遭難から始まる新世界放浪記

三月男爵

0.過去の再起か、未来の削除か。




 我が国が周辺諸国を統一して五十年が過ぎた。

 

 かつては憎み合っていた他族の者同士たちも、今日は酒を片手に建国記念日を祝い、祭りを楽しんでいる。


 先祖の霊に祈りを捧げる者、今を生きていることに感謝する者、家族との団らんを楽しむ者、日々の疲れを癒やす者、祭事限定の食事を今か今かと待つ者....


 我が国は今まさに栄華を極め、平和を享受していた。



 その時までは。



 《災厄》が唐突に我らの国を襲撃しに現れた。


 アンデッド死に損ない共のように音もなく現れたのも束の間、《災厄》は門兵の首を金属の棒切で跳ね飛ばし、素手で城門を崩壊させた。


 屈強なる我が国の兵士たちは将軍から見習いまで等しくして為す術も無く蹂躙され、《災厄》を中心とした血の湖沼が広がっていく。


 奴らは兵士たちだけでは飽き足らずに、付近にいた我が国民をも殺戮し、街では破壊の限りを尽くしている。


 奴らのうちの一体がふと動きを止めると、何かを呟いた直後に私の居る場所に顔を向け、こちらへと歩み始めた。


 其奴の顔は、残虐な笑みを貼り付けた「絶対悪」そのものであった。


 嗚呼、我が国は今日をもって滅ぶのだろう。

 

 亡き祖父が興したこの国をこちらも今は亡き父から跡を継ぎ、数少ない家臣と共に戰場を走り、争いを調停し、皆で一から築き上げ、この先500年は安泰とさえ言われた我が国は今や風前の灯そのものである。


 今、私を庇い、一人の忠臣が斬殺された。


 彼は、私の師であった。武の道に優れ、時に厳しく時に優しく指導して貰った。弱きを助け悪を砕くを信念とした、素晴らしい人格者であった。


 さらにもう一人、私と奴の間に入り込み、殺された。


 彼は私の足りない知恵を補うどころか、最早私の頭脳そのものである忠臣だった。生まれた場所と時代さえ違えば、彼一人でこの世のあらゆる学問が大幅に発展したであろう。


 そしてもう一人、王として逃げられぬ私を背にして火車にされた。


 彼女は当時忙しい両親に代わって世話をしてくれた育ての親であり、私の最初で最後の叶わぬ恋の相手であった。


 ....きっと、既にこの国で死んでいないのは私だけなのだろう。そして、今から私も殺されるに違いない。


 だが、このままぬけぬけと殺されてやるものか。


 一国の王として、死んでいった国民の仇を討たなければならぬ。


 私を庇って死んだ者たちのためにも、最後に一矢報いなければならぬ。


 決意を胸に、私は懐刀を奴へ突き出す。


「ぶぎぎゃくるぎやぁぁぁぁぁああぁぁっ!(私達を舐めるなぁぁぁぁぁああぁぁっ!)」



 ザンッ....


「ふぅー、今回のゴブリンの集落はやけにデカかったな」


「いくつかの小さい集落を取り込んでデカくなってたんじゃないか?」


「危なかったわね。もう少しで街に進行してきてたかもしれないじゃない」


「確かに、なんかキングっぽいのが奥に一匹居たな。何故か寝たまんまだったど」


「居たのか、キング。そりゃ統率者が居たならこの規模も納得だな」


「C級探索者の私達にゴブリンの集落掃討が依頼されたときは受けるか迷ったっけど、取って正解だったわね。早く討伐証明部位ゴブリンの耳だけ剥いで帰りましょ」


「そうだな。狡した感じが無くはないけど、キングもその配下も倒したんだし俺達Bランクに昇格できるだろうなぁ....って、あれ?キング何処行った?」


「は?ついさっきまでそこの奥に死体が転がってただろ。まさかお前..トドメを指し忘れたな?」


「いやいやいや、しっかり指し....たよな?」


「おいっ何やってんだよお前!」


「いや、俺だけのせいじゃねぇだろ!大体、魔法使いのお前が俯瞰視の魔法で見てたんじゃねぇのかよ!」


「そんな魔力消費馬鹿にならない魔法ずっと使える訳ないじゃない。そんなの、戦闘終了時には切ってるわよ」


「いや、まだ残党が居るかもだしもう少し使っとこうよ....」



 ......なんとか逃げ切れた。


 奴らが会話をしている間に秘宝諸共抜け出せて良かった。


 師よ、敵に背を向けて敗走することをご許しください。この[リスタートの秘宝]さえあれば、また皆を復活させることができるかもしれないのです。


「いたぞ!あそこだ!捕まえろ!」


「むっ⁉奴め、秘宝なんか持って逃げてるぞ!」


 まずい!もう見つかってしまった!


 こうなってしまってはやむを得まい。国を再起するならもう少し森の深いところで使いたかったが....


「ぎふごふ、ごぎぷるぅっっ!

 ([リスタートの秘宝]よ、起動するのだ!」



『―――――《世界再構築ワールド・リクリエイト》を開始します――』


直後、彼らの世界は光りに包まれた。



―――――――――――――――――――――

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