第23.5話 宗教観と歴史
お疲れ様です。井熊蒼斗です。
本作の世界観についてオマケ程度に軽く書かせていただきました。
適当に読み流しちゃうだけでも、苦手な方は飛ばしちゃっても全然大丈夫です!!
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エヴィゲゥルド王国は南光十字教を国教におく国である。
南光十字教の教えでは、エルフやドワーフなどの亜人種は迫害対象、オーク、オーガ、ゴブリンなどを含む、人と友好的なコミュニケーションを取れるものの〝
〝劣種〟というものは、読んで字の如し。
呪われた子とも言われ、南光十字教の中で〝魔人〟と呼ばれる種族には一定確率で発生してしまう個体である。
劣種は全てが男児として産まれる。
産まれた時から産声をあげないため通常の男児との判別はハッキリつくものの、この劣種は成長しても劣種同士とでしかコミュニケーションが取れず、知能が著しく低いらしい。
けれども、この劣種の恐ろしい点は強力な繁殖力であった。
全てがオス個体であるこの劣種は、同族、他種族関わらず全てのメス個体に発情し、種を植え付けてしまうのだ。もちろん、人間も劣種の発情の対象であるため、無惨に犯される女性は後を絶たない。
更に良くないことは続く。劣種の子種は異種族間でもしっかりと子を成すために、生まれた子は全て劣種となるのだ。
ひとたび劣種が世に解き放たれれば、人間や他種族関わらず女性を襲う可能性のある劣種が次々と増えてしまう。
それを防ぐため、劣種だと判断された個体は産まれたら直ぐに殺されるのが、ゴブリン族やオーク族、オーガ族のしきたりだった。
南光十字教がそういった種族とコミュニケーションが取れるのにも関わらず魔人と呼び、殲滅しようとしたのは劣種の存在が大きかった。
中には自分の産んだ子が劣種であろうと、部族のしきたりを破って育ててしまう親もいた。
そのため、劣種に襲われる事件は枚挙に暇がなく、それもあって人類がゴブリン族、オーク族、オーガ族を忌避する感情は次第に高まっていった。
それを後押ししたのが、南光十字教という存在である。
かつて、ゴブリン族だけの繁栄した王国が大陸南東にあったのだが、南光十字教の信徒によって滅亡させられて、ゴブリン族は四方八方にバラバラとなってしまっていたのだった。
ゴブリン族の大移動とも呼ばれる事件である。
このように、南光十字教の勢力は宗教が出来てから1800年という長い時を経て、他種族を次々と浄化していって、一部地域を除いた魔物の森以南を全て人間の活動領域としたのだった。
今から凡そ140年前までのズィーア村は、
その瘴気を吸った森の魔獣は凶暴化や巨大化をする形質を発現させ、他地域の魔獣よりも遥かに魔力の通りがよい肉体を手にしたのだった。
瘴気は時を経て自然の力に吸い上げられたが、後に罪人流刑地としてこの地に入植者がぽつぽつと現れた。
彼らは家を建て、道を作り、地を耕した。
瘴気を吸った痩せた土地も、耕されて段々と輝きを放つようになって幾星霜。
今は忘れ去られているが、戦争に朽ちて破壊された巨大な城跡が、そのままズィーア村として現在は利用されている。
けれど、そんなズィーア村の面々は頑なに南光十字教を受け入れなかったが故に流された罪人がほとんどであったため、世界創世の神である龍神を信仰していた者が大半だった。
龍神信仰において、龍神のもとに生み出された万物はみな平等であり、人間や亜人種、南光十字教で根絶対象とされる〝魔人〟との間の垣根は存在しないことになっている。
そのためか、村民たちは森の中に住むゴブリン族と交流を行うようになった。
契約を交わし、村で取れた生産物と森で狩られた魔獣の取引をしたり、農繁期はゴブリン属を雇い、農閑期には森の魔獣狩りを手伝うなどの交流を頻繁に行っていたのだ。
現在、アルウィンの家に雇われているラルフは、当初は農繁期に雇われていただけであったが、後に彼の父に召使として雇われるようになったゴブリンである。
南光十字教が国教であるのにも関わらず龍神信仰をしているこの地が存続できている理由は、大きく分けて2つあった。
1つ目は僻地で無価値な土地であったこと。王都からは千マイルも遠く離れており、わざわざそんな地に構う必要が無かったからだ。
もう1つの理由は、一帯の領主であるゴットフリード辺境伯家が南光十字教の穏健派で、龍神信仰にある程度理解があったために黙認されていたからであった。
歴代の領主はズィーア村に南光十字教協会への上納金を免除することを約束しており、信仰を強要しなかった。
アルウィンの曽祖父が政争に敗れてこの地に逃れてきたのも、ヴァルク王国以外の国で唯一龍神信仰が主流となっている土地であることと、ゴットフリード家に庇護を受けていたからである。
アルウィンが龍神信仰と南光十字教との深い確執を知り、覚悟に染まった瞳で白銀の剣を握る日は遥か先のことである。
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