第11話
自分で名付けた「電話事件」が起きてから一週間後。
前回と同じくコリアタウンのカフェで会うことになったサイモン・カーターは、突然こんなことを言い始めた。
「会社が大騒ぎです。」
「なぜですか?」
「作家さんの小説のせいです。」
サイモンの話によると、電話事件以降、編集長を言葉も出なくした高校生作家の作品に興味を持って接触してくる人が現れたらしい。
特に断る理由もなく、他の人の意見に少し興味があったサイモンは『Mother』をコピーして配布した。
そして、私の小説を読んだ記者たちは皆、絶賛を惜しまなかったという。
「みんな、朝出社すると、私に次の話が出たかどうか尋ねるのが日課になっています。」
「なんだか照れますね。」
「ハハ、慣れてください。これからたくさん経験することになるでしょうね。『Mother』は本当に素晴らしい小説です。きっと成功しますよ。」
「そうだといいんですが。」
「もちろん、本作に関して全く言うことがないわけではありません。」
サイモンは姿勢を正して座り直した。
「特に、今他の記者たちがまだ見ていない作品の『結末』についてです。作家さん?」
「はい、記者さん。」
「結末が、当初の計画とはかなり変わったようですね。」
「書いているうちにそうなりました。」
「……確か以前、電話では計画通りに書けばいいとおっしゃっていたようですが。」
「そうでしたか? とにかく、私はこの方が良いと思いましたが、記者さんの意見はどうですか?」
「そうですね。」
サイモンは少し考え込んだ。
彼が考えをまとめている間、私はそっと横を見渡した。
コリアタウンのカフェには、英語の看板の下に「コーヒーショップ」とハングルで書かれていた。
それは母国の言葉と文化を忘れないという意思表示だった。
このような韓国人社会の姿が、他の民族には違和感を与えることも事実だったが、私は仕方がないと思った。
「いくらアメリカに来たとはいえ、それまでの人生を完全に消し去ることはできない。」
これは英語よりもハングルに慣れ、パンよりもご飯が好きな一世代の韓国人移民の姿であり、二世代の私にもその影響が全くないわけではなかった。
だからこそ、すべてを失ったスジが最後に母親を殺す流れが一番自然だと思った。
もちろん、その結末は私が表現したかったものとは実際には正反対だった。
私は現代を生きるアメリカ人にとって未知の領域である「東洋的な恐怖」を見せながらも、スジという主人公の存在を通じて、それが偏見であることを伝えたかった。
それを読む読者が気にするかどうかは別として、私は自分の魂のためにこの文章を書いたからだ。
しかし、偏見は生じた現象に基づいて生まれるものであり、それを無視することはなかった。
「これでいいんだ。」
元々考えていた第一部の結末。
長い間考え込んでいたサイモンの意見はこうだった。
「最高の『ホラー小説』の結末でした。」
「そうでしょう?」
「もともとこの結末を考えていましたか?」
「まったくそのつもりがなかったと言えば嘘になります。最後まで悩みました。」
「決断するきっかけはありましたか?」
「ただ、この小説に想像の余地を残したかったのです。」
母親のような存在になってしまったスジのその後の人生はどうなるのだろうか。
生まれつき与えられた状況からは抜け出せないのだろうか。
しかし、そういった象徴的な部分を置いておいても、この小説を読み終えた読者が気味の悪い感情を抱いたなら、それで十分だった。
「……早く11月が来てほしいですね。」
「ありがとうございます。連載の日時に変更はないですよね?」
「そうだと思います。『あの出来事』から一週間ほど経ちましたが、その間、編集長は何も言っていませんから。」
「ちょっと失礼な質問かもしれませんが、こういうことはよくあるんですか?」
「どのことですか?」
「編集長がこうすることです。」
「ああ、それはそうでもないです。」
「少し驚きました。新聞社のお偉いさんが急に電話をかけてくるなんて、私が何か間違えたのかと思いましたよ。」
「ああ、ああ。そのことなら心配しないでください、作家さん。作品に問題があるわけではありません。」
サイモンは私を落ち着かせるように話し始めた。
結論から言うと、それはありふれた社内政治の一種だった。
サイモンが私の作品の連載開始日である11月6日について考え、大統領選挙に関連して印刷所を増やそうという意見を出したことが発端だった。
レーガンが大統領に当選すれば、右翼系の新聞であるトランス・ニュー・メディアの販売部数は増加せざるを得ないからだ。
「それがなぜ問題になるのですか?」
私はもう少し話を引き出すために質問した。
トランス・ニュー・メディア。
私はレーガンの当選によって急成長するであろうこの新聞社を通じてデビューすることに決めた。
