第一章 王女救出編
第1話 4年後
ここから、第一章に突入します。
この章では、戦記物というジャンルながらも合戦はなく、出会いと別れをメインとした章としています。
第二章からは本格的に戦が始まってきますので、戦争シーンが見たいよという方はそれまでの更新をお待ちください!
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気が付けば、4年の月日が経っていた。
アルウィンはシュネル流の六種の奥義を全て学びきり、齢は16になっていた。
16歳から、成績次第で王国騎士団に入団できる剣舞祭の出場資格を得られる。
彼の体格は大人と変わらない大きさで、筋骨隆々という言葉が相応しいほどの見た目となっていた。
今や、かつての元気な少年らしい表情は殆ど消えて、凛々しい顔つきの青年そのものである。
ある日の道場。
そこでは、快活な掛け声と共に鮮烈な剣閃が走っていた。
「ははあああっ!!」
アルウィンに上段から斬り掛かる素早い影。
両手に握った木剣から放たれる凄まじいエネルギーに、剣戟を見守る剣士たちが気圧された。
しかし、アルウィンは軽くステップを取り左足をすっと後方へ下げると、半回転しながら相手の剣を子供をあやすかのように軽く防いだ。
すぐさま彼は勢いのまま更に360度身体を回し、その慣性を利用した左下からの斬り上げ、次いで手首を返して右から水平に振り抜く斬撃、今度は逆方向に回転して右上からの斬撃……と、じわじわ相手を壁際に後退させる。
しかし、相手も相応の実力者であることに間違いない。
剣を横に構えてアルウィンの回転斬りをきっちりと防いだ途端に、相手の男は彼に回し蹴りを放ったのである。
「……ッ!」
「イヤアアアアッ!!」
即座に身を反らせて回避したアルウィンに、直線的な軌道で駆け抜け、床に触れてしまいそうな程の低い姿勢から放たれる高速縦斬りのラッシュが襲いかかった。
「……!」
アルウィンは身体を反らせた勢いのまま、剣を持っていない手を支点に後方に回避して距離をとる。
しかし、着地した途端に追撃を仕掛けようとする相手の木剣が眼前に迫ってくることは明白だった。
彼は空中で剣を握る右手に力を込めると空中で振り下ろされる斬撃に一度受け身をとり、身体を回転させて牽制をしながら着地した。
軽く息を吸って頭を落ち着かせるアルウィンに、背後からの上段斬りが迫る。
「セァァァァァァァァッ!!」
振り抜かれるその初速は音よりも早い。
アルウィンは即座にステップを取って、身体を左に捻る。
そして捻った勢いそのまま、下から相手の剣を受け止めていた。
「んんんッ!!」
「せィッ!」
相手は力で押し潰そうと圧を高めていく。
アルウィンは手首を用いてそれを上手く受け流し、きらりと彼の目が光った。
上段から手首のスナップを利かせて不規則な軌道の斬撃を放つ。
「クッ!」
相手はその斬撃を紙一重で防ぎ切るが、アルウィンの攻撃は止まることを知らない。
右腕に持った剣を2回転させると同時に身体を回転させて威力を上げた右上からの回転斬り、次いで左右に相手をいなした後に繰り出された鳩尾を狙った刺突、最上段からの振り下ろし……と、相手の嫌がる位置を狙いながら徐々に崩そうとする。
アルウィンの振り抜くその姿は、まるで獲物に巻きついて絞め殺そうとする大蛇のようであった。
だがしかし相手もさるもの引っ掻くもの。アルウィンが大蛇ならば相手は鷲であった。
アルウィンの斬撃で生じる1秒にも満たない隙に、すぐさま視認することが困難なほどの速さの一手が飛んでくる。
アルウィンはぎりぎり見えるその斬撃を何とか受け切ると、ただちに手首を返しカウンターの回転斬りを放った。
が見事に防がれてしまった。
相手はアルウィンと剣を交錯させた途端、アルウィンに向けて強烈な蹴りを放った。
「シャオラアアアッ!」
「あがっ!!」
足での一撃はアルウィンの右脛の前面に見事命中した。
途端に強烈な痛みが彼の全身を駆け巡る。
