第10話:麦わら帽子

浜へ行くとき、買い物に行くとき、庭へ洗濯物を干すとき、

必ず被らされる大きな麦わら帽子があった。

つば広で頭の丸い、あご紐のついた、大きな麦わら帽子。

子供たちには少し大きすぎて、煩わしかった。


それは裏口の、洗濯機の置かれた棚の上に、何個か重ねて置かれていた。


三浦海岸の家を最後に訪れた日、その裏口から家を出た。

ドアを閉めるとき、私が最後に見たものは、その麦わら帽子だった。


大きくなって、そういえばあれから何十年も、被ることはなかったが、

かつて太陽を浴びたその麦わら帽子は、ずっとそこにあり続けた。

大きすぎることも、煩わしく感じることも、もうないのだろう。


「暑いから、帽子をかぶっていきなさい」

祖父母の声が、静かにそっと、懐かしい。

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三浦海岸ものがたり 花尾歌さあと @atoryo

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