それは、私のデビュー作をできるだけ多くの人に披露するためであり、同時に自分の価値を早く上げ、より良い待遇を得るための作戦でもあった。
サイモンが言うように、私の作品が新聞の売上に影響を与えるほどの人気を得れば、彼らも『Mother』の続編を連載したいと思うだろう。
しかし、前回の電話で、私はそのためにもう一つ必要なものがあることを知った。
「サイモンを通じてトランス・ニュー・メディア内で政治的な駆け引きをすることだな。」
そんな大げさなことまでやる必要があるのかとも思ったが、少なくとも今のようにサイモンが無視される環境では困るのだ。
文化セクションで連載される私の小説がどれだけ人気を集めたとしても、そのページ自体が軽んじられていれば、物事がこじれる可能性があるからだ。
少し悩んでいたサイモンが、突然笑い声をあげた。
「私、そんなに会社でそういうポジションじゃなかったんですよ。」
「どんなポジションですか?」
「いや、作家さんが気にする問題ではありません!」
「サイモンさん。」
私は優しい口調の下に、はっきりとした態度を取った。
「一緒に働く人として知っておきたいです。」
「わ、わざわざですか?」
「今のようなことが続けば、私も困るんです。どうにかして言い合わせて乗り切りましたが、こんなことがまた起こったり、『嘘』がバレたりしたら、お互いに不快じゃありませんか?」
「それはそうですね。」
「私の作品がうまくいくだけでなく、それによってサイモンさんも成功して、編集長が文化セクションに勝手に口を出す問題を防がなければいけませんよね?」
「……うん。」
「私や他の作家たちのためだと思ってください。」
「そう考えることも……あるかもしれませんね。」
目を大きく見開いたサイモンは、ついに自分の内情を話し始めた。
思った通り、彼は会社で良い人だが、都合の良い人として扱われていた。
みんなが無意識のうちにサイモンと文化セクションを軽視しているようだった。
本人は良い小説と良い作家がいればそれでいいという考えだったが、私の意見は少し違っていた。
「良い作家と良い小説をもっと呼び込むには、もっと良いページを作る必要があります。」
「そ、そうですね。」
「そのためにはまず、『Mother』が多くの人に認められることが必要ですね。」
「……何というか。」
「はい?」
「作家さんは本当に掴みどころのない方ですね。」
「え、私がですか?」
「なんというか、その年齢らしい少年のようだったかと思えば、今みたいに非常に鋭いところを突いてくるのを見ると、戦いを経験してきた人のようにも見えます。でも、確かにその通りですね。良い小説をもっと読むためにも、私が作家さんのために一層頑張らなければいけませんね。」
「……。」
私は何とも言えない罪悪感を覚えた。
そう、この男。今の私より年上だが、実際には24歳の青年に過ぎない。
しかも、彼の行動や言葉を見る限り、非常に純粋な人だった。
だからこそ、『Mother』の第二部という武器を隠し持っている立場から、彼がまたすぐに私の言葉を受け入れたことに、何だか欺いているような気がした。
「まあ、お互いウィンウィンになればいいってことで。」
軽く合理化してそれを乗り越え、私は輝くサイモンの目を見つめた。
再び罪悪感が込み上げてきた。
「ふぅ! なんだかやる気が湧いてきましたね! 作家さん、仕事の話に移りましょうか?」
私よりも少年のように笑った彼は、鞄から書類封筒を取り出した。
その中身を確認した私は、思わず微笑んだ。
「ロゴができましたね。」
まさに思い描いていた通りだった。
四種類の絵はすべて、ベールをかぶった女性の姿を描いていたが、角度や顔の露出具合がそれぞれ異なっていた。
さらに、新聞に掲載された際の例も小さな絵で添えられており、様々な角度から検討できるように配慮されていた。
「どれが一番お気に入りですか?」
「全部素晴らしいと思いますが、やはり3番がいいと思います。」
1番の絵は顔を出しすぎていて神秘性が薄れ、4番はほとんど顔を隠していて、顔なのか指なのかがわかりにくかった。
その中間で神秘的な雰囲気を少し強めた3番を選んだ私の意見に、サイモンも同意した。
「私もそう思います。3番にしましょう。」
「こうしてロゴまでできると、本当に実感が湧いてきますね。」
「ハハハ、こちらも確認してみてください。作家さんが手書きで原稿を書かれたものを、私がタイプライターで打ってみました。新聞にはこの書体で作品が掲載されることになります。」
「私の字よりもきれいでいいですね。」
「おや、私はむしろ作家さん特有の手書きで書かれたものの方が、読む感覚が良いと思ったのですが。」
