低重力地区の悪徳市長

ちびまるフォイ

市長による安楽死計画

「市長、リストラ率の上昇により市民が怒り狂っています!」


「なんか仕事をみつろってやれ。仕事を与えれば黙るだろ」


「それが仕事もないんですよ。

 いまや全部AIに取って代わられてしまったんです」


「ええ!?」


「このままでは市民の怒りの矛先が市長に向けられ、

 市長としての職を辞めることになりますよ」


「それは困る! まだ欲しいゴルフクラブだってあるのに!」


市長は瀬戸際に立たされていた。

なんとか市民のために仕事を用意しなくてはならない。

しかしその仕事がない。


「どうしたものか……」


なにかヒントがないかと苦し紛れにテレビをつける。

そこでは真剣な顔で環境学者が解説をしていた。


『現在、地球の重力が日に日に弱くなっています。

 やがてこれまでのような暮らしはできなくなるでしょう』


その時は本気にしていなかったが、

数日後に体重計に乗ってそれが真実だと実感した。


「や、やせてる!! 何もしてないのに!」


食生活もそのまま、運動もしていない。

太る一方でしかないはずの人生だったのに体重は減っていた。


いや体重は減っていない。

重力が減ったのだ。


「本当に重力減っているのか。これはチャンスかもしれない」


市長はそのひらめきを秘書に話した。

もちろん秘書は反対した。


「市長本気ですか!? 1000階建てのビルを建てるなんて!」


「正気も正気だ。これで仕事がなくて暴動していた市民も大人しくなるだろう」


「そうではなく! 1000階建てなんて無理ですよ!!」


「ふふ。今は誰もがそう思うだろうな」


「え?」


「いいか、重力は日に日に弱くなっている。

 ということは、建築をはじめて完成する頃には

 今よりもさらに重力が弱いから1000階建て作っても崩れない」


「しかし安全面は……」


「どうせ重力が減っているんだ。

 落ちたところで軟着陸するだけさ」


こうして人類初の1000階建てビルの建造がはじまった。

これまで仕事にあぶれていた人は、

人類の大型プロジェクトへ喜んで参加した。


ビルが完成する頃には市長のみたて通り、

重力はますます弱くなって1000階建て作っても土台は崩れなかった。


「わっはっは! 最高層のビルができたぞ!!」


「市長すごいです! 観光客が押し寄せています!」


「しぼりとれしぼりとれ!

 高層階には高い入居料でかせぎまくるぞ!」


「いやあさすがは市長。すばらしい先見をお持ちです」


「当然だ。今や車も電車も空をガンガン走ってる。

 一般家庭でも10階建てがデフォだ。

 そんな超高層社会で1000階建ての眺めはそう味わえない」


「しかし、これでプロジェクトが終わってしまうと……アレですね」


「なんだ? 言ってみろ」


「これまでビル建築に関わっていた人は、

 ふたたび仕事にあぶれてしまいますね」


「……」


「……」


「まあ、それは明日の自分がなんとかするだろう! わははは!」


高笑いしていた社長だったが、

翌日には笑えない自体が起きてしまうことになる。



『緊急ニュースです!

 地球の重力減少が急激に加速しました!

 みなさん、どうか外には出ないでください!』



市長はベッドから浮き上がり天井にぶつかって目が覚めた。

テレビでは重力の急速減少ばかりが報道されている。


「なんてことだ……」


窓を見ると、重力が減って空に吸い込まれていく人が見える。


なんとか体を建物にくくりつけるなどして、

浮き上がるのを防いでいる人もいる。


安易に空を飛ぼうと外に出たなら、

たちまち低重力により宇宙空間までひとっとび。


絶望の光景に言葉を失っていると、

背中にジェットパックを背負った秘書がやってきた。


「し、市長!」


「わかってる。この光景だろう!」


「このままでは私達はいつか空に吸い込まれてしまいます」


「そんなこと知っている。それではゴルフクラブはどうなる。

 市民には税金を稼いでもらう必要があるんだぞ!」


「こんな重力じゃゴルフできませんよ!

 どうせボールが空に浮き上がって返ってこないんですから!」


「……そ、それだ!」


「市長?」


「どうしてそのことに気づかなかったのか。

 まったく、どいつもこいつも地上に固執していたから

 こんな簡単なことに気づかなかったんだ」


「なにか思いついたんですか?」


「ああ。市民の仕事を与えて、

 なおかつこれからも地球で暮らせる方法をな!」


ふたたび市長による大型プロジェクトがスタートした。

仕事にあぶれていた人たちを再び呼び戻す。


プロジェクト名は"セカンドアース"プロジェクト。


朝起きたら天井にへばりついていた市長が、

それをヒントに思いついた一大計画。


重力の劇的な減少により空に浮き上がるのであれば、

いっそ空に天井をつけてそれ以上の浮き上がりを防止すればよい。


ますます重力が減少して空に吸い寄せられても、

今度は天井を地面とみたて、天地逆転させればこれからも生活が続けられる。


まさに2つ目の大地をつくろうというプロジェクトだった。


「ようし、区画ごとに製造をはじめろ!

 貧民エリアの地区のプレート製造はあとでもいいぞ。

 奴らどうせ金なんか支払わないからな!」


「市長! 富裕層エリアのプレートができました!」


「では私の自家用車と家をそこに移動させろ!」


表向きは市民を助けるため、と言って始めたプロジェクト。

市民は喜んで空の天井を作る事業に参加した。


数年後、ますます重力が弱まっていくなか

ついに空のプレートは市全体を覆うことができた。


「完成したぞ! まさにここが地球上初のシェルター!

 ここから土地の価格が爆増して大儲けだ!」


「やりましたね! 市長!!」


すべて市長の思惑通りだった。


空に天井をつけたことで、これからどれだけ重力が減っても

天井にへばりつくので空に吸い込まれることはない。


その安心感を求めて国内外からは命の惜しい人間が、

多額のお金をかかえて市にやってきた。


市民にはプレートの拡大工事を延々と続けさせて、

半永久的に仕事が提供捺せ続けられることができた。


市長には「市長勲章」があたえられ、

支持率400%と死後も市長を続けることが求められた。


「どんどん人をこの街に呼べ!

 ガンガン税金を収めさせるんだーー!」


「はい市長!」


空のプレート内側に人間をどんどん呼び込み、

宇宙空間に放り出されないよう人を囲い続けた。



だが、市民もはては移住してきた人もまだ知らない。



重力に引かれているのは見えているものだけではない。

空気だって重力が減ったら空に吸い込まれることを。




やがて、プレート内側の人間たちは

ひとり残らず窒息することになるなんて。

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