citrus age
菜の夏
prologue
友達に横恋慕された。
「ごめん菜々子、好きな子がいるんだ。別れてくれないかな」
これが十八年間の恋の結末?
あっけなさすぎて、涙もでてきてくれやしない。
◇
練習帰りの電車の中、どうにか空いてる席を見つけられたわたしは、どかんと腰を下ろし、ラケットバッグを抱いてため息をついた。
いつまでこんなこと、つづけなくちゃいけないんだろ。
赤い夕日が斜めに照らす車内はあまりに綺麗で、そのせいで、鼻の奥がつーんとする。
「世の中、いい男なんてゴマンといるよ」
そう言って、同じサークルで親友の千夏は、帰り際、わたしにこの雑誌を押し付けてきた。
暇つぶしに目を通してみた。
「イケメン男子高生、高校別ランキング」
イケメンねぇー。確かにどの子もすごくかっこよくて……何の悩みもなさそう。
それにこれ、ほとんど大学の付属校だ。
大学受験しなくていいんだよね。
そりゃ、小学部受験や中学受験や高校受験、がんばったんだろうけどさ。
こんな授業料高い高校通えるなんて、しょせん金持ちのお坊ちゃま、わたしとは住む世界が違う。
雑誌見ながらため息ついてたら、電車が止まり、開いたドアから男子高生がどやどや乗ってきた。
十人以上いる。なにを浮かれてるのか、みんなしゃべる声が異常に大きい。
この駅で降りた人が座ってた数少ない座席を奪い合い、何人かが車両のはじの一つのブースを占拠する。
その前に立つ男の子たちはつり革に両手でつかまって体重をあずけ、座ってる子にしゃべりかけている。
菓子パン食べている子。ガムかんでいる子。携帯でしゃべっている子。
電車で人に迷惑かけちゃいけませんって、お母さんに習わなかったのかな、この子達。
卒業式だったみたいで、みんな小脇に深緑の筒を持っている。
その筒で頭叩き合ってる人たちもいる。
この制服……、うちの大学の付属校だ。噂どおりのバカまるだし。
卒業式で制服のズボン、腰履きってありえない。ネクタイゆるゆるだし。
こんなのに、親は目の玉飛び出るくらい学費、払ってんの?
うちの大学の付属校、授業料バカ高って聞いたことがある。
大学は並らしいけど。
大学であんまり高い授業料とっちゃうと、優秀だけど貧乏って学生に敬遠されちゃうから。
外部からくる生徒が大学の偏差値を上げてるらしいから。
なんだか、あの子達を見てるとすごく納得できる。
電車のマナー、幼稚園児並みだし。
いやいや幼稚園児はお母さんと乗るから、幼稚園児のほうがまだいい。
うるさすぎ。
浮かれすぎ。
テンション高すぎ!!
この雑誌の子たちみたいに、ぜんっぜん悩みなんてなさそう。
声もデカけりゃ、そろいもそろって、図体もなぜかデカい。
わたしはラケットバッグの上の開いたままの雑誌、イケメン君たちに顔をうずめて、耳をふさいだ。
うるっさい。
うざいっ。
むかつく――!!
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