「それはそうですけど、書くときに手が痛いんですよ。少しお金が貯まったら、タイプライターでも買わなければなりませんね。」
「ああ、そうですか。」
頷くサイモンは、何か不思議な微笑みを浮かべていた。
***
そして訪れた1980年11月5日。
夕方早めの時間、私は母と一緒に自宅で大統領選挙の開票放送を見始めた。
古びたソファ、干しブドウをまぶしたポップコーン、そしてブラウン管テレビが、なぜか懐かしい感じを漂わせていた。
カリフォルニアの冬は他の地域に比べると特に寒くはなかったが、それでも夜はかなり冷えるため、暖炉を焚いていた。
おかげで、すでにクリスマスの雰囲気が漂っていた。
「シンよ、誰が勝つと思う?」
「当然、レーガンでしょう。」
「それなら、このお母さんはカーターに一票入れるよ。」
「……どこに投票したんですか?」
「それは秘密。」
微笑む母のTシャツは青色だった。
2000年代以降は互いに色が逆になったが、この時代では、共和党が青、民主党が赤を使っていた。
つまり、母は言葉にせず、どちらに投票したかを私に示していたのだ。
数時間にわたって続く放送。
アメリカの州ごとに分かれた地図の上に、開票が完了した場所ごとに勝った側の色が表示されていった。
アメリカ全土は次第に青く染まっていき、私と母はそれぞれ自分の作業をしながら、時々放送を確認していた。
そんな時、たまに挟まれるコマーシャルが、逆に面白かった。
4人の男がテレビでアメフトを見ている。
すると電話がかかってきた。
トゥルルル、トゥルルル。
[サム、テレビで電話を受けてくれ。]
スペースフォン!
[ああ、くそっ、多分妻だ。デリック! テレビで電話を受けてくれ!]
[冗談だろ?! 俺の上司かもしれないぞ! ヒュービー! お前が電話を受けろ!]
[ええ……まあ。]
ただボタンを一つ押すだけで、座ったまま電話を受けられる!
電話機とテレビを結合する商品、スペースフォン。
当時は電話を受けるために、テレビの前を離れて、電話のある場所まで行かなければならなかった。
その意味で、テレビの前に座ったまま電話を受けたい人には、スペースフォンは本当に優れた選択肢だった。
電話相手の声がテレビから流れ、プライバシーが消えるという点も、このスペースフォンの魅力だった。
「すごいな。」
私は呆れて笑った。
しかし、こんな商品が何の疑問もなく堂々と売られていたのが、この1980年代だった。
その後も続いた開票放送は、レーガンの圧倒的勝利で幕を閉じた。
記憶通りの結果が出て、私は安心し、翌日に備えて早めに眠りについた。
母は、私がトランス・ニュー・メディアで小説を連載することを知った後、すぐに購読を始めた。
だからこそ、翌朝、パジャマ姿のまま外に出て、11月6日号の新聞を確認することができた。
1面は非常にシンプルだった。
[WIN!]
大きな文字、その下には家族と共に満面の笑みを浮かべて手を振るレーガンの姿が見えた。
この記事を書くために、夜通しアメリカ全土で働いたトランス・ニュー・メディアの記者たちの崇高な犠牲に感謝しながら、私はページをめくり、文化セクションを確認した。
『Mother』
そのタイトルが目に入ると、全身に鳥肌が立った。
すべてが私が確認した通りだった。
やや硬い印象のタイプライターのフォント、小さくてもはっきりとわかるロゴ、そして私が書いた小説の内容までも。
それを立ったまま熟読した私は、この事実を最も誇りに思う人に伝えようと振り返ろうとした。
しかしその前に。
「これは何だ?」
私は新聞と一緒に届いた巨大な小包を見て首をかしげた。
特にインターネットで注文したものもないのに、そこに置かれた大きな箱。
住所を確認すると、それはトランス・ニュー・メディアの記者、サイモン・カーターが送ったものだった。
最初に刷り上がった新聞を送ると言っていたが、こんな大きな箱に入れて送る必要があったのだろうか。
もしかすると、この箱を開けたらサイモンが直接現れて、新聞を手渡して消えるのではないか。
そうなら、すぐに契約を解除しなければならないな。
そんな妄想を抱きながら、私はダクトテープを剥がし、箱を開けた。
そして、自分の妄想が作家としての無駄な空想であることに気付いた。
「……Holy mother.」
サイモン・カーターは私にタイプライターを送ってくれたのだ。
それも手動式のスタンダードタイプライターの高級品。作家と記者のためのタイプライター。
通称、『Hard-boiled nine thousand』。
「めっちゃセクシーだな。」
ここが外でなければ、すぐにこの黒いタイプライターとハッピータイムを過ごしたかった。
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