第24話
私が馬車を気にしていると、
「馬車に大事なものがあるの?」
と、シスターが優しく聞いた。
「私の……大事な……大切な人が………いるの……………。」
私の目から涙が流れる。
私の様子を見て、シスターが馬車を見に行く。
しばらくして戻ってきたシスターは、何も言わずに抱き締めてくれた。
「辛かったわね。」
シスターのその言葉に、心に押し込めていたものが込み上げてくる。
「うっ……うっ……うぅぅぅ………。」
涙としゃくり上げが止まらない。
「一人で苦しかったのでしょう。溜め込んだものを出してしまいなさい。」
母親が子供に話すように、優しく穏やかなシスターの言葉。
「セロが………セロが………あぅぅぅ………うっ……うっ……うっ………。」
嗚咽でまともに言葉にできない。
シスターは私を抱き締め、背中をトントントンと優しく叩く。
どれくらい泣いたのか、目と鼻、そしてシスターの服がグチャグチャになっていた。
シスターは体を離すと、ハンカチで私の目と鼻の周りを拭いてくれた。
「少し落ち着きましたか?」
「ごめんなさい。シスターの服が……。」
「ふふふっ。大丈夫ですよ。」
ニコリと微笑むシスター。
「辛いかもしれませんが、まずは彼を安らかに眠らせてあげましょう。」
シスターの言葉に私は目をギュッと閉じる。
分かっている……分かっているけど………。
「うっ……うっ……うぅぅ………。」
再び涙が流れる。
「このままでは、彼も眠りにつけません。彼のことを想うなら、眠らせてあげましょう。体は離れ離れになったとしても、魂はあなたと共にあります。」
諭すように話すシスター。
このままではいけないのは分かっている。
肉体が朽ちていってしまう。
セロもそんなことは望んでいない。
でも、埋葬してしまうと、『死』を受け入れたことになってしまう。
いやだ……いやだ…………。
その時、突風で教会の扉が開いた。
潮風が顔を掠める。
『マニュ』
また、セロの声が聞こえた気がした。
私は体の力が抜け、膝をついた。
「うっ…うっ…うぅぅ…………セロを……セロを…………眠らせて……下さい………うぅぅ………。」
セロ………。
「そうしましょう。どこに眠らせましょうか?」
シスターの言葉に、セロが話していたことを思い出す。
『マニュと一緒なら、どこでもいいな……。まぁ、海が見える所もいいよな。』
「……海の見える場所に……お願いします。」
そうして、海の見える場所にセロは埋葬された。
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