーズって何」

「海の妖精!クリオネとかそういう事じゃなくて、本物の妖精らしいよ。見てみたいよね~」

「ずいぶんとカワイらしい見た目でしてね、種族問わズ若い女性に人気の生キ物なんデスよ。妖精と言い切るニハ、いささか若イんですケドね」

「……私も見て見たいんだけど」

「もちろんお姉ちゃんも一緒に行こっ!」


 咲、横の男の顔を見てみなさい。すごく嫌そうな顔してるよ。


「サ、次はお姉サンの番ですヨ」

「はいはい。ず、かぁ……」


 もう突っ込むまい。それにしてもず、からはじまる何かってあったっけ。やばい、ドルリーズとやらが何か気になってしょうがない。いやでもここでちゃんと答えられないと咲のちゅーが!


「ず……ず……ずいずいずっころばし……」

「なんデス、それ」

「童謡。小さい頃、よく咲と歌ってたんだけど……」


 さすがにダメか?無理が過ぎる?

 ちらりと咲の方を見るが、眉を顰め、胸の前でばってんじるしを作る咲。


「確かに歌ってたけど、さすがに好きなものじゃないかなぁ」

「そうだよねぇ!え、でも何とかならない?」

「公正なバトルだから!ないっ!!」


 ふんっと鼻を鳴らすような音が聞こえた。


「笑った?」

「イイエ。……フッ」

「笑ってるなぁ……?」


 とりあえず取っ組み合いの喧嘩をしようか?キュスタール。

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