私と先生

みみっく

1話 空き教室

 私と先生は付き合っている。誰にも知られてはいけないのがツライ……

 誰にも自慢も出来なければ、相談もできない。


 最近、初めて知ったことがある。どうやら私は、結構なヤキモチ妬きなようで……先生と仲良くしている女子を見掛けると胸の奥が熱くなりイライラしてくる。


 それが今、目の前で起きている。授業の合間の短い5分休みの時間に、私の先生に女子が群がっている。


 なに? 先生、デレデレしちゃって……ふん。最悪……このまま皆の前で抱きついちゃおうかな……


 実際には、先生はデレデレなんてしていないんだけど。イラッとするから仕方がない。


 昼休みに空き教室で、勉強を教わるフリをしている。

 机にノートと教科書を広げ、シャーペンを持ち話をする事が唯一の二人だけの時間だ。


「ねぇ……いっつも、女の子に囲まれてるよねぇ」



 つい、思い出して文句を言いたくなった。先生のせいじゃないと分かってはいるけど……


 

「それは、俺のせいじゃないから仕方ないだろ……。邪魔だ、近づくな。とも言えないしな。これでも教師で担任なんでな」


「そうですか~じゃあ、別れちゃう?」



 思ってもいない事を口に出してしまった。別れたいなんて思ってもいない。先生の反応を見たかっただけだ。これで「分かった」なんて言われたら終わりで、言ってから後悔をした。


 

「それは……嫌だ。ヒマリは、別れたくなったのか?」



 嫌だと直ぐに言われてホッとして嬉しくなった。でも、このままの関係を続けていくのは、実際は嫌かな。もっと恋人らしいことをしたいかな。


 

「違うけど……。私達って付き合ってるんだよね?」


「付き合ってると思ってるぞ、俺は」


「だったらさ、二人っきりで会おうよ!」


「そう言われてもな……」



 先生が困った表情になった。


 そんなに困る事なの? 二人で一緒に過ごすのって困ることなの? 学校だから? 難しいかぁ……

 

 

「分かった。もう、いい……大丈夫」


「あ、うん。ゴメンな」


「ここ学校だしね」



 気不味い雰囲気が流れ、お互いに目を逸らしていると。ガラガラと教室の扉が開き、クラスの女子生徒が入ってきた。


「先生ー、ここに居たぁ! 探したんだよー」


「あー悪い。悪い! 探してたって何だ?」


「男子がさー、教室で暴れてるのっ。どうにかして〜」


「悪いな、ちょっと見てくるな」



 先生が気不味そうに簡単に謝ると、教室を出ていった。


 はいはい。いつもの事ですよね〜! どうせ私なんて本気で相手にしてもらえるわけ無いかぁ……。手さえ握ってもらって無いんだし。


 それから数日は、先生と目を合わせる事も会うこともなく過ごしていた。


 そんな時に、先生が人通りの少ない廊下で、向かいから歩いてくる。私は、気不味くて先生から目を逸し、俯きながら歩いた。だが先生の視線を感じる……

 

 もう、放って置いてくれないかなぁ。やっと忘れたというか、気にならなくなってきたのに。


 先生が近付いてくると、進行方向に立ちふさがると声を掛けられた。


 

「ヒマリっ! ちょっと……待ってくれ! おい……って」


「なんですか? 私に何か用ですか?」



 平静を装い、冷たい感じで目も合わせずに返事を返した。


 

「何かって……。空き教室にも来てくれないじゃないか?」



 私の態度にムスッとした声で、先生が返事を返してきた。


 空き教室に行っても、どうせ邪魔が入るし……。大した話も出来ないし、恋人同士って会話じゃないし。先生とこんな関係を続けていても、イライラしてストレスが溜まるだけだよね。ハッキリ言ってメリット無いじゃん……。あるとすれば……イケメンの先生と話せて、少しだけ特別扱いをされて、少しだけ二人っきりで話しが出来るって事だけだよね。

  


「空き教室に行っても……良い事がないんで、行くのを止めました。それだけなら急いでるんで……失礼します」


「そ、それって……別れるって事か? なぁ……」


「……こんな関係は、付き合ってるとは言いません。ただの仲の良い生徒と先生が、空き教室でお話をしているだけじゃないですか」



 思わず先生の発言に反応してしまい、先生の顔を見つめてしまい、強く言い返してしまった。私の中では、もう終わってる関係だし……嫌われても、怒ったとしても別に良いかな、終わった関係だし。

 


「それは……」



 先生は困った表情というよりは、慌てている様子だ。

 こんな私の発言に、慌てているの? 先生なら他にも可愛い女子生徒が付きまとって来てるじゃん。



「せんせーい! 男子が花瓶を割って、逃げたよー」



 いつもならイラッとする場面だけど、今回は助かったかな! ナイスタイミングだよ。



「お忙しそうなので、私は失礼します……サヨウナラ! 先生」


「ちょ、ちょっと待ってくれ……ヒマリ」



 先生が私に声を掛けるが、女子生徒が駆け寄ってきていたので、話を続けられる訳もない。私は先生を避け、その場を去った。


 悪いという罪悪感も無ければ、終わった……という寂しい気持ちもなかった。逆に、関係を終わらせられてスッキリとした気分になった。


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