鷲が大蛇を叩き落とした。いや、鷲は鷲でもそれはヘビクイワシであったようだ。
アルウィンは急な痛みに左足軸でバックステップを取りながら、痛む足に少し目を向けた。
痛みで上手く力が入らない右足。あと30秒程度は痛みのせいで動きに制限がかかってしまうだろう。
右足に負担をかけぬように30秒耐えきらなければ負けてしまう。
剣を上段に構え、受け流しの姿勢をとる。
左足を軸足として使えば、受け流しのみで耐えきれないこともないだろうと判断しての所作であった。
相手はアルウィンが構えたのを確認し、床を蹴りあげて大きく跳躍。
空中でくるりと回転しながら隕石のごとく落下してアルウィンの頭上に剣を振り下ろす。
「ヴィーゼル流!〝
アルウィンは構えを変え、剣先を真上に向け、鼻先に鍔を近付ける。
「シュネル流!〝
アルウィンは縦に構えたまま相手の剣を受けると、添わせて滑らせながら右下方向に振り抜いた。
相手の剣は見事アルウィンに逸らされ、 アルウィンの右横の空間を切り裂く。
相手が地に着地する瞬間にアルウィンは指先で器用に剣を逆手に持ち替え、犬のように低い前傾姿勢で相手に斬撃を食らわせた。
アルウィンの技である〝
相手は着地した直後であるため安定した姿勢ではなかったが、2撃目の逆手斬りにしっかりと対応して見せた。受けきった後に数歩、逆手斬りの衝撃を殺すために後退する。
蛇と鷲は互いに再度噛み付かんと深く息を吸い込んだ。
アルウィンの足の痛みは次第に引いていっている。もう、十分に戦えそうだ。
「………」
相手の剣はパワーは控えめながらもまったく隙のない高速の一撃である。試合を観戦している並の剣士ならば、その速さに着いていくことは不可能であろう。
見ることすらキツいかもしれない。
さて、相手の隙をどう作るか。どう崩せばよいだろうか。
アルウィンは腰を低くし、攻撃の構えを再度取った。
相手はそれを打ち落とそうと剣を構え、ゆっくりと剣に魔力を注いでゆく。
───ヤバいのが来るッ!
アルウィンが縮地して右腕を動かした途端。
相手も駆け出しながら獲物に魔力を纏わせて迫り来る。
そして、魔力で輝く剣を、到底視認できぬ速さで振り抜いたのであった。
「アルウィンさん、意地でも勝たせてもらうよ!
ヴィーゼル流奥義ッ!〝彗虹の光〟ッ!!!」
腕の動きに合わせて眩い光が空間を斬ってゆく。
その凄まじい剣圧に臆されることなく、アルウィンは突きのモーションを取った。
しかし、その突きの動作は相手への陽動でしかない。
そのモーションから手首を半回転させ、左上から半月型の斬撃を解き放つ。
狙うのは、相手の剣のど真ん中から先端側に15センチほど行ったところだ。
「シュネル流ッ!〝辻風〟ッ!」
アルウィンの剣は、引き寄せられるように相手の木剣に向かっていく。
シュネル流で最も速攻に向いた基本の剣技、〝辻風〟だ。
アルウィンはオルブルの元での研鑽によって、〝辻風〟を予備動作無しで、相手剣士の弱点を的確に狙える程の実力にまで鍛え上げていたのである。
アルウィンにとって相手の剣はあまりにも速く、とても視認が出来るものではなかった。
しかし、相手の剣に込められた凄まじい魔力によって、魔力感知を用いて起動を予測することが出来たために、彼の1番得意とする〝辻風〟に全てを賭けられたのであった。
結果は、果たして……
「ヤァァァァァァァァァッ!!」
「ラァァァァァァァァァァ!!」
2本の剣は、アルウィンの狙い通りの位置で爆発に似た衝撃を放った。
途端に、雷が落ちたかのような激しい音が道場内に轟く。
オルブルは楽しそうに目を細めた。
「……フン。流石は成長したな」
固唾を呑んで静かに見守っていたシュネル流剣聖オルブルは、口元を軽く綻ばせながら「便所に行ってくる」と部屋を後にした。
相手の木剣がくるくると宙を舞い、アルウィンの手元にすとんと落ちる。
勝負は決まった。
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