鞄島戯曲
空空
校長代理
「お疲れ様です」
「はい、お疲れ様です。……なんや、さっきまで生徒として授業受けてたキミが校長の席に座ってるの、何度見ても新鮮やなあ」
「正確には校長代理です。まさか、島を取りまとめる長はおろか、学校の長までいないとは、さすがに想定していませんでした。しかし、いまが夏休みであったのは僥倖です。校長の職務を学ぶのにうってつけですから。大丈夫、人は誰しも最初は未経験者なのですから。きっとできるようになります」
「めっちゃ自分に言い聞かせてはる」
「ところで、来月以降のシフトを考えてみたのですが、こんな感じで宜しいでしょうか」
「うわー、この島って来月とかそういう概念あったんやなー」
「はい?」
「いや、なんでもあらしまへんで。あっ、ボクこの週でしたら二回、当直入れますんで。ミゾグチせんせと変えてええですよ」
「助かります。校長代理ではありますが、夜勤はさすがに入れませんので」
「だーれが夜中の仕事を生徒にさせますか。子供は寝るのが仕事でっせ」
「校長代理は仕事ではないと……」
「すんません。手伝ってもろて、ほんますんません。来月以降はミゾグチ先生に引き継ぎさせますんで。今月は手伝ったってください」
「冗談です。お手伝い、嫌いじゃないので」
「んま〜、ええ子〜」
「それじゃ、このあとヨシダくんと自転車を二人乗りして、頑固おじいさん家の庭にねずみ花火を投げ入れる悪戯の約束があるので、この辺りで失礼します」
「お疲れさん〜、って行かせる思たか」
「あのな。悪戯すんなら教師に事前報告いらんから」
「悪戯自体を咎めたりしないと?」
「まだ未遂やし。頭ン中で、やってみよ思うのは自由ですさかいに」
「ヨシダくん、数年前から同じことをしてるって言ってました」
「常習犯やんけ〜、も〜。よし。ヨシダ商店いったら親父さんに告げ口しとこ。夏休み明けにこってり絞りますんで、残りカスしか出んように親父さんもしばいたって下さいネってお願いしよ」
「じゃあヨシダくんの遺志は自分が引き継がねばなりませんね」
「ならんですね。あかんですね。ヨシダをあの世に送らんでください。そして、人ン家に花火投げ込んだらあきません。いくら頑固の石頭いうても、老人を困らせたらあきませんて。え? 爺さんの方も年々対策を重ねて、なんか要塞みたいな庭にしとるん? ほーん。……先生じつは、引き出しに爆竹持ってんねんけど」
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