2025年2月29日に僕は死ぬ
@jinkaoru
第1話 10月6日
2025年2月29日に僕は死ぬことにした。
理由は簡単だ。
何もかもに疲れたからだ。
これを読んでいる人は、何だそりゃと思ったかもしれない。実にくだらないで陳腐な理由と思ったに違いない。そして僕が本気で死のうと思ってないと感じたに違いない。
一歩間違えたら、甘えるなだとか、世の中にはもっと大変な人がいるだとか、辛さ自慢警察みたいな人が沸いて出て、物知り顔で僕を諭すのかも知れない。
それでも構わない。
もう一度言おう。
疲れた。何もかも。
この日本で1日にどれだけこの手の言葉が発せられてるだろう。
カラスの鳴き声、車のクラクション、コンビニの入店の音、スマホのバイブ、電車で隣に座った脂っぽい男のため息……。それくらい、現代のどこでも聞ける音の一つにすぎない。
それくらいこの国は、息苦しくて、行き詰まっていて、それを誰も大ごとに感じないくらいには末期だ。
そんなこの国に、僕なんか比べ物にならないくらいもっと深刻な人がいるのも分かっている。
1日1日を生き永らえようと必死に命を繋いでいる人がいる。身体的にか、経済的にか、はたまた社会的にか、死が身近にあって苦しんでいる人がいる。
そんな人から見た僕なんて、きっと憎まれるくらい恵まれているのだろう。
それは一般的に見たらの話で、当事者となった今、僕にも分かる。
人間一人のキャパシティは、周りと比べられるものではないし、比べて良いものではない。
大きな決断をするタイミングも、きっかけも、みんな違う。
それらが優れてるとか、劣っているとか、正しいとか、間違っているとかそういう評価をできるものでもない。
みんながみんな、綱渡りをしている。
生(せい)という、1本のロープの上を渡っている。
短い、長い、細い、太い、人それぞれ違うのだろう。
一つだけ全員同じなのは、「絶対に立ち止まってはいけない」ということだ。
「情緒」という得体の知れないもので、ミリ単位の均衡を保ちながら歩くのだ。
ヤジロベエみたいなそれは、グラグラと右に左に、明るい場所と暗い場所を行ったり来たりする。最後は中心に戻って安定するのだが、中心に戻ってこれないと均衡を失うことになる。
休憩場所なんて無く、情緒を安定させながら、ロープの端っこまでひた歩くゲームに興じるのだ。
今までそんな狂ったゲームに参加していたことにすら気づけなかったのだから、どうかしている。
世の中ではそんな人々を、普通とか、正常とか、まともとかいう名で呼んでいる。
甘えるな?
世の中にはもっと不幸な人がいる?
思い詰めないで?
今は辛いけどいつか楽になるよ?
まともな人が、僕みたいな人間に上から投げつけてくる言葉。
そんな言葉は意味をなさないし、理解とは対極の位置にあるのを、彼らは知らない。
とにかく、僕はそのゲームをやめることに決めた。
ゲームをやめる日は、2025年の2月29日。
その「やめ方」も、もう決まっている。
それまでに、僕が生きたことへの清算はしておきたい。
そして、僕の命でもって、あの女に復讐を果たすのだ。
当日までの物語を、出来るだけここに記していこうと思う。
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