裏スキル『密会』を使いヒロイン達を堕落させてたら、勝手にハーレムが出来上がっていたので、魔王は後回しで好き勝手やります

テルト

第一章

第一話 プロローグ


 

 SNS上で一件の呟きが投稿された。


 主に『ディルナッド戦記』というゲームの攻略情報を投稿しているアカウントで、一部の信者から絶大な支持を受けている人気ユーザーだ。


 そんな彼の発信した情報は、ゲームの攻略が非常に楽になると言われる、裏スキルの取得方法である。


 書かれている手順に関して言及するならば、この裏技は簡単に実行できるモノではない。


 何故なら、ラスボスである魔王との決戦直前までストーリーを進める必要があるからだ。



 ————誰がやるんだよこれ。



 呟きに付けられた返信には、信憑性を疑う声や、常軌を逸した人間にしかできない、といった声が多数見受けられる。


 信者達でさえ躊躇してしまう、裏スキル取得手順はこうだ————。




 ◇




 ①ラスボス手前でセーブを行う。

 ②魔王に話しかけて、戦闘が始まる前にデータを削除する

 ③新規で冒険をスタートさせる。


 上記の手順を踏むと、初っ端から究極の裏スキルで簡単に攻略できます。無双できます。ハーレム出来上がります。是非皆さんも試して下さいね。ちなみに僕は少女百人斬り達成!




 ◇




 最後の文言は無視して構わない。


 まあ要するに、今まで費やした努力がラスボス手前で水泡に帰す。せめてラスボスを倒すまで行かせてほしい。



 ————それやるのお前ぐらいだろ! ニート乙!



 普段の人気とは裏腹に批判が殺到している状況。そりゃそうだ。自ら進んでデータを消し去るなど愚の骨頂である。


 誰もやりたがらない都市伝説じみた投稿は結局埋もれてしまい、ネットの海へと消え去ったのだった————。




 ◆◆




『ディルナッド戦記』


 ゲーム界隈でも一部の信者に重宝されている隠れ人気タイトルだ。売上こそ伸び悩んだものの、動画配信者に取り上げられるほどにコアなファンを獲得している。


 気になるゲームの大雑把な概要なんだが、主人公が育成した数多の美少女を引き連れて、ラスボスである魔王討伐を目指すといった内容だ。


 ジャンルとしては、育成シミュレーションRPGに分類される。主人公が直接戦うことは基本ない。


 一見ありふれたRPGではあるが、個性豊かな美少女の育成と、シミュレーションによる多彩な選択肢によって、様々な展開が盛り込まれており、萌え豚ユーザーから非常に親しまれている。


 実は、魔王討伐を最終目標にするプレイヤーは少ない。お気に入りの少女を集中的に育成して反応を楽しむだとか、親密な関係になるような選択肢をひたすら選ぶとか、疑似恋愛の感覚でプレイする人間が多いからだ。


 現実では決して叶わない男の欲望が詰まった、萌え豚ご用達、現実逃避の究極ともいえる至高の一品となっている。




 そして、俺がこのゲームに心血を注いで調教してきた美少女達。育成に掛けた期間は5000時間を有に超えているだろう。


 絆を深めてきた少女達と切磋琢磨して、魔王を討伐することこそ至高。ただイチャイチャするだけの下品な人間にはなりたくないんだ。


 とはいえ、このキャラだけは別格。苦労して育て上げた推しキャラ、エリシアちゃんだ。彼女の笑顔を見る度に、病み切った心が洗われていく。


 そんな俺は、今まさにゲーム内の魔王の元へと辿り着いたのだった。




 ◇




 さあ魔王との決戦直前。


「彼女らと共に、やっとここまで辿り着いた。長く険しい道のりだったな」


 ゲームの主人公である勇者テルトと、美少女達が織りなす最終決戦が始まろうとしていた————。


「うん。とりあえずセーブ・・・だけはしておこう」


 悠然と立ちはだかる魔王。


『ようやくここまで辿り着いたかテルトよ。多くの美少女を育て上げたようだが、我の力の前では全てが無意味である!』


 勇者テルトは声高らかに宣言する。


『俺達は決して諦めない! お前を必ず倒して世界を救ってみせる!』


 舞台は整った。手に汗握る魔王とのバトル。世界の命運を掛けた大いなる戦いが幕を開ける。


「準備は完璧だ。このメンバーならきっとやれる。何たって愛しのエリシアちゃんがパーティに居るんだからな!」


 自信満々で魔王に話しかけた直後、現実世界の母ちゃんが催促してきた。




 ◇




「拓ちゃん! アンタいつになったら就職するつもり? ゲームばかりやってないで活動しなさい!」


 完全にゲームにのめり込んでいた俺は、母親の大声により突如として現実世界に引き戻された。


「わかってる! 明日から頑張るから!」




 高校を卒業してから自堕落な生活を送り、実家で毎日ゲーム画面と睨めっこしている俺のプロフィールは、小森拓郎21歳独身フリーター、彼女いない歴=年齢。


 ゲーム世界にのめり込んでから早三年。明日こそはと先延ばし続けた結果、人生の貴重な時間を棒に振ってきた。


 母ちゃんは、一向に就職意欲を見せない俺に嫌気が差しているのだろう。


「ちっ……邪魔が入っちゃったな。一旦休憩挟むか」


 興が削がれた俺は、画面を付けっぱなしにした状態で、自販機に飲み物を買いに行ってしまった。


 安易に自室を離れ、電源を切らなかったが故に、あんな悲惨な結末を迎えるとは誰が想像しただろうか……。




 ◇




 出先から帰宅した俺は、大好きなコーラを片手に改めてゲームを起動する。


「あれ? 俺電源消したっけ?」


 確か電源を消さず、テレビを付けたまま外出したと記憶している。


 言いようのない違和感を覚えるも、深く考えることもなく、ゲームを起動してコンテニューを押した————。



【New Game】

【→Continue】



『データが存在しません』


 連打————。


『データが存在しません』


 連打連打————。


『データが存在しません』


「……」


 俺の血と汗と涙の結晶とも言えるデータを母親に消された。


 ゲーム本体が若干動かされているのが一目で分かり、本体の裏側にある一括データ削除ボタンを押されてしまったのだ。


 数々のヒロイン達との思い出が一瞬で塵となる。頭の中が真っ白になると同時に、口から大量の鮮血を吐き散らかした。おそらく極度の精神的苦痛によって胃に穴が空いたのだろう。


 吐血が止まらず、声を上げることもままならない危機的状況。徐々に視界が暗くなっていき、静かに意識を失っていった————。


「エリシアちゃんとのグッドエンディング……見たかったな」


————